第27話 足と拳
「手を貸すか?」
「ハルト……女のパンツ見たのか?」
「カララ、その必要はねえよ。あと、オルガ、いい加減お前らと一緒に居すぎてパンツくらいじゃ何とも感じねーよ」
相手が女でも関係ない。潰す。
ハルトはカイめがけて走り出す。
その瞳に相手を気遣う心など一切見られない。
「待ちなさいバカハルト!」
アスラも流石にまずいと思って声を張り上げるが、ハルトに聞く耳は無い。
「レオンくん! ダメ! ケンカはダメって言ったじゃない!」
センフィの声すら届いていない。
ハルトは握った拳でカイの顔面めがけて振り抜こうとする。
ただ、カイはどこか不敵に笑った。
(こいつ……バカだけど……使えるかもな……)
何かを考えながら、カイは向かってくるハルトに向かってカウンターを仕掛けようとした。
「その喧嘩、それまでだ」
しかし、
「テメエは!」
「ハルト。女性の顔を殴るなんて行為は、さすがに見過ごすわけにはいかないな」
ハジャだ。
ハジャはカイとハルトの間に割って入り、ハルトの拳を軽々と受け止めた。
「さ、さすがハジャ!」
「うう~危なかった~」
ハジャがようやく動いたことに、クラス中が安堵に包まれる。
それほどまでの信頼感をハジャは持たれていた。
「おい、そこをどけよ、クソ勇者」
だが、そんなのは関係ないとばかりにハルトはハジャに向かって強い態度で出る。
「そうはいかない。確かに最初はカイが悪かった。ただ、彼女も武闘派だからお互いを知りあうためには多少の拳の語らいも必要と思って黙っていた。しかし、これ以上は――」
言いかけていたハジャだが、その瞬間に身を低くして何かから身をかわした。
それはハジャの背後から後頭部めがけて放ったカイの蹴りだった。
「私も気に食わない。ハーレム気取りのフェミニストが、人のケンカに出しゃばんじゃないよ」
「カイ……」
「男だ女だ関係ねーんだよ。テメエの生温い主義を私たちに押し付けんじゃないよ!」
カイもまた、途中介入されて憤っているようだ。二人はイラついた表情でハジャを睨む。しかし、当のハジャは顔色一つ崩さない。
「ならば授業が始まる。そして教室内でのケンカは他の人たちに迷惑だ。だから止めたという理由はどうかな」
ハジャはまるで挑発するかのような笑みを浮かべて言う。だが、それが二人の逆鱗に触れた。
「クソ勇者が!」
「アンタは昔からイラつくんだよォ!」
別に二人は示し合わせたわけではない。しかしこの瞬間、二人はまったく同じタイミングで拳と蹴りをハジャに向かって放つ。再びクラスに悲鳴が響き渡る。しかし勇者が軽くため息をつき、目を大きく見開いた瞬間に、全ては終わった。
「なっ……」
「うっ……」
ハルトとカイは息が詰まった。二人の顔面ギリギリのところに、ハジャの掌があった。
それはまったく反応することすらできない寸止め。
そして冷たい汗の止まらぬ二人に対して、ハジャニコリと笑って二人の両肩を軽く叩く。
「さあ、ケンカはお終いだ。授業がもう始まるぞ。二人とも席に着こうじゃないか」
その言葉でクラスには歓声と安堵と黄色い声援が巻き起こった。
「すごーい! さっすが、ハジャだね!」
「やっぱあいつには敵わないわねー」
「やっぱハジャ君ってカッコいいな!」
「ハジャ君が居れば安心だよねー」
ハルトはそのまま何事も無かったかのように着席するハジャの姿を見ながら、己の拳を強く握りしめた。その感情は怒りではなかった。
(こいつ……なんなんだ? 魔界の不良たちはいつでも相手をぶっ殺すっていう威圧感が籠っていた。だが、こいつは……まるで全てを包むかのような……)
いつもならナメやがってと飛びかかるハルトは何もできなかった。
(こいつ……やっぱ本物かよ……)
ハジャはやはり違う。カイも確かに強いが、ハジャの力は強さ以外にも別の何かがあると感じ取れた。
「ちっ……ウゼエな、クソガァ!」
だが、ハルトとて意地があった。このまま黙って大人しく自分の席に座ることなどできず、ハルトは乱暴に自分の机を蹴り飛ばしながら、教室から出る。
「ちょっ、レオンくん!」
「バカハルト! もう授業始まるわよ!」
「サボる!」
ハルトはイラつきながら転校初日初回の授業を欠席するのであった。
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