告白 2

 わたくしは、ユイリーン様の乳兄弟でした。

 ユイリーン様がどなたかですって? ご存じないのですか? セドナ王国最後の女王陛下ですわ。グランエスカのかたがたは、滅ぼした国の、命を奪った相手のことなど、一切興味がないのですね。敬意も品位も感じられない、見下げ果てた性根ですこと。

 今更ユイリーン様のことをお話しする必要性は感じません。あなたがたに、ユイリーン様のことを一言だって漏らしてなるものですか。

 セドナ王国が滅びた日、わたくしもユイリーン様と共に果てるつもりでした。けれど、あのかたはそれをお許しになりませんでした。わたくしに、姫様をお守りするようお命じになったのです。後を追うことは許さない、と。

 姫様は姫様です。あなたがたが虹翅の姫と呼ぶかたですわ。名前? ユイリーン陛下がお授けになったお名前がありますけれど、何故あなたがたに教えないといけないのです?

 わたくしは、姫様と共にグランエスカへ身を寄せることになりました。

 故郷を奪い、畏れ多くも妹のように思っていたかたを奪った、憎んでも憎みきれない相手の懐で生きねばならない気持ちを、おわかりになるかしら。

 ええ、わたくしは、ユイリーン様がお亡くなりになったときに、死んだのです。ここにいるのは生ける屍。グランエスカを恨むだけの亡霊ですわ。

 ですから、わたくしに心など期待しないでいただきたいのですけれど。グランエスカのことなど、道端の石ほどにも思っていませんわ。一日も早く滅びてしまうよう願っています。塵も残さずなくなってしまえばいいのに。

 無辜の民だなんて……何を今更。あなたがたは何千人、何万人と殺してきたでしょう? その無辜の民を。何故、自分たちの番がこないと思うのです? 理解に苦しみますわね。グランエスカの民だというだけで、恨み憎むに値します。あなたがたはそれだけのことをしたのですわ。

 憎しみや復讐に意味はない、何も生まないですって! なんておめでたいかた! 

 何かを生み出さなければなりませんの? 意味のないことをしてはいけませんの? グランエスカが滅びても気など晴れないし、虚しいだけだということは承知の上です。ええ、ユイリーン様もセドナの人々も生き返りませんわ。何をわかりきったことを。馬鹿にしてらっしゃいます? 最初から承知で申しております。

 何度でも申し上げますけれど、わたくしはグランエスカが憎いのです。グランエスカの民だというだけで八つ裂きにしたいくらい恨んでいます。それが、それだけがすべてですわ。他には何もありません。

 グランエスカが滅びるならなんでもしますわ。ですが、それに姫様は関係ありません。一切がわたくし一人で考えていることです。姫様が関係あるだなどと、よくも仰いましたわね。そんなわけがないと、少し考えればわかるでしょうに。良識を疑いますわ。ちゃんと考えてからお話になるべきです。

 すべてはわたくし一人の咎ですわ。よろしいですね?

 ときに、ノイン様は何か仰いませんでしたか? ……そうですか、何も。あのかたも不思議なかたですわね。大嫌いですけれど。不慮の事故で死んでしまえばいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る