第37話 お前は自分を信じて大丈夫な人間だよ。

(2019/9/14に第36話を更新しています。未読の方は1話戻ってください)


 ーーー


「来いやぁぁぁっ!!!ケダモノぉっ!!!

 ここから先、一歩も行かせはせん!!!


 ーーー明日の日本を背負う若人を守って死ねるならば本望!!!

 我が天命!果たす時は今ぞ!!!」



 決意を込めた叫びをあげて、モキチさんが黒狼に対峙する。

 私は膝が震え、身動きが取れない。


 ーーーバカ!こんな時に固まってる場合なの!?

 誰のせいでこんな状況に陥ったと思ってるの!?



 ……逃げる、のか。私は。

 モキチさんを置いて。モキチさんを見捨てて。



 ーーーだって仕方ないじゃない。あの黒狼には敵わないよ。

 モキチさん自身が逃げろと言ってくれてるんだ。

 あの人の覚悟を無駄にしちゃダメだよ。



 そんなこと言ったって!

 このままじゃモキチさんが確実に死んじゃう!

 一番傷が浅いのは私なんだ!助けに行かないと!



 ーーーじゃあ、サワタリは死んでいいんだね?

 ほっとくと、きっと死んじゃうよ。あんたなんかを庇ったせいで。

 あーあ、モキチさんが可哀そう。

 彼のことを助けようと、折角最後の回復薬ポーションを託してくれたのにね。



 ……!



 ーーーねえ、仕方ないじゃない。

 みんなベストを尽くしたんだよ。誰のせいでもない。

 仕方ない仕方ない仕方ない。

 だから、あんたはここでサワタリの命を救って、逃げて、ギルドにこの怪物のことを報告して。

 それがあんたのベストな役割ってやつだよ。



 ……だからって!そんな簡単に割り切れるわけないでしょう!



 ーーーあんたが死んだら、家族はどうなるの?

 ローンも払えない、生活費も用意できない。学費も準備できない。家もなくなって一家離散かな?

 みんな困っちゃうね。ママも、ヒロ君も、カエデも、モミジも、タッくんも。

 それとも、今度はヒロ君やカエデ達が冒険者として働かされちゃうかもね。

 あーあ、ウツミんさんも気分悪いだろうなぁ。

 こんなガキに好き放題言われて、謝罪一つなく死んで逃げられちゃうなんて。



 ……!



 そんな事を考えていたら。



「……リ……マリ。助けてくれ……」



 息も絶え絶えというサワタリが、声を絞り出す。

 ……迷ってる場合じゃない!


 とにかくこのサワタリだけはすぐに助けないとと思い、回復薬ポーションの栓を空けるが。


 グっ。

 そんな私の腕をサワタリは押しとどめる。


 一体何なのか。

 そんな私の逡巡をよそに。



 サワタリは、自分の靴を脱ぎ。

 それを私に差し出し。

 さらには、なんと、私に土下座をし始めた。



「助けてくれ……どうか、あのジジイを助けてくれ!

 畜生……悔しいが、俺の実力じゃ届かねえんだ!!!クソ……!


 ダセぇのはわかってる……!散々オラついといて、女に命張らせるしかねぇテメエが情けなくって仕方ねえ……!

 でも、思い知ったんだ!

 お前が俺なんかとは格が違うって事も!この靴はお前が使った方が、ずっとずっとあのジジイの力になれるって事も!」



 涙をボロボロ流して懇願するサワタリ。



 どうしよう。

 どうしようどうしようどうしよう。



 サワタリが言ってること、叶えてやりたいとも思う。

 心の芯の芯から出た、むき出しの言葉。むき出しの思い。

 ……私に力があるなら、快諾してモキチさんを助けたいって気持ちは確かにあるんだ。


 でも。あの黒狼の凶悪なまでの強さ。

 怖い。恐ろしい。敵う気がしない。

 死にたくない……死ねない。私には、死ねない理由があるんだ……。

 ……こんなことを考えている冷酷な自分に、強烈な嫌悪感が湧いてくる。



「サワタリ……でも、モキチさんはあんたを助けるために命を張ってるんだよ。

 私は、あんたを助けるように頼まれたんだ」


「俺なんかどうなったっていいんだ!

 あのジジイは死んじゃならねえ!俺みたいなクズにあんなにしつこく世話を焼ける奴、他にどこにもいねえんだ!

 きっとこの先も、俺みたいなゴロツキを、何人もマトモにしてやるに違いねえ!

 畜生……オサムの野郎もそうだったんだ。こんな貴重な馬鹿、これ以上減らしちゃならねえ!


