第32話
「中等部の時、星花祭の合唱部のコンサートを見て。ああ、こんな綺麗な人がいるんだって、憧れて」
潮風薫る、山の見晴台で。
静流は照れながら、宮子に憧れていたことを、告白する。
「だけど、見てしまって……! その、貴女が、先輩と、学校で……! エッチなコトを……!」
それ以来、そういうことに拒否感を覚えるようになってしまった……というのに。
元凶の宮子は、あっさりと、
「それって、逆ギレじゃないかしら」
軽く受け流すのだった。
「雪川さんてば、つまり、わたくしに理想を押し付けてたわけでしょ。でもね、昨日のビーチバレーでも言ったでしょう? わたくしは、エッチ大好きなの」
「うぅ、それはまあ、『こんな綺麗な人は清純に決まってる』って、私の願望ですけど……」
それは静流も否定しない。
だけど、その後も、宮子が色んな女子と肌を重ねては捨てているのを目撃して。
ますます性的なコトへの嫌悪感が強まったので。
結論。やっぱり
「だいたいですね、て、手を繋いだりとかは、お付き合いして、結婚して、それからですっ!」
「手を繋ぐのも!? 重すぎよ!」
宮子も反論。
「カラダの相性なんて、してみないと分からないでしょう? お互いを知るためにも、まずはセックスが一番よ」
「軽い! 軽すぎます!!」
「そもそも女同士で、子作りするわけじゃないもの。お互い気持ち良くなれるんだから、難しく考えず、皆気楽にエッチすればいいのよ。友達でも姉妹でもね♡」
「だ・め・で・す! やはり貴女とは、絶対に相容れませんね……!」
雪川静流と火蔵宮子。2人の間には、マリアナ海溝よりも深い溝が横たわっているのを、改めて認識する……。
けれど宮子、ニマニマといつもの小悪魔顔で、
「……わたくしは、貴女がお望みなら、いつでもOKだけど。案外、カラダの相性も抜群かもしれなくてよ」
今夜の肝試しで、どう?と誘惑してくるが、静流も少し慣れてきたので、赤くなりながらも冷静にお断り。
「言ったでしょう。私は、そういうコトは、生涯添い遂げる相手だけと、決めてますのでっ」
「ふぅん。真面目ね」
宮子、長い黒髪が海風に揺れるのを、払って。
「貴女とは、してみたいけどね。わたくし、年下っぽい子はそんなにだけど……雪川さんは妖精みたいで、とびきり可愛いし♡」
「……顔じゃないですか、それ」
宮子に可愛いと言われて、嬉しくないと言えば嘘になるけど。
静流はジト目で睨んでやった。
「あら。そういう雪川さんだって、わたくしがエッチな子だって知る前に憧れたのでしょう? つまりは顔でなくて?」
「……否定はしません。貴女の、か、顔は……好きです」
顔だけはね!と強調したつもりの静流だけれど。
宮子が、あんまり嬉しそうにするので、むしろびっくりした。
「ふふ。少なくとも、わたくしの顏は、好きなわけね。貴女と一緒にいるの、楽しいし。嫌われてないだけでも、嬉しいわ」
「……そういうところが、ずるいんです、貴女は」
気付けば長く話し込んでたみたい。
海に沈み始めた夕陽が、静流の頬が紅いのを、誤魔化してくれた。
「もー! 何度だって言いますからね!? 貴女の、エッチなところは嫌い! 嫌いですからぁっ!?」
「ふふ、そう言わないで。やっぱり夜の肝試しで、試してみましょうよ。相性ピッタリかどうか♡」
「いいえッ絶対、絶対に肝試しでエッチなコトなんか、しないし、させませんからぁ!!」
その髪を弄ってじゃれながら、宮子は微笑んだ。
「やっぱり、貴女と一緒は楽しいわ。
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