第2話

 一目見たその時、天使だと思った。

 あれは中学2年の時、星花祭での合唱部の発表会でのこと。

 今よりはだいぶ幼い印象だったけど、自慢の長い黒髪を揺らし、伸びやかな歌声を響かせる……そんな火蔵かぐら宮子みやこの周りに、確かに、天使の羽根が舞うのを見たのだ。

 それから静流しずるは、友人から食券3ヵ月分で買った、宮子の写真を毎日、お風呂でもベッドでも抱き締めて、頬擦りして、小さな胸をドキドキさせていたものだった。

 宮子が使っているシャンプーと、ボディソープを調べ上げ、ネットで同じものを取り寄せて、同じ匂いに包まれて。

 何が好きなのか、どんな日用品を使っているか知りたくて、風紀委員にもなった。合法的に、鞄の中をチェックできると思ったから。

 端的に言って、ストーキングしていた。


 それだけに、宮子を追っかけて見てしまった、女性同士のえっちシーンは、あまりにショッキングで。

 以来すっかり、そういう話題が大の苦手になってしまった。


「……火蔵さん。なんで、ついてくるのです?」


 その元凶が、隣でニコニコしながら、風紀委員の見回りに付いてくる。

 学園の、旧校舎に近い花壇の周り。ふわっと、宮子から甘い薫りが漂う。


「ふふ。この前の話の、続きよ」


「……お断りしたはずですが?」


 静流の言う「清い恋愛」を、教えて見せてくれないかという。

 宮子の提案を、静流は「まっぴら御免ですわ」と一蹴したのだが。


「だから、雪川さんのお手伝いをしようと思って。ほら、風紀委員のルールに有るでしょう。要注意人物を更生させたら、ご褒美くださるって」


 うぐ、と声を詰まらせる静流。他でもない彼女が、先代の委員長に働きかけて定めたルールだ。

 問題児を改心させたら、危険度に応じて、食券とか、マッサージ券とか贈呈。

 危険度MAXのS級指名手配者に、問題行動を止めさせた場合は……。


「風紀委員が、なんでもお願いを聞いて下さるのよね?」


「えっちなお願いは、聞きませんからね?」


 警笛ホイッスルを咥え、厳重警戒の静流。

 だいたい、目の前の宮子こそ、指名手配書ビンゴブックの要注意度第1位なのだ。


「あら。他の子の問題行動を止めさせたら、誰にでもご褒美はくださるのでしょう? 風紀委員にマークされてるからダメとか、そんなルールは無かったはずよ」


 ……今さらながら、自分が決めたルールの、不備を呪う静流。

 宮子が肩を寄せてくるたびに、警笛を唇に、威嚇しつつ見回りしていると。


「だ、誰か、ほどいてぇっ!? 縄が、カラダにぃ……っ」


 なんかわざとらしい悲鳴が聞こえるけど、つい静流は反射的に、助けに行ってしまう。花壇の側で、見たものは。


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!? ま、また貴女ですか理純りずみ先輩ぃぃ!?」


 縄跳びの縄に絡まって、スカートがめくれ……おぱんつ丸出しの状態で転がっている、ツインテールの女の子。

 おフランスみの有る丁寧な刺繍の、白のパンツを丸っと目撃して。

 静流の唇から、縄に絡まった側の10倍の悲鳴が、飛び出した。


 ※ ※ ※


【後書き】

 今回新登場のゲストキャラ

理純りずみ智良ちら

 斉藤なめたけ様作「純情チラリズム」登場。「小説家になろう」にて、完結。

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