第25話 4人の魔族

「朝から疲れたぜ……」

「余は満足」

「私も」

「あは、あはははは~……」


 色々あって疲れたハルトと、満足そうなオルガとカララとセンフィ。

 そう、朝から色々とあり、ようやく一息ついてから、身支度を整えていた。


「って、あれ? 今更だけど……確か、三人それぞれにアパートの部屋が与えられたんだよね? 何で一緒に居……って、よく考えたら六畳間って聞いてたけど、何でこの部屋こんなに広いの?」

「「「壁を壊して一つの部屋にした」」」

「えっ、そうなの? ああ、だからこの部屋は玄関が三つもあって……って、ダメに決まってるじゃない! ここ、借りてる部屋なんだよ? それを勝手に壊して他の部屋と合体させちゃうとか、何考えてるの!」

「オルガとカララが壊した」

「ハルトとカララが壊した」

「ハルトとオルガが壊した」

「まずいよー! フツー、魔族ってだけで部屋もなかなか借りれない中で、急な引越しにもかかわらずにハジャたちが必死にここを探して来てくれたのに、何でそんなことしちゃうの!」

「そーだよな、勇者の野郎。金持ち高校なんだろうから、もっとマシな場所を紹介しろってんだよ」

「ああ。トイレの共同も嫌だ。テレビも欲しいな」

「そうか? 余は好きだぞ? 何だか新婚みたいで。例え物置みたいな部屋でも住めば都」

「ガキの頃からデケー城に住んでたブルジョワ姫とは思えねえ言葉だな」

「何を言う! 家族と向かい合って食事をするありがたみが分からぬのか!」

「狭すぎる。私は嫌だ」

「話をちゃんと聞きなさーい!」


 ちゃぶ台を力強く叩くセンフィ。

 しかし、魔界の姫という権力相手にまったく動じずに我が道を行き過ぎる三人に、センフィは自信を無くしてテーブルに突っ伏した。


「う~、レオンくんが三人に増えたみたいだよ~」

「別に俺に似たわけじゃねえ。俺たちのチームに入ったら、みんなそうなっちまうのさ」

「ほんとーだよ、昔より手がつけられなくなっちゃって」

「まあ、色々あったんだよ」

「ぶ~……あっ、それでレオンくんって、二人のどっちと付き合ってるの?」

「ん? いや? 二人とも恋人だぞ」

「あ~……そうなんだ……」

「んだよ?」

「別にぃ……私は戦争中も戦争の後も色々と忙しくて恋人一人も作れてないのに、レオンくんは恋人二人も作ってイチャイチャしてるんだ~って……」

「ちなみに、昨日もう一人彼女が増えた」

「ほえ? え!? 昨日!? なにそれ!?」


 自分と違って青春しているハルトを少し羨ましいと思ってるのか、唇を尖らせて怒るセンフィ。

 すると、二人のやりとりを、どこか仲良さそうに見えたのか、オルガが少し拗ねた感じで割ってはいる。


「ん~、センフィ姫はハルトとクラスメートだったのだな。羨ましいの」

「そうですよ。えっと、オルガさんはレオンくんとはいつ頃?」

「ハルトが中学をやめて、ニトロクルセイダーズに入った直後だ。丁度その頃に、国が滅んだのでな」

「あっ、そういえば……って、私とオルガさん、小さい頃に魔界の王族のパーティーで会ったことあるんですよ? 覚えてませんか?」

「覚えとらんな。姫として生きていた頃は嫌なことばかりで、忘れたいことばかりだったな」

「うわ、ひどい。でも、そうですか……うん、そうですよね。確かに、あの頃のオルガさんは感情のない機械みたいな人で、挨拶も談笑も最低限のことしかしませんでしたからね」

