第15話

 浜辺に舞う、乙女たちの汗粒!


「アイ! カーツ!!」


 「アイドルたる者、勝利に貪欲たるべし」の略だという掛け声を叫びながら、美滝百合葉、次々とスパイク撃ち込んでくる。

 飛び抜けて運動神経良いわけでもないけれど、とにかくアグレッシブ。

 12時間ソロライブの伝説で知られる、無限のスタミナも脅威だ。


「くっ、とんでもなく元気な子ね」


 唇を噛む宮子に、百合葉はウインク。


「アイドルは体力、根性、体力体力体力、ですので!」


 亜麻色の髪に、オレンジのビキニも眩しい彼女は、まさに真夏の太陽。

 そして、そのペアもただ者ではない。


「ああ、ボールが視える……!」


 謎のこだわりで背中を向けながらプレーする、1年1組の変人、柳橋美綺。

 砂に届きそうなほどの長い黒髪を、優雅に翻し、後ろ向きのまま、静流の打ったボールをレシーブしてみせる。


「どうなってますの、あれ!?」


 しかも悔しいのは、奇妙奇天烈なプレースタイルなのに、顔が良いせいか不思議と絵になることだ。

 美綺が長身に纏うのは、飾り気のない競泳水着。黒地に入った白のラインが、本人の容姿と相まってシャープに整った印象を与える。つまり機能美。


 アイドルと天才。星花1年の中でも目立つ百合葉&美綺ペアは、自然、観衆の声援を集めていき……。


「むぅぅー……!」


 宮子が膨れた。


「負けないで、お姉さまー!」


 少なくないファンの子たちが、宮子と静流にも声援を送るけれど、相手はアイドル。

 激しく動き回りながらも、一瞬たりと笑顔は絶やさない。

 見られることへの意識が本能レベルまで染み付いた振る舞いは、一瞬一瞬のどこを切り取ってもグラビアを飾れる、輝きっぷり。

 まさに恒星スタア


(うらやましい)


 と、宮子は思った。宮子だって、顔には絶対の自信がある。楊貴妃やら小野小町やらの生まれ変わりと言われたら、「まあ、そうでしょうね!」と胸を張っちゃうぐらい、自信有る。

 けれど、美滝百合葉の輝きは、何だか違う。容姿だけのものじゃなくて、愛されることを運命づけられたような。


(愛されたい。わたくしも、みんなに。あんな風に)


 けれど、それは無理。タイプが違う。

 美滝百合葉が大輪の向日葵ひまわりなら、宮子は渓谷にひっそりと咲く、文字通り高嶺の花。


「やっぱり、アイドルには敵わないのかしら……」


 思わず弱音を漏らすと、


「えいっ」


 静流にお尻をつねられた。


「い、痛ぁっ! な、何!?」


「らしくないですよ、火蔵さん」


 ボールを相手コートへ返しながら、静流。


「それは、アイドルは見惚れてしまいますけど。火蔵さんの方がスタイル良いし、かっこ良くて、美人だし。貴女を好きな人だって、いるんですからね」


 言った後で2人、顔を見合わせて、めちゃくちゃ真っ赤になる。

 慌てて静流、


「……っていう風に、ファンの子たちが思ってるだろうなって。わ、私の意見じゃありませんからねー!?」


「……ふーん。ふーん♡ ねえ雪川さん、もう1回言って♡」


「だ、だから私が思ってるわけじゃありませんってば!? 私は、貴女がキライなんですー!?」


 試合中にじゃれ始める2人!


「お、おおう。なんかボールぶつけたくなるね、美綺ぽん?」


「なに? 後ろ向いてるから分からない」


 ともあれ宮子のやる気メーターが、200%回復した。

 セクシー黒ビキニの伸びやかな肢体が、浜辺に躍動する。


「そぉーれっ! さあ、お覚悟は、よろしくて?」


 天下のアイドルを前にしても、まったく怯まない。

 大胆不敵に小悪魔スマイル。それが火蔵宮子!

 元々が成績も良い上にスポーツも得意な、完璧パーフェクト超人だ。

 華麗に、優雅に砂浜を舞い、どんどん点を取り返していく。


「……綺麗」


 その呟きは、観戦する少女たちだけでなく、静流の唇からも漏れた。


「って、私は見惚れてませんからー!?」


 試合は決着。僅差で、宮子&静流ペアの勝利!


「あーん、負けたー! ま、まあ、主催が勝ち続けるのもアレだし? 悔しくないけど。悔しくないけど―!?」


「僕はまだ、地球の重力に魂を囚われているのか……」


 とっても悔しそうな百合葉、でもすぐアイドルの満開笑顔に戻って、


「すごく、楽しかったです! またやりましょう、先輩☆」


 静流にハグしてくる。とにかく距離が近い子だ。


「ま、まあ、私も貴女のアイドル力というか、すごさは認めましたので。……屋上の件は、目をつぶってもよろしくてよ」


 それはそれとして。美滝百合葉、すごくいい匂いがする。

 ついドギマギしつつ、ボディソープは何を使ってるか、静流が聞くと。

 百合葉、えっへんと胸を張り、Vサイン。


「それはもちろん……天寿製品です!!」


 どんな時でもCMを忘れない、アイドルのかがみだった。


 さて、勝った方は、ぱちんとハイタッチ。してから、静流が赤くなる。


「ふふ、どうだった、雪川さん? わたくしのこと、好きになっちゃった?」


「ふん、悪くはなかったんじゃないですか。……好きにはなりませんけどっ」


 ぷいっとそっぽを向く静流の前へ、宮子はニコニコしながら回り込んで、


「そう、じゃあ2回戦も、かっこいいところ、見せちゃおうかしら。わたくしを好きになっちゃうぐらい」


 やがて他コートの試合も終わり、参加者たちが移動。

 ビーチバレー美滝百合葉カップ、第2回戦が始まる。

 静流と宮子の、対戦相手は?


「……あら、もう貴女と当たるなんてね。いいえ、むしろ最初に戦っておくべきだったかしら」


 宮子は、コートに立った相手に微笑む。


「遅いじゃない、咲瑠えみる


 星花女子、高校2年生の内に有って、宮子と並んでエッチい方面で知られる美少女。

 「66期生の双璧」とうたわれる、そしてもちろん静流のブラックリストにも入ってる、7人のグランド問題児の一角。

 御所園ごしょぞの咲瑠えみるその人である。


「ふふ、お手柔らかにね、宮子?」


 ……次回、「双璧相撃つ!」。

 星花の歴史が、また1ページ

 

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