第10話

 8月、星花女子学園の1大イベント。

 りんりん学校の日がやって来た。


 2泊3日の臨海林間学校。公立と違い、自由な時間が多く取られているのが特徴で、海辺で遊んだり、山に登ったり、キャンプファイヤーに肝試し……と盛り沢山。

 毎年、少女たちが絆を深め合い、多数のカップルが成立する……そんなスウィートなイベントだ。


 つまり、「氷の女王」雪川ゆきかわ静流しずるの敵だ。


「ふふふ……今夏の警笛ホイッスルは血に飢えてますわ」


 わたくしの目が黒いうちは、えっちな展開など許しません!

 そう意気込む静流に、黒いマントを羽織った風紀委員の後輩、荒神世音ぜのんが、


「先輩、目、黒くないですよね? と、と言うかだな。余は、時には掟を破り、魂を解放するのも、有りだと思うのだが……」


「……世音。貴女、まさか」


 妙にもじもじしてる後輩へ、静流、


「最近恋人が出来たとは聞きましたが。りんりん学校で不埒ふらちなコトをとか、思ってるんじゃないでしょうね? 風紀委員失格よ!」


「堕天したって言って下さい、先輩!」


「どうでもいい!」


 ……どうやらこの夏、星花女子の風紀を護るのは、静流の双肩に託されたようだ。


 ※ ※ ※


 さて、毎年、りんりん学校最初の難関が、バスの組み分けである。

 学園から移動するバスは、学年、クラスごとで分けるのが普通の学校。

 けれど星花のりんりん学校は、例年、学年クラスを分けず自由に!と言うのが伝統だ。

 もちろん、完全に自由だと、ひとつ問題が有って……。


「はい、御所園ごしょぞのさんと乗りたい人! 抽選受付、締め切りますよ。倍率は8倍です! 外れても恨まないように!」


 学園には何人か、ファンクラブを持つ人気者がいる。

 放置するとバスの座席が奪い合いになるので、厳正な抽選で選ぶことにしたのだ。


「くっ……何で私が、こんな浮ついたコトの手伝いを……」


 生徒会だけでは人手が足りず、静流たち風紀委員も、抽選の運営に駆り出されていた。

 抽選の結果を発表すると、大はしゃぎの子もいれば、外れて泣き出してしまう子も。


「ふふ、泣かないで、子猫ちゃん。離れていても、心は繋がっているでしょう?」


 抽選に漏れた女の子をあごクイする、見るからに高貴なお姉さま……静流と同じ高等部2年の、御所園ごしょぞの咲瑠えみる

 火蔵かぐら宮子みやこと並んで浮名を流し、「66期生の双璧」と呼ばれるプレイガール。


「ひと時の別れが有ってこそ、愛は燃え上がるモノ。今宵は、たっぷり可愛がって差し上げますわ」


「お姉さま……♡」


 ピーーーーーーーー!

 静流の警笛ホイッスルが鳴った。


「わ、私の目の前で。貴女って人は」


 睨んでやると、咲瑠は悪びれもせず、


「ふふ、ごめんなさいね。夏休みの最中ですもの。子猫ちゃん達と会うのも、久し振りで、浮かれてしまって。昨夜ゆうべもつい、朝まで張り切ってしまいましたの」


 ナニに張り切ったのか。それは、咲瑠を取り巻く女の子たちが、ぽっと頬を染めたことから、聞くまでもない……。

 赤くなって口をパクパクさせる静流へ、咲瑠がそっと耳打ち。


「火蔵のお姫さまも、同じ理由でお休み中よ。このままだと置いてけぼりだし、貴女の目覚めのキスが、要るのでなくて?」


 なんで私が、と、静流が冷たい眼をすると、


「だって、仲良しでしょう?」


「は、はぁぁぁぁぁぁぁ!? ど、ど、どこを見たら、そう見えるというの!?」


 なんて心外な!と目を剥く静流へ、宮子に匹敵する問題児は、


「貴女、わたくしのことは追い掛けてくれませんし。火蔵さんにはベッタリなのに。だから、彼女にお熱なのかしらって」


「ご、誤解! 誤解ですわ!?」


 お目々ぐるぐるさせて慌てる静流へ、咲瑠は意味ありげに微笑んで、バスへ乗り込んでいった。


(わ、私が、火蔵さんに構うのは、風紀の敵だから。……でも、どうして御所園さんでなく?)


 偶然。たまたま。関わる機会が多かったから、そうなっただけ。

 そう自分へ言い聞かせてはみるけれど、胸のドキドキは、しばらく鎮まりそうになかった。


 ※ ※ ※


 抽選は続く。

 今度は、高等部3年の人気者。英国からの留学生にして、漫研の部長。金髪ふわふわお嬢様の、エヴァンジェリン・ノースフィールド。


「ふふっ。わたくしは、恋葉このはちゃんと一緒なら、それだけで幸せですわ」


 にこにこっとたおやかに微笑む、蒼い瞳の女の子……。


「と言いたいところですが。絵を描ける方、当選率3倍にします! 夏のコミマが近いので! 人海戦術ですわ!!」


 同人作家と乗るバスは、他のどの人気者と乗るより……別の意味で修羅場だったと。語り継がれることになる。


 他にも生徒会メンバーに、1年にしてファンクラブが出来たと話題の少女や、カリスマ生徒会長の妹など。

 バスの組み分けは難航を極めたけれど。


 やっぱり、今年一番の高倍率となったのは。


「……まあ、アイドルですものね」


 とんでもない倍率にも、静流納得。

 高等部1年3組、美滝みたき百合葉ゆりは

 今年編入してきた彼女は、今や国民的人気を獲得しつつある、現役トップアイドルだ。

 その彼女が。


「困ったわね。菊花寮だと、まだ来てないのは……」


「美滝さんと、2年の火蔵さんだけね。後は」


 生徒会メンバーの声を聞き、静流の脳内に、さっきの御所園咲瑠の言葉がリフレインする。

 まさか。火蔵宮子が、現役アイドルとベッドを共にして……。


「わ、私、起こしてきますわー!?」


 ※ ※ ※


【後書き】

 新登場のゲスト

・エヴァンジェリン・ノースフィールド らんシェ様作「百合の花言葉を君に ~What color?~」登場。「小説家になろう」にて完結。


・美滝百合葉 拙作「∞ガールズ!」登場。「小説家になろう」にて完結。

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