第33話

 2泊3日のりんりん学校も、いよいよ2日目の夜。

 浜辺のキャンプファイヤーに花火と、今年はホテルの広間で、有志による百人一首大会もやるけれど、星花らしく、全てのイベントは自由参加だ。


 そして。りんりん学校影のメインイベントと言われる、生徒会主催の肝試し。

 こっそり乙女たちの逢引に使われる……むしろその為のイベントと化している、通称「悲鳴と嬌声の夜」。

 今年も、その時間がやって来た。


「さあ、取り締まりますよー♪ 粛正するは我に有り!」


「何でそんなに嬉しそうなのよ、静流しずるは」


 警笛ホイッスルを手に、瞳をキラキラさせる静流へ、宮子は頭を抱えた。

 結局、風紀委員の取り締まりを阻止出来なかった……。

 新任の生徒会長が、参加者たちへ注意事項などを伝えた後。静流がニッコニコで『今年は、普通の、普通の肝試しですので、悪しからず♪』と宣言した時の空気を、宮子は忘れられそうにない。


「貴女も大概、メンタル強いわね……。わたくしは、正直、皆と目を合わせられなかったわ」


「風紀委員として、いいえ学生として、正しいことをしてるだけですので。……それはそれとして」


 静流、ほんのり頬を染めて、


「あまり、くっつかないでくれます? 歩きにくいのですが」


 肝試し大会の舞台は、ホテルの裏山。

 もう半数以上の組が出発した後で、静流と宮子も、今は暗い夜道を2人きりだ。


「……苦手なのよ、こういうの」


 ちょっと恥ずかしそうに、長い黒髪をかき上げる宮子。


「去年も一昨年も、エッチが楽しみだったから、気にしなかったけど。……普通に肝試しと考えると、この山、結構雰囲気有るのよね」


「まあ、あまり皆さん知らないですけど、この辺、古戦場ですから」


「そうなの!?」


 頼りは懐中電灯と、木々の隙間から零れる月明かりのみ。

 だのに、平気な顔してずんずん歩いていく静流に、宮子は舌を巻く。


「よく平気ね。この山が怖いところだって、知ってるのに」


「……うちの裏。雪川城址じょうし公園は知ってます?」


 宮子、察した。市の文化財にもなっている雪川屋敷は、江戸時代に、山のふもとに建てられた。その前の戦国時代には、雪川家の者は山城に住んでいたのだが……。


「あそこ、出る・・って噂よね」


 かつて城の建っていた、雪川城址公園といえば、空の宮市屈指の心霊スポットとして、その手のサイトにも載っている場所だ。

 昼は穏やかなハイキングコースながら、夜になると、自分の首を探して彷徨う、落ち武者の霊が目撃されるとか……。


「失礼しちゃいますよね。皆、危険な場所みたいに言って。城跡は今も、我が雪川家がきちんと管理してますのに」


 頬を膨らませる静流をなだめながら、宮子は納得した。


「そういう話題には慣れてるってことね。ふふ、頼もしいわ」


 怪奇スポットな山の暗闇に、一人では耐えられそうもない宮子だけど。

 霊とか平気へっちゃらな様子の静流が横にいるなら、安心だ。

 当の静流は、けろっとした顔で、宮子の背後・・を見ながら、


「ええ、見慣れてるというか。珍しくもありませんよね。皆、何をそんなに怖がるのやら」


「……ちょっと待って。貴女、どこに話し掛けてるの?」


 宮子と静流は夜道に2人きり。今は、周囲に誰もいない、はず。

 さーっと蒼ざめる宮子。と、


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 彼方で、尋常でない悲鳴が、山の夜闇を切り裂いた。

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