 頼む……頼むよ!

 この靴でも、杖でも、俺の持ってるものは全部やる!

 だからあのジジイを死なせないでくれ!


 ……たまるかよ!これ以上、人生捨てる言い訳に使われて、たまるかよ!」



 ……!


 最後の方は嗚咽交じりで、正直何を言っているのかわからなかったけど。

 何か。何か熱いものが私の身体を貫いたのを感じた。


 思考がクリアになっていく。

 身体の震えが止まる。心臓の静かな鼓動がやけに鮮明に感じられた。



「わかったよ、サワタリ。

 この靴だけ、少し借りるね。杖はいいや。

 多分、使い慣れた武器のほうがいい」


「マリ……すまねえ!」


「その代わり、一つ約束して。

 この最後の回復薬ポーション、あんたじゃなくてモキチさんに使うことになるけど。

 あんたも絶対に死なないで。


 黒狼を倒して、3人揃って笑って帰る。

 そのためじゃなきゃ、私は戦わないからね。

 約束破ったら、許さないんだから」



 自分でも、何が私の考えを変えたのかわからない。

 ただ、自然とこうすることを選んでいる自分がいた。


 色んな事情も背景が消えさって。

 2人を守って自分も無事に生還する。

 その選択肢以外、もはや私の視界に入らない。



 体中に気力が満ちるのを感じる。

 静かで、それでいてとても熱い何かが充満している。

 サワタリから受け取った靴に履き替える。



 身体が消えた。いや、重力が消えた。



 数メートル離れたモキチさんと黒狼の戦闘領域が、まるで一跨ぎで届く距離のように感じる。

 どころか、ゴブリンキングの結界の端から端までさえ、テーブルの上の醤油に手を伸ばす程度のような距離感に感じる。


 トン。

 試しに軽く踏み込んでみたら、瞬間移動のような速度で黒狼の脇をすり抜け、はるか後方の地点にたどり着いた。

 再度逆方向に踏み込み、今度はすれ違いざまにトンファーで一撃を見舞い、モキチさんの隣に立つ。



 身体が軽い、という感覚さえない。

 まるで地面のほうが縮んで、目標地点が自分に引き寄せられているみたい。



 これなら行ける。

 私は跳べる。戦える。


 傷だらけのモキチさんの隣に立ち、無言で回復薬ポーションを振りかける。

 失った左腕は流石に戻らないが、全身の出血がとまり、多少は体力も回復したはずだ。


 心底驚いた表情で私を見るモキチさん。

 それでも私は揺るがない。



「死んでも逃げないよ。

 モキチさんもサワタリも、絶対守り抜いて見せる。

 3人揃って笑って帰る。それ以外認めないから」


「ぬ……」



 なにか言いたそうなモキチさんだったけど。

 私が一歩も引く気がないことを悟ったのか、観念したような表情を見せた。



「あいわかった。そこまで言ったからには、覚悟をみせろよ」


「勿論よ!任せといて!」



 そこからの戦いは壮絶を極めた。


 腕を失ったはずのモキチさんだけど、その業は一層冴え渡った。

 普通、片腕を失ったら体内バランスが大幅に変わってまともに動けなさそうなものなのに。


 こういうのを、入神の域と呼ぶのだろうか。

 これまで以上の異常な迫力で繰り出す武術は、人間離れした速さと巧さで移動と攻撃を繰り返す。

 ただ、物理的に手数が半減してしまう影響は流石に避けられないようだった。



 黒狼の方は、これまでとかなり勝手が違うようだった。

 全身を鎧のように覆っていた体毛を発射してしまったことで、その防御力は大幅に損じていた。今や、地肌が透けて見えるほどにその毛並みは薄くなっている。


 おかげでこちらの攻撃は十分に通る……これまで通用していなかった私のトンファーでも十分ダメージを与えられるほどに。

 一方で、体重が軽くなった影響か、そのスピードはさらに増していた。



 私は、その黒狼をさらに上回るスピードを手にしていた。

 この靴の性能は本当に段違いだ。

 これまでとの感覚の違いに少々戸惑ったが、すぐに慣れる。

 より強く蹴り付ける足が、トンファーの威力さえも大幅に増してくれる。



 だけどやはり。

 回復薬ポーションが切れたのが苦しすぎる。

 こちらは一発でも直撃を食らえば戦闘不能の状況下。

 それでも紙一重でかすり傷を貰いながら出ないと、ほとんど攻撃のチャンスは作れない。


 蓄積するダメージ。累積する疲労。

 私の体力は限界寸前。モキチさんは満身創痍。

 一方で黒狼はダメージを追いながらも、まだ余裕がある。



 まずい。負ける。押し切られる。

 絶対、絶対生き残るって決めたのに……!


