第25話
りんりん学校、1日目の夜。
ビュッフェ形式でごはんの後は、自由時間だ。
1日目、2日目ともキャンプファイヤーは恒例。南の島出身の裏沢ムムが、島の巫女に伝わるエキゾチックな踊りを披露したり、生徒たちで花火を楽しんだり。
消灯時間まで、露天風呂にプカプカ浮く者がいたり。
1日目のメインは、何年か前から伝統になりつつある、広間でのカラオケ大会だろう。これは消灯時間近くまで盛り上がるので、参加は高等部の生徒のみとなっている。
星花らしく、強制参加のイベントは無いので、それぞれ思い思いの夜を過ごす。
そして雪川静流はと言えば。
「ではここに、『第3回・今川義元公&雪斎様ファンクラブの集い』を、開催いたしますわ!」
布団の敷かれた和室のひとつ。歴女仲間を集めていた。
「ふふ、消灯時間までは部屋も空いてますし。今夜は存分に、語り合いましょう!」
参加者は、会長の静流以外は、中等部の3人。
静流のテンションが
眼鏡が知的な黒髪少女、
「あ、私、夢女子なんで。義元様と雪斎様のダンディ2人にめっちゃチヤホヤされる妄想とか語りますけど、いいですか!?」
「ええ、ええ。OK、OKですわ。戦国を生きた義元公たちの、現代人には無い魅力、思う存分語って下さいな」
静流はGOサインを出すが、見た目はギャルの
「えー、今川義元と雪斎を語るなら、『どっちが攻めか』でしょ! あたしは断然、雪×義だけど。掛け算の順番は譲れない!」
杏子、眼鏡をカチャッと整えながら、
「腐女子め。私はそっち興味無いの。戦国武将たちの熱い関係性をさ、恋愛的な目で見てほしくないのよね。忠義だったりライバル心だったり、そういう命懸けのがさ、現代モノには無い、熱いアレなわけじゃない?」
「うんうん、それもBLだね」
茂美、動じず反論。
「恋愛だけがBLと思ってる辺り、杏子はまだまだだなー。忠義だって殺意だって、広い意味ではBLだよ!! 男と男が激しい感情をぶつけ合うんだから、合戦はホモセだよ!!!!!」
そのまま口論になりそうな気配を察知して、静流が止める。
「ストップ! ストップですわ。まだまだ私たち、女子の戦国ファンは大きな勢力とはいえません。多少の解釈違いはあれど、そこはうまく棲み分けて……無益な争いは慎まなければ」
「「はい、会長!」」
そして静流は、もう一人に声を掛ける。
大人しそうな見た目で、ファンの集いには初参加の少女、赤倉
「ごめんなさいね、赤倉さん。皆、戦国と義元公が大好きだからこそ、熱が入ってしまって。怖い人たちでは、ありませんから」
「い、いえ。怖いだなんて、そんな。先輩たち皆さん、熱く語ってて、楽しそうって思いました」
見た目ギャルの腐女子、茂美が、滴に聞いてみる。
「滴っちは、推しカップルとか有るの? やっぱ雪×義? それとも朝比奈親徳攻めとか?」
「なんで当然みたくBLなんだよ……」
眼鏡の杏子が呆れる。滴はおずおずと、
「あ、あの、私、武将にはそんなに詳しくなくて。私が興味有るのはですね、合戦の戦術とか、天候の影響とか……。ほら桶狭間だと織田信長の奇襲の時に都合よく雨が降ったでしょう? あれは戦国時代の気候が現代と違う小氷河期だったから歴史の必然と言えなくもないですけど、やっぱりああいう不確定要素が無かったらどうなってたかとか、そういう部分を想像するとドキドキしてくるというか」
(この子……合戦マニア!!)
同じ歴史好きと言っても、明らかにジャンルの違う滴に、静流含め3人は戦慄。
「
うっとりする滴さん。やべー奴だった!
「ちょっと、会長。どうするんですか、この空気」
眼鏡の杏子が、静流へ耳打ち。
「お、落ち着いて。落ち着きましょう。赤倉さんも、義元公を敬愛することには、たぶん……変わりは有りませんので。話せば分かりますわ」
ノンストップで首級の運び方について語り始めた滴を前に、ドン引きする静流たち。
その空気から解放してくれたのは、
浴衣姿の宮子、静流の腕を捕まえるなり、
「雪川さん、漫画って興味ある? 有るわよね。よし行きましょう、原稿の手伝いしましょう! エヴァお姉さまがピンチなのよ!」
「え、え? 何ですのいきなり! 人並みには読みますけど、どちらかと言えば、歴史小説派というか……!?」
有無を言わさず、ずるずると部屋から連れ出される。
残された少女たち、
「なんて鮮やか……まるで桶狭間の奇襲……!」
しかし主催者がいなくなった程度で、消えるような語りたい欲ではなかった。
赤倉滴、まだまだ語る。
「会長が連れていかれてしまいましたね……。でも大丈夫、私、首級の奪り方とか、切腹の作法とか、一晩中でも語れますから! あ、鉄砲傷を受けた時の当時の治療法とかの方が、面白いですか!?」
「何でそんな、血生臭い話題ばかりなのさー!?」
「BLのほうが、まだマシだわ……」
ファンの集い、第4回の開催は、未定。
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