第12話 食堂にて

 高校の昼休みはその生徒の交友関係が顕著に現れると言っても過言ではない。


「はあ、今日もクラスの子と一緒にお弁当食べれないなぁ……わいわいと色々なことお話ししたいのに……」


 午前の授業を全て終えた鐘の音が響き渡る。

 この瞬間、教室の扉が勢いよく開いて購買へダッシュする生徒たちや、広々とした学園都市のカフェテラスや食堂に友達同士で食べに行く話をしたり、教室でお弁当を食べる生徒など、生徒たちは自由に動く。

 教室の隅でポツンとお弁当を取り出すセンフィ。彼女はなるべく態度には出さないようにしていたが、その心細さだけはやはり隠せなかった。


「センフィ。食堂で食べよ! 寝坊しちゃって、お弁当作ってこなかったのよ」

「アスラ!」


 そんな彼女に唯一話しかけるのは、勇者一味のバトルマスターである、神城アスラ。

 夕焼けの様なオレンジ色の髪の毛をポニーテイルにして、子供のようにニッと笑う。


「う、うん。いこっ! お腹すいたねー」

「センフィはお弁当? あ~、なんか良い匂い」

「うん。ちょっと作りすぎたから、アスラもちょっと食べてよね」

「はいはい、ハジャのためにいっぱい作りましたと」

「ええッ! そそ、そんなんじゃなくて、みんなと」

「はいはいはいはい」

「う、うー、なんかイジワルだよ」


 センフィは孤独というわけではない。

 いつも勇者一味が彼女に気を使って、一人にしないように連れ回している。

 センフィがこの学園でなんとかやっていけるのも、彼らのおかげでもあった。

 しかし逆に言えば、彼ら以外に友と呼べる者が居ないのも事実であった。


「ねー、アスラ、光華ちゃんは?」

「すぐ来るんじゃない? あの不良魔族の様子を見に行ってってハジャに頼まれたみたい。ハジャの言うことは何でも聞くからねー、あの子は」

「ハジャも大変だね。アスラと私に囲まれ、光華ちゃんもハジャ以上の男の人が現れない限り、お嫁にも行かないだろうしね」

「センフィ! 何で私まで入って、そりゃあ、ハジャとは幼馴染だし心配だけど……」

「え、そうなの? アスラがそう言っちゃうんだったら、私は遠慮しないよ?」

「うっ……」

「私、もっと、くっついちゃうよ?」

「あー、分かった分かった、降参よ」

「えへへ、じゃあ、私たち、お揃いだね」

「う~、は~……まったく、なーんで私達ってばあんな男に振り回されるのかしら。あーあ、ハジャ以上の男って居ないのかしら? 居たらすぐに恋人つくっちゃうのに」

「あはは、それはハジャ以外とは結ばれたくないと言っているようなものだよ?」

「まったく、近頃の男どもってなにやってんのかしら。根性ないから女はみーんな、あいつに行っちゃうんだから」

「ハジャ以上の男の人って……無理じゃないかな?」

「っていうか、センフィ。そもそも朝の不良魔族……アレって本当に何なの? まさか元カレとかじゃ……ないわよね?」

「ち、違うよ! 仲良かった友達だよ……うん……」

「ほんと~かしら?」

「む~、ほんとだよ~」


 勇者一味と魔王の娘。そうとは思わせぬほど何気ない会話で盛り上がる少女たち。

 一度戦いから離れれば彼女たちとてただの女子高生なのだ。

 普通に学校に行き、弁当を食べ、恋をする。センフィも、額から角が生えている魔族というだけで、学校に通えば普通の高校生なのだ。


「彼はああいう人だから……あんまり私が姫とかそういうこと気にしないで接してくれたから……私が知らなかったことも色々教えてくれたし……うん、私は友達だと思ってるし……彼もそう思ってると……イジワルなところもあるけどね」

「へ~……単純に礼儀知らずなだけのような気もするけど……ってか、知らないことを教えてくれたって何よ? まさか、悪い遊びじゃないわよね?」

「わ、悪い遊びじゃないもん! ちょっと、エッ……あ……え、え~と……」

「ちょ、何で目を逸らすの? え、まさか本当に何か悪いことを?」

「ち、違う違う、世間知らずな私に……そのぉ……そのぉ……」


 恥ずかしいことに対しては素直に顔を赤くしてモジモジとしたり、


(う~、どうしよう……エッチな本とか、えーぶいとか、私が普段見ることのできないものをいっぱい見せてもらったり……『やり方』とか教えてもらったのは内緒にしないと……もし、ハジャに知られて誤解されたら、私がただの淫乱な女の子だって思われちゃうし……) 


 思春期ならではのことに興味を持ったり、頭を悩ませたりする。

 だが、それでも目に見えない壁が立ちはだかるのだ。


「そーいえばさ、センフィ……そのさ……学校……楽しい?」

「どうしたの、そんな顔して」

「う、うん。そのさ……私たちの戦いが終わってさ……魔王も倒してさ、あのお人よしの勇者が魔族と人間の調和を提案してからもう1年以上たつけどさ……なんかまだ見えない壁っていうかさ、私達はこうして普通に友達なのに、みんなはセンフィのことを避けてる気がしてさ……センフィは、人間界の学校に来て後悔してるんじゃないかって……」

「後悔? そんなのしてないよ。……でも、皆が今は居てくれるけど、いつかもっと友達が欲しいなって思うよ」


 急にしんみりとした話になり、沈黙する。

 だが、彼女たちの掲げた夢は、意外なところで進展しようとしていたのだった。


(そう……堂々とエッチなお話できる友達が欲しいよぉ……なんだかんだで私がエッチなお話とかで盛り上がれたのって……レオン君が最初で最後だったんだよなぁ……)


 センフィの本音は別にして……

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