第13話

 今年の星花女子学園、高等部の1年生は「キセキの世代」と呼ばれるほど、スター揃い。

 その中でも、誰より目立つのが、美滝みたき百合葉ゆりはだ。

 歌手としても大活躍、人気声優2人と組んだユニット「mizerikorudeミゼリコルデ」も絶好調の、現役人気アイドルである。


「そぉーれっ!」


 ツーサイドアップに纏めた亜麻色の髪を翻し、オレンジのビキニを着た、アイドル百合葉。

 浜辺でビーチバレー……スポーツ飲料のCM撮影中なのだ。

 もちろん商品は、天寿ブランドの「めぐみ」。


「OK! いいよー、ゆりりん。良い、撮れちゃったわYO-☆」


 アロハシャツにサングラスの監督が、ぐっと親指サムズアップ。

 ちなみに監督はおひげのおじさんだが、数少ない「理事長が信頼する男性」だとか。


「はーい! お疲れ様でーす!!」


 ぶんぶん腕を振る百合葉。相手チーム役で出演していた、同じ1年の生徒……五行ごぎょう椿姫つばきをハグして、頬っぺたすりすりする。


「つばきゅんもありがとー! 楽しかったよ☆」


「わ、美滝さん、近いってば!? もうっ。……て、『つばきゅん』って私のコト?」


 ちなみに椿姫、五行財閥のご令嬢で、星花でも一番のお嬢様。さらに先々代のカリスマ生徒会長の妹ともあって、アイドルの美滝百合葉に負けず劣らず、目立つ存在である。

 そんな2人が水着姿で密着なので、浜辺に黄色い声が上がる。

 羞じらいながら椿姫、


「けど、良かったのかな。何だか、本気の試合になっちゃったけど」


「それがいいのYOォォォォーゥ!!」


 両手の親指をぐっ!と立てる監督。


「飛び散る汗! ぶつかり合う乙女たち!! Fooo青春☆ このCMは世界を制するわYOゥ!!」


「ふふ、僕は五行さんにリベンジできて、大満足だけどね」


 百合葉の隣で黒髪をふぁさっとかき上げる、長身の美少女。

 1年1組の、柳橋やなぎはし美綺みき


「まさか期末テストでも上を行かれるとは思わなかったけど。ビーチバレーは僕と百合葉の勝ちだし。これでイーブンだよね」


「え、やだ美綺ぽん、意外と子供っぽい……?」


 柳橋美綺は、宇宙開発の論文でNASAからスカウトされた、天才高校生。

 それでも1学期の中間に期末と、五行椿姫に学年首位を奪われたのが悔しい様子。


 一方椿姫は、気にした風も無く、百合葉の手を取り、にこっと微笑む。


「ふふっ、でも見てる皆も楽しんでくれたみたいだし、良かったよ。私も、お姉ちゃんには敵わないけど、学園を盛り上げたい気持ちは有るし。また、協力できることが有ったら、何でも言ってね!」


「ま、眩しいっ! 眩しいよつばきゅん!?」


「こ、これがカリスマ性!? 僕、器で負けた……!?」


 さて、CMの撮影班は撤収したが。

 せっかく学園のスターたちが浜辺に集まっているのに、これで皆が満足するはずも無く。


「うーん……。まだまだ、暴れ足りないよね」


 体力お化けのアイドル、美滝百合葉。マイク要らずでお馴染みの大音量ヴォイスで、生徒たちへ呼び掛ける。


「よぉーし、皆ー! 今から、第1回、ビーチバレー美滝百合葉カップを開催するよー! 優勝チームには、私がなんとか、『疾風はやて』の皆さんからサインをもらって来ちゃいまーす☆」


「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」


 「疾風はやて」と言えば知らない者の無い、結成20周年を迎える国民的アイドルグループ。年末の歌番組の司会やら武道館でのライブやら……とにかくすごい人気なのだ!


 こうして、りんりん学校1日目の昼、浜辺のビーチバレー大会は、星花女子のほとんど全員が参加したと言う、伝説のイベントになるのだった。


「な、なんだかすごいコトになってますわね……?」


 ビーチへやって来た雪川静流。推しは男性アイドルより戦国武将!なので、ちょっと皆のノリに付いていけない。

 生粋のレズで知られる宮子も、不参加の方向だろうか、と見上げると、


「ふふ、わたくしは出るわよ」


 意外や意外、舌なめずりして、やる気満々だ。


「え、火蔵かぐらさん、『疾風』ファンでしたの?」


「違うわよ。わたくし、こういう勝負事って、大好きなの。それに……」


 宮子は、アイドル美滝百合葉へ、不敵な視線を向ける。


「ふふ、去年は学園のアイドルと言ったら、わたくしか咲瑠だったでしょう? ……負けられないわ」


「けっこう好戦的ですのね、貴女?」


 静流のジト目は涼しい顔で受け流し、浜辺を闊歩。

 モーセが海を割るように、人垣がどいていくのは、さすが宮子、女王の貫録だ。

 その視線の先では、美滝百合葉がニッコニコで呼び掛けている。


「はーい、それじゃ第1回戦、始めるよ☆ 私と美綺ぽんのチーム『∞ガールズ』と対戦したい人、いるー?」


「ええ、わたくしが挑ませてもらうわ」


 右手を上げる宮子。左手では、静流の手をがっちり握っている。


「雪川さんと一緒にね!」


わたくしもですかー!?」


 ※ ※ ※


【後書き】

新登場ゲスト


・五行椿姫 五月雨葉月様作「好きになるってどういうこと?」登場。「小説家になろう」にて連載中。


・柳橋美綺 拙作「∞ガールズ!」登場。「小説家になろう」にて完結。

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