第5話
日曜の朝10時、空の宮中央駅の駅前に集合。
星花女子学園行きのバスも出ている、この地方のメインターミナルだ。
10年ほど前は1日の乗降者数が1000人を割るところだったが、星花を運営する複合企業、天寿の企業城下町として、近年は急速に発展、今では県内でも第2、第3位に入るほど栄えている。
さて、待ち合わせ場所は北口、天寿のマスコットの、ゆるキャラ着ぐるみが飾ってあるのが目印。
「いい加減にして。わたくし、可愛い女の子にしか興味が無いの」
宮子が、いかにもチャラい男の人たちに、ナンパされていた。
「あ、君もしかして、星花の生徒? 男も、良いもんだよー?」
へらへら笑いながら、肩に手を置かれそうになって、宮子の眉が剣呑な形に吊り上がる……。
「お待たせしました、お姉さま♡」
すかさず静流は、甘ったるい声を出しながら、宮子に抱き付いてみた。
「デート、とっても、とぉーっても、楽しみにしてましたの♡
宮子もすかさず、演技に乗っかる。静流を抱き締め返して、にこっと微笑んだ。
「ええ、ええ、わたくしの静流♡ 2人で、素敵な1日にしましょうね♡」
甘々でらぶらぶなオーラを振りまきながら、頬っぺたすりすりし合う美少女たち。百合の花園が幻視される美しい光景に、
「くぅっ、眩しい……!?」
ナンパ男子たちは、眼を焼かれた。彼らは挟まりたいなどという邪心は抱かない善良な人間であったので、尊さに涙しながら、満たされた顔で去っていった。
一応、駅前を離れるまでは、にこにこしながら仲良くお手々繋いで、演技を継続。
「……ふふ」
宮子、頬を染めて、なんだかえっちな
「雪川さんってば、そんなに楽しみだったんだ? わたくしとのデート」
「演技ですからね!?」
ぺいっと手を振りほどいて、静流は八重歯を剥き出しに。
「え・ん・ぎ! 貴女が男子に絡まれて、困ってそうだったから!」
顔から蒸気ぷしゅーしつつ、両手をぶんぶん振り回す。
「こ、この私が!
「……盛大に自爆してるわよ貴女?」
さすがに宮子の方が我に返り、照れ臭そうにもじもじする。
が、すぐにまた悪戯っぽい表情に。
「ふふ、雪川さんの手も、ちっちゃくて、柔らかかったわ。ね、せっかくのデートですもの、手ぐらい繋ぎましょ? 貴女の温もり、感じたいわ」
「え、えっちな眼で見ないでくださいー!?」
宮子に接近されて、静流はバッグにぶら下げた防犯ブザーを鳴らした。
ビィィィィィ、と。ひどい音がした。
「ちょ、いくらなんでも、これはひどいのでなくて!?」
「こほん。ご、ごめんなさい。私としたことが、冷静さを欠いてしまいましたわ」
前途多難な、デートが始まった。
※ ※ ※
空の宮中央駅から少し北側に行くと、大きなショッピングモール。
その名もスターパレスショッピングモール、天寿系列のアパレル、化粧品関連のお店が多く入っている。
2人がまず向かったのは、シャンプーやボディソープを多く取りそろえた、天寿の直営店。星花の生徒でもある国民的アイドル、美滝百合葉のCMでお馴染み「ウイッチ」等々、天寿製品が安く買えるだけでなく……海外の珍しい製品も並んでいる。
「これこれ、これが欲しかったのよね。この辺だと、他に置いてなくて」
成分表とか全部横文字のボディソープを、籠に入れる宮子。
ちらちらと、静流が視線を寄越す。
「ふ、ふぅん? 私、別にこだわりも有りませんけど。何だか良さげですし。同じの、買ってみようかしら?」
と、手を伸ばしてみるものの。値札を目にして一言、
「高ッ!?」
静電気喰らったみたいに飛び跳ねて、商品から手を離した。
「あら、意外ね。貴女って、あの雪川家の、ご令嬢なんでしょう?」
首を傾げる宮子へ、
「ゆ、雪川の家は、質実剛健がモットーの、由緒正しい武家ですので。お小遣いには厳しいのです」
静流は恨めしげな視線を送る。宮子の方はと言えば、普通の高校生のお財布には暴力的なお値段の化粧品を、平気な顔で、ひょいひょい籠に入れていく。
その一つ一つを記憶に焼き付けながら、静流は、後で両親に、お小遣いの前借り交渉をしなくては、と誓うのだった。
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