第22話
林間&臨海学校、通称りんりん学校は、生徒の自主性を重んじる星花女子学園らしく、自由時間多め。
けれど仮にも学校行事なので、もちろんお勉強タイムも有るのだ。
「なあ、
今年初めて参加する1年生たちが、相談している。
「うーん……。園芸部の皆からは、この『植物と昆虫の共生』って授業に誘われてるんだ。その道の権威の人が来るんだってさ」
通常の授業とは違う。星花大学の誇る教員たちが、高校では受けられないスペシャルな授業を行うのだ。学年の区別も無い。
「けど、虫か……。花はいいけど、虫はあんまりな……。
「僕はこの、『IT時代における西サモア文学内のモケーレ・ムベンベと人形浄瑠璃』かな。内容が想像できなくて、面白そうだ」
「ホントに内容が分からないな!?」
時間的にすべての授業は受けられないので、こうして、それぞれ興味ある内容を選ぶ生徒たち。
雪川
「もちろんお父様の、『今川家臣団の編成から見える、戦国期空の宮市の経済』ですよ」
「ええ、だろうと思った……!」
付き合わされた宮子、呆れるけれど、静流はもうわっくわくだ。
静流の父で、星花大の教員でもある雪川義之の、歴史講座。
ホテルの会議室や広間など、授業の人気度で使う部屋は変わるけど、この授業は毎年、大広間を使っている……人気上位の授業なのだ。
「ふふ、さすがはお父様。今年も人気ですね♪」
静流の父、雪川義之は、それなりに知られた歴史学者で、郷土のミクロな歴史と、マクロな日本史、世界史とを繋ぐ視点を提唱している。
とはいえ人気の理由は、ハーフで銀髪の、イケてるダンディーだからと言うのが、強い。
「けど、さすがにやりにくそうね。雪川さんのお父様」
娘がにこにこ笑顔で見守ってるとか、逆授業参観。
宮子は静流父に同情する。
「はい! はい! 私、その問題分かります!」
静流父が生徒たちに問いを投げ掛けると、目を輝かせて、娘が挙手する。
「……あのね、静流? 君には、僕が直接教えたよね? ここは、他の生徒に譲ってあげてくれないか?」
父親困る。微笑ましい光景に、皆がくすくす笑って、静流も赤くなる。
それを見て、宮子は。
(本当に、家族仲良しなのね。……うちと違って)
父親だけなら、宮子を溺愛してると言っていい。
けれど、義母と、弟たちは違う。
(仕方がないか。『血を分けた』とは言えないのだし)
宮子は、父が水商売の女性に産ませた、非嫡子。
実母は宮子を出産した際に、他界してしまった。その負い目からか、父は宮子を随分と大事に育てたが、それがまた義母や弟2人との間に、
はっきり言って、火蔵の家は居心地が悪い。だから星花女子の中等部に入る時、父と直談判して、寮に入れてもらった。
それから5年。同じ空の宮市にいながら、ろくに帰ってもいない。
父からは毎月、高校生には過ぎた額のお小遣いをもらってはいるが。義母と弟は、もう声も忘れ掛けてる。
(高等部を卒業したら、星花大の寮に入るか、アパートでも借りて。その先は……?)
戦国大名、今川家とその家臣である雪川家や誾林家が、どう結びついていたかを聞きながら、
(わたくしは、いつまで家から、逃げていられるのだろう)
そんなことを、ぼんやりと考えていた。
「……さん。……蔵さん。火蔵さん!」
静流に肩を揺さぶられて、我に返る。
「なんですボーっとして。もう授業は終わってますよ」
「ふふ。授業が面白くて、夢中になっちゃってたみたい♡」
ぺろ、と舌を出す小悪魔だけど、
「……だまされませんよ?」
さしもの静流も、そんなチョロくはなかった。
ジト目で睨みながら、
「どうせ、えっちなことでも考えてたのでしょう」
「まあ、心外ね。わたくし、そんな認識なわけ?」
軽口を叩きながらノートを仕舞っていると、時刻は夕方。
館内放送で、大浴場の準備が整ったとアナウンスが流れる。
火蔵宮子、今日一番の、満面の笑顔。
「じゃあ、わたくしが何を考えてたのか、ゆっくりお話ししましょうか。約束通り、お風呂でね♡」
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