第9話 魔界のお姫様は天然ポワポワ、されどビッチ(過去回想)


 それは、三年前。魔界の王都、『ザンギ』。

 魔界の経済、政治、娯楽の中心地として栄え、魔界で最も活発な都に位置する学園。


「レオン・ハルト! お前は停学だ!」


 ハルトの中学最初の停学。その経験に、ハルトは落ち込むどころか誇っていた。


「くははは、記録すべき初停学。これで俺の学歴にもハクがつくってもんだ」


 教師も、同級生も、皆自分を腫れもののように見る。

 だが、それで構わなかった。

 自分の価値観だけは自分だけが分かっていれば良かったからだ。

 だが、それでも一人だけ関わろうとするものが居た。


「レオンくん、どうだったの?」


 制服が破れるのでは? 

 目を引く果実のように巨大な胸を揺らしながら、紫色の髪をしたムチムチボディのおっとり系同級生が走ってきた。


「オウダ・センフィ……姫……」

「ねえ、どうだったの? 先生は何て言ってたの?」

「……停学だよ」

「停学? それじゃあ、退学じゃないんだね! 良かった~」


 センフィは安堵の息をつくと、そのまま力を無くして廊下に座り込んだ。

 それが本心だと分かったからこそ、ハルトは少し調子が狂った。


「おい、魔界の姫様がいつもいつもお節介なんだよ。俺がどうなろうと、あんたには関係ねーだろうが」

「むっ、お姫様じゃないもん! 今の私は学級委員だもん!」

「だから、それと俺が処分受けるのと何の関係がある」

「クラスメートを心配するのは当たり前だもん!」

 

ハルトはセンフィが苦手だった。不良の自分とは対極に位置する存在。

 魔界の王族でありながら、どこか庶民的で親しみやすいことから、同学年や近所では絶大な人気を誇り、その優しさと笑顔は、戦時中の魔界においては光のような存在だった。

 そして、誰にでも分け隔てなく接する彼女は、不良としてやさぐれていたハルトにすら、よく関わってきた。


「たいそうな支持率でも、俺には関係ねえ。魔界の暇な連中は、世界のためだ魔王のためだと戦争に行く馬鹿ばかりだが、俺は違う。人間界も魔界もどうなろうと知ったこっちゃねえ。だから、お前の言葉は、俺には何も響かねえよ」


 ハルトはセンフィのブレザーの襟を乱暴に掴んだ。その行為に校内がざわめく。


「レレレ、レオン・ハルト! お、おおおお、お前、何ということを!」

「その手を離しなさい! 姫様に何ということを!」


 相手は魔界の姫。その身に何かあれば、教師たちとて監督責任でどうなるか分からない。だが、教師たちとは反対に、センフィ自身はとても悲しそうな表情を浮かべた。


「どうして? どうして君は、そんなことを言っちゃうの?」

「不良の言うことやることに理由なんてねえよ。正義だ大義だ名誉に狂ったバカどもと一緒にするんじゃねーよ」

「ッ、戦争に行った人、犠牲になった人たちをバカにしないで!」

「バカさ。人間も魔族もバカばかりさ」

「違う!」

「くははは、そーいや、テメェは言ってたな? いつか、戦争が終わって人間と魔族が共に笑える世界にしたいとかな。一番馬鹿なのはテメェじゃねえのか?」

「確かに私はバカだよ。弱いし、一人じゃなにもできないかもしれない。でも、その夢だけは譲れない! 戦争だって終わらせてみせる! みんなと笑い合える世界にしてみせる!」

「今のお前は、鼻で笑えるな。そんな妄想につきあって死ぬのもバカらしい。まっ、今の魔界はそんなバカばっからしいけどな」


 次の瞬間だった。ハルトの景色が変わった。


「え?」


 世界が一回転して、気がつけば自分の視界には天井広がっていた。

 背中が痛い。


「みんなが笑い合える世界! それを望んで何が悪いの!」


いつの間にか廊下に寝転がっていた。

 ハルトは一本背負いされていた。


「がは、こ、この女」


あまりにも突然すぎて受け身も取れず、ハルトは呆然としていた。


「そして、自分のため、家族のため、仲間のため、世界のために戦っている人たちを、バカにすることだけは許さないから!」

「こ、この女……上等だ。よっぽどグシャグシャにされてーみたいだな」


 気付けばハルトは即座に立ち上がり、センフィに殴りかかる。


「ひん剥いてやるよ!」

「ッ、何するの!」

「仲間のため? 世界のため? 俺はテメエの力だけで最強になる! 邪魔する奴も、反吐の出る奴らも勝手に死んでろ!」


 女のくせに生意気だ。容赦なく振りかぶる拳に、再び校舎に悲鳴が響く。

 だが、


「ハリケ!」

「魔法か!」


 巻き起こった暴風。魔法の力だ。

 劣等性のハルトには防ぐすべなど無く、はるか後方の壁に力強く打ちつけられた。

 激しく強打した痛みに堪えながら、ハルトは怒りに満ちた表情を向ける。

 だが、次の瞬間、とてもいい香りが自分を包んだ。


「やだよ、こんなの。ちゃんと言葉が通じるんだから、たまには喧嘩してもいいから、お友達になろうよ」

「ッ!」

「戦争に行かなくていいから。世界のことは嫌いでもいいから。その代り、みんなを嫌いにならないでよ」

「うるせ、俺にダチなんか必要ねえ!」


 優しい香り、柔らかい肌。そして温かさ。センフィがハルトを抱きしめていた。 


「友達が必要ないなんて、そんなのウソッぱっちさんだよ。友達が居るだけで、ぜーったい今よりもっと素敵な今日になるんだから」

 

 それに気付いた時、ハルトの心臓が大きく跳ね上がった。

 そして、思い出す。突風で舞い上がったセンフィのスカートを。


「オウダ」

「っ、なに?」

「お前、スゲーパンツ履いてんのな」

「っ、え? あ、ああああああ!」

「ったく……おい、オウダ……」

「う、うぅ……何?」

「……エロイことに興味あるなら俺がいつでも教えてやるぞ?」

「……ふぇ?」

「箱入りお姫様じゃ教えてもらえないようなものを、実技で教えてやるぞ~……皆に内緒でな」

「う、うぅ~、バカぁ!」

「かっかっか、真面目な奴ほど実はエロイってこともあるしな。人間界産のエロ本でもくれてやろうか?」

「んもう、どうしてそんなこと言うの! そんなの……そんなの…………くれるってほんと?」

「…………え?」

「あ……」


 正直、それ以降のことをハルトはよく覚えていなかった。再び教師に怒鳴られ、停学期間を延長されて家で謹慎していたからだ。

 停学明けて学校に出ても、特にハルトの生活態度が変わることは無かった。


「乳触らせてくれるなら……」

「ちょっ! …………い……いっかい……だけ……ぜ、ぜったいぜったいみんなに内緒……にしてくれるなら……」

「DVDもいるか?」

「え?! でーぶいでーって、あの!? 動く映像の!? え、あるの!? ……見せてくれるの?」

「……ヤらせてくれるなら……」

「そ、それは流石にッ!? それ以外なら」

「じゃあ、廃校舎行こうぜ。あそこ、誰もこねーし」

「う、うん……」


 ただ、時折いつものように関わってくるセンフィに……色々と……色々と……メチャクチャ……シた

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