 もっと速く。

 もっともっともっと速く。

 限界を超えた速さで攻撃できれば……!!!



 左脚の膝。古傷を、苦い思い出を抱える箇所を、不意に撫でる。



『マリの膝はもう治ってるよ』



 ふと、誰かの言葉を思い出した。

 彼が、私に家事を教えてくれ始めた頃の会話だ。



『ただ、痛めた時のショックを引きずっているせいなのか、いつも庇いながら動いているみたいだな。無意識のことだろうけど。


 そのせいで、純粋に膝周辺の筋力が低下しているんだ。

 自分でも心許なくて踏み込み切れないんだろ?それはそのせいだよ。

 でも、大丈夫。計画的に鍛え直せば、前以上に強くなれるよ』



 たしか、ゴブリンキング狩りの休憩中。

 レベルアップの打合せの中、意を決してという感じで。

 それまであえて触れなかった部分に、言及してきたんだ。


 私も、つい淡白な返答をしてしまったような記憶がある。



『……気持ち的に向き合うのが怖いってのは、まあわかる。

 俺だっていまだに向き合えていない過去がいくつもあるしな。

 なんでも逃げずに向き合うのが正しいってわけじゃないさ。


 逃げたいときは逃げりゃあいい。

 人間誰だって、そうやって本能的に自分の精神を保護してるんだ。

 生き物としてそういう機能が付いてるんだから、しっかりそれを利用して心を守るのは重要なことだと思うぜ。


 無責任な外野は気軽に頑張れとか逃げるなとか言うけどよ。

 向き合う気持ちになれないってことは、要はまだ向き合う準備が出来てないってこった。

 それを無視して突っ走っても、大抵はロクなことにならねえよ』



 ただ、それでも。

 そう言ってウツミんさんは言葉を続けたんだ。



『もしも、もしもさ。

 その膝を強くしたいと思ったらさ、そん時は俺に相談してくれよ?

 いや、精神的な指導とか人生相談とかは出来ねえよ?俺自身の人生経験がヤバいくらい薄いからな。


 そうじゃなくて。具体的なトレーニング方法とかね。

 それなら力になれると思う。ほら、迷宮ダンジョン内なら俺の”眼”が効くからさ。


 ……お前は大丈夫だよ。

 もっと。もっともっと跳べる。

 もしもその気になったら、でいいからさ。自分の膝も、自分の心も、信じてやりな。

 お前は自分を信じて大丈夫な人間だよ。俺と違ってね』



 こんな時なのに、思い出して吹き出してしまいそうになる。

 折角いいことを言っているのに、どうしてオチを付けずにいられないのかあの人は。



 ……ウツミんさんこそ、もっと自分を信じたらいいのに。

 彼が自分の事を信じられなくても、私は彼を信じているのに。


 私は自分のことは、ちっとも信じられない。

 だって私は悪い子だ。ダメな子だ。

 家族のことも。チームのことも。

 全然守れなかった。導けなかった。



 でも。それでも。

 ウツミんさんが私を信じてくれたのなら。

 試しに、ちょっとだけ信じたことにしてみようかなって気にもなるじゃん。


 それに。それにさ。

 サワタリとモキチさんのこと。

 計算抜きで2人を守ろうって思えた自分のこと。

 ちょっとだけ誇らしく思えたりもするんだ。



 だから、たとえ自信がなくたって。

 勇気だけなら湧き起こせるから!!!


「サワタリ!!!」



 縦横無尽に跳び回りながら、大声で呼びかける。



「大怪我して辛いとこ悪いけど、お願いしたいことがあるの!

 一つだけ!一つだけ私の言うことを聞いて!!!」



 そして、つい先ほど閃いた作戦を叫び伝える。

 口に出してみると我ながら、綱渡りにもほどがある無茶苦茶な作戦だね。

 よほどネジのとんだ人間じゃなきゃやろうとも思わないだろう。


 案の定サワタリも、あんぐりと口を開けている。

 でも。



「ほっほーー!面白い!儂は乗ったぞ!

 よかろう!タイミングは、儂が何をおいてでも必ず作る!

 おんしらは互いの呼吸を合わせて機を待てい!!!」



 ノリノリで快諾したのはモキチさんだ。

 なんかキマっちゃってる感じさえする。

 それを見たサワタリも、半ばヤケクソという感