第47話

 第65回星花祭。

 学内での絵画コンクールで、今年注目を集めたのが、高等部1年2組だ。

 星花女子学園でも有名な、美術部のエース2人が揃った2組。

 未来の画壇を担う天才たちの対決の行方ゆくえは、学外からも熱い視線を送られた。


 日本画の巨匠を父に持ち、自らも大規模コンクールの入賞常連、桶屋春泥しゅんでい

 その春泥をいつもコンクールで打ち負かす、油絵と日本画の天才、特待生として菊花寮に入っている立花とおる


 同い年で、星花に入学する前から競い、比較されてきた2人。

 展覧会場となった、星花祭での美術教室でも、2人の絵の前にクラスメートたちが集まる。


 今年、校内コンクールで金賞を獲得したのは……。


「見事ですわ、桶屋さん。……正直、見直しました」


 桶屋春泥の絵だった。湖で戯れる少女を描いた、風景画である。

 1年2組の学級委員、御神本美香が、素直な賛辞を口にする。

 集団行動が嫌いで協調性皆無の春泥を、あまりよく思っていなかった美香だけど、この絵は、とてもいいと思った。


「今まで拝見した絵は、何だか、生命力を感じないというか、無機質な印象を受けましたけど。この絵の女の子は、とても輝いて見えますわ」


 何か心境の変化でもあったのか、と聞かれ、春泥は癖っ毛の髪を弄りながら、


「別に。ちょっと新しいことしたら、評価されたってだけでしょ」


 ぶっきらぼうな返答だけど、ほんのり染まった頬から、照れてるのは明らか。

 今まで距離を置きがちだったクラスメートたちからも、笑顔で話し掛けられて、ますます赤くなっていく。


 そんな桶屋春泥……今まで銀賞止まりだった彼女に、初めて敗北を喫した立花透は。


「……ああ。兄さんは、こんな気持ちだったんだ」


 妹の画才に嫉妬した兄から、辛く当たられた経験を持つ透。

 ぽつりと呟いて、美術教室から飛び出していった。


 それに気付いた春泥、


「……あいつ。あたしが何度、貴女に負けて、悔しい思いをしてきたと思ってるのよ。そんなに、眼中になかったわけ?」


 悪態をつきながらも、透の背中を追って、駆け出した。

 文句を言ってやろうか、それとも励ますべきか、考えながら。


 第65回星花祭の伝説、その4。

 後に日本画壇を背負う宿命のライバル、桶屋春泥と立花透の、因縁と友情の始まり。


 同じころ、中庭がなんだか、ざわざわしてる。


「本当だって! 本当に、UFO飛んでたんだってば!」


 中庭に着陸してる、人が乗れるサイズの、円盤型の物体……どう見てもUFOなのだ!を囲む生徒たち。

 その視線を気にも留めず、UFOを弄るのは、NASAにスカウトされた天才、高等部1年1組の柳橋美綺。


「だめだ……飛ばなくなってしまった。理論は、完璧だったはずなのに」


「いや、そんなのが飛ぶとか嘘だろう!? 何かトリックじゃないの!?」


 浮かぶUFOの目撃情報に、出し物の観客を取られて、駆け付けてきた文化部の面々。

 マジック部の永峰涼音がトリックを疑うと、科学部の中等部2年、片眼鏡モノクルを掛けた、英国とサイバーパンク大好き少女、大鹿家おおじかけまちね、英語交じりで笑顔を見せる。


「ヤー! ファンタスティック! レトロな未来を感じるネー! これぞ科学の夜明けドーン!」


 ああでもない、こうでもないと呟きながら、美綺は大真面目に返答する。


「でも、浮かなくなってしまった。再現性が無いうちは、科学とは呼べないよ。……百合葉を宇宙へ連れてくのは、まだまだ先だね」


 ……世界初。地球産UFO誕生の噂(未完成)。


 さらに正門では。

 星花祭のお祝いにとサメを獲りに行ってた、中等部の南国少女、裏沢ムム。

 出身の南の島から持ってきた伝説のモリを片手に、何だか悔しそう。


「むぅー。大物を、仕留め損ねたのだ」


 秋になって、海が冷たくなったので、妥協して水着は着た。


「やっぱり裸じゃないと、ムム調子出ないのだ……」


 戦利品……逃げられた大物のサメの、欠けた歯を太陽にかざしてみる。

 一本の歯だけで、長さ10cm以上。


「大きいサメだったのだ。ムムの10倍はあったぞ、あいつ。初めて恐怖を感じたのだ……」


「そ、それは!? その歯は、まさかぁっ!?」


 通り掛かった生物の教師が、サメの歯を見て、素っ頓狂な悲鳴を上げる。


「この巨大さ! ま、間違いない! 百万年以上前に絶滅したはずの巨大ザメ、メガロドンの歯! き、君! これを一体どこで!?」


「ん? そこの海で泳いでた」


「なんだってぇぇぇぇ!?」


 全長15m。最大では40m説もある、古代の超巨大ザメ、生存の噂。


 他にも、この年の星花祭で産まれた伝説は数多い。

 「十の伝説」と謳われるけど、本当はもっとたくさん有るので、どれをランクインさせるかは、意見が分かれるところ。


 そんな中でも。最大最後の伝説を創り出す張本人たち……宮子と静流は。

 どうにか無事に終わった1日目の、反省会と後片付けをして。

 生徒会や各委員会を交えた、明日に備えてのミーティングを終えて。


 夕暮れの会議室に、2人残された。


「お疲れ様、静流」


「貴女こそ、宮子さん」


 顔を見合わせ、くすくすと笑い合う2人。


「明日は大変よ? 何たって、ゆりりんと『クリスタル*リーフ』のライブだし。『疾風はやて』が来るって噂だし」


 風紀委員の仕事の他、ライブのアナウンスをお願いされてる静流。

 宮子の言葉に、


「ええ、大丈夫です。ちゃんと、練習してますから」


「……そう。明日は、楽しみにしてて、いいのかしら」


 座っている静流を、ふわっと、宮子の薫りが包み込む。

 後ろから抱き付いてくる感触に、鼓動を早めながら。

 静流は、理解する。宮子が言ってるのは、ライブのアナウンスのことじゃなく……。その後で、と約束した……。


「……秘密です」


 頬を寄せてくる宮子へ顔を向けて、静流は、


「今は、これで我慢してください」


 精いっぱいの勇気を出して。溶けそうな、口づけを贈った。


【後書き】

初登場ゲスト紹介


・立花透 桜ノ夜月様原案 星花女子プロジェクト8期作品に登場予定


・大鹿家まちね 藍川海咲希様作「月がのぼるまでは」登場(「小説家になろう」連載中) 





 

 

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