「そうであろうな。どこに行っても忌み嫌われたので、なるべく誰ともかかわらぬように努めたから」

「そうだったんですか。でも、だから昨日オルガさんを見たとき、同一人物とは思わなかったですよ。だって、すごいイキイキとしていましたから」

「ふふふ、恋をすれば女は最強になるのだ」


 幸せそうに、そして誇らしげに語るオルガ。ハルトは少し恥ずかしいのか、味噌汁を飲む動作で顔を隠した。

 センフィも最初は色々と怒ったが、今のオルガの幸せそうな表情から自然と笑顔になった。

 ハルトは余計に恥ずかしくなり、さっさと話題を変えようと、話を強引に切り替えた。


「おい、ガールズトークはそこまでにして、今日からまたオメーと同じクラスになるのか?」

「あっ、うん、そうだよ。三人とも私やハジャとアスラと同じクラスで今日から白皇高校の二年生。光華ちゃんとアンシアさんは学年が違うけど」

「そういえば余は、人間界の高校など、本の中でしか知らんぞ?」

「私もだ。だが、マンガによれば人間界の高校とは相当に荒れているようだがな」

 

 カララは腕組んで神妙な顔をする。


「他校との喧嘩が日常茶飯事で、あるところでは童貞と処女がイラつく恋愛ごっこをして、乳を揉んだとか、パンツを見ただと騒がしい生活だろ?」

「まー、そりゃ漫画だろ? 俺も昨日、チラッと学園の中を探検したけど意外に普通だぞ?」

「そう、フツーだよ! 魔界と変わらないよ!」

「そう言われても、私たちは魔界の高校にも通ってないぞ?」

「そ、そうであったな。余もすっかり、教育は停滞しており、義務教育も半端にしかこなしておらんぞ」 


 だが、それほど心配する必要もなく、実際三人に不安はない。どちらかと言うと、ハラハラしているのはセンフィだけ。

 特に人間界の高校へ通うからといって、身構えることはない。


「まあ、フツーにしてくれれば、多分大丈夫……かな? 人間界の学校がどういうものかは、行ってみれば分かるよ」

「ふっ、おもしれーじゃねーか。勉強は苦手だが、喧嘩と非行は俺たちの得意科目だ。未知の場所だろうととりあえず……」

「うむ、初めが肝心だからの」

「そうだな。ナメられないようにしなくてはな」

「ちょっ、喧嘩じゃないよね? 喧嘩はしちゃダメだよ? 絶対にダメだからね?」


 やることは決まった。まずはビシッと一発決める必要がある。こういう時ばかり、三人は恐ろしい程に意見が一致する。


「おっしゃあ、ごちさん!」

「うまかった」

「じゃあ片付けをしたら行くかの! あっ、弁当も用意した」


 最初は体が重かったが、今は違う。少しだけ楽しみだった。


「ねえ、みんなも制服あるんだよね? 早く着てみて着てみて♪」

「くはははは、これかー、勇者が持ってきたセーフク。学ラン!」

「むっ、ブレザー……噂のセーラー服ではないのか……つまらん」

「余は好きだな、この制服。めんこい……どうせなら、スカートはもう少し短くしておくか」

「カララちゃん、ここ、曲がってるよ、おいで」

「スカート……ヒラヒラする……嫌いだ。下にハーフジャージ履く」

「たわけえ! カララよ、余は悲しいぞ! それだけは絶対にやってはならんのだぞ! 余のように、女子はスカートはここまで短く!」


 充てがわれたおろしたての制服に身を通して、ハルトたちは行く。

 人間界の朝早い通学路。

 出勤中のサラリーマンや子供を送る母親や、通学途中の学生たちは、皆が足を止めていた。

 車も信号が赤でもないのに止まっている。

 人間界を堂々と歩く四人の魔族に、誰もが目を奪われていたのだった。


「えへへ~」

「おい、随分と機嫌がいいな」

「当たり前だよ~。ずっと心細かったのに、ようやく友達が増えたんだもん」

「友達が……」

「うん、レオンくん、オルガさん、カララちゃん、これからは姫も不良も関係ない! 対等な友達としてよろしくね!」


 センフィは嬉しそうに通学路を歩いていた。

 今日から孤独ではなくなったからだ。

 確かに、今までは学校の中にはハジャたちが居た。しかし、それでもハジャたちは人間。

 魔族が学校で一人であることは変わらない。それがセンフィにとっては寂しかった。

 だが、今日からは違う。三人も仲間が増えるのだ。

 これからは寂しくない。ずっとうまくいってなかった人間との友好もうまくいくのではないか?

 そんな期待を胸に秘めていた。


 その日、勇者と魔界の姫君のクラスに、不良魔族が転校してきた。

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