第18話

 ビーチバレー、第2試合も後半。

 御所園咲瑠えみる&鈴木加奈子ペアの猛攻をしのぎつつ、宮子と静流は言葉のドッジボール。


「か、火蔵さん、貴女って人はぁ! それじゃ、ただのひどい女じゃないですか!?」


「そうよ、わたくしってば、悪い女なの。雪川さんってば、気付かなかったの?」


 ぺろっと舌を出す宮子に、静流はこめかみピクピクさせる。


「さ、最っ低ですね。毎日毎日、恋人を取っかえ引っかえ……同情すべき理由が有ると、思ってましたのに!」


「あら、自由奔放と言ってほしいわ。そもそも、何か問題ある? わたくしがエッチ大好きで」


「問題! あり過ぎです! 私たちは学生ですよ!?」


 赤裸々な言葉のぶつけ合いに、ギャラリーの生徒たちも赤面する。


「か、火蔵さんはその、すごく綺麗だし。本当は心根の清い人だと、信じてましたのに……」


 つい本音を零して、自分で真っ赤になる静流。


「べーだ。そんなの、雪川さんの思い込みでしょ。わたくしは、いつだって、わたくしよ」


 そう言い切る宮子の表情は、晴れやかで、自信に満ちていて。

 やっぱり、静流が憧れた火蔵宮子そのもので。

 静流の心臓を、ドキドキさせてくる。それがまた悔しくて、


「……悪魔っ子。この、悪魔っ子ー!?」


 ケンカしてる相手チームを前に、鈴木さんが困った顔を、咲瑠に向ける。


「……何か、勝手にチーム分裂してますね?」


「ふふ、そう見えて?」


 宮子と静流の言い合いを眺める咲瑠は、なぜか嬉しそうに唇を綻ばせる。


「気を引き締めなさい。試合ゲームは、ここからよ……!」


 表情を引き締める咲瑠。ネットを挟んだ静流は、宮子を睨みながら、


「はっきりと、確信しましたわ。やはり私が誰より成敗すべきは……火蔵宮子! 貴女だってコトをね!」


「何よぅ。やれるものなら、やってみなさいな。でも、まずはそれよりも……」


 2人、顔を見合わせて、頷き合う。

 相手チームに向き合って、


「「この試合を! 終わらせるわ!!」」


「急に息が合った……!?」


 驚愕する鈴木さん。ケンカしてたはずの宮子&静流ペア、まるで一心同体のように、動きが同調シンクロし始めたのだ!

 お互いに視線を交わすことさえせず、パートナーがどう動くか、思考を共有しているかのように。


「ふふ、少女漫画でよく有るでしょう? 主人公と喧嘩ばかりしてるのが、最後は結ばれるのよ」


「確かに! ……少女漫画で見たことある!」


 少女漫画大好きの鈴木さん、咲瑠の言葉に同意……した後で、この先輩も読むの!?とびっくり。イメージに無い。


 そして、完璧なる同調シンクロで、点差を縮めていく宮子と静流ペア。


「やりますわね……! わたくしの『眼』でも、死角が『視え』ないとは!」


 これはテニスのシングル戦ではなく、ビーチバレー。

 完全な「同調シンクロ」を果たした2人の前には、あらゆる死角、隙を見抜く「御所園王国キングダム」も、もはや敵ではない!


 1回戦に続き、怒涛の追い上げ……死闘を制したのは、宮子と静流だった!


「やったぁ!」


「やりましたっ!」


 さっきまでケンカしてたのも忘れたように、2人して飛び跳ねる。


「ふふ、負けましたわ」


 宮子へ握手を求める咲瑠の顏は、不思議と嬉しそう。


「やっぱり貴女は、雪川さんといる時が、一番自然で、楽しそう。本音をぶつけられる相手といいますか。……小学校からの友人としては、ちょっぴりジェラシーを感じますけれど」


 静流へも微笑みかけて、


「貴女たち。良いコンビね」


 言われて宮子と静流は視線を重ね、ほんのり赤くなった。


「……もしかして、咲瑠。貴女、わたくしにそれを気付かせようと?」


 1年の、ほぼ面識もない子と急造ペアを組んでまで。

 宮子は、「66期生の双璧」と称されるこの親友を、見直し掛ける。

 が。


「先輩たちの友情、素敵です……! 私、この学園で女の子同士は、恋愛関係しか無いのかと思ってた!」


 そんな関係がどうやら苦手らしい鈴木さん、目を輝かせていると。

 咲瑠にっこり、その手を握る。


「あら、わたくしは断然、恋愛関係希望ですわ。健気にフォローしてくださる貴女のプレー、この御所園咲瑠の胸に、届きましてよ。さあ、次は試合の反省を語らいつつ……愛を深めましょうか♡」


「結構です!? やっぱり私、この学園苦手―!?」


 逃げる鈴木さんに追う咲瑠を見送りながら。

 宮子の中で、上がった友人の株が、元に戻った。


「……ええ、やっぱりあれは、女の子を口説くことしか、考えてないわね」


 ともあれ、1回戦に2回戦と、難敵を下した宮子&静流ペア。

 咲瑠に「いいコンビ」と言われたせいか、何だか、その気になってきた。


「……優勝、しちゃいましょうか」


「いける気がしますね……!」


 海辺のビーチバレー大会。

 彼女たちの快進撃は続く……!

 そして、とうとう準々決勝まで駒を進めた2人の前に、立ちはだかったのは。


「へっへ。やるじゃん、静流も、火蔵も。けど、優勝はあたしらがいただきだー!!」


「ふふ。雪川殿、長篠の雪辱、果たさせてもらうぞ?」


「下村紀香さん。……誾林ぎんばやし駿河さん!」


 宮子と静流にも負けない個性の、高等部2年の名物たちだった……!


 ※ ※ ※


【後書き】

新登場ゲスト

・誾林駿河 壊れ始めたラジオ様作「駿河皐月集」登場。「アルファポリス」にて連載中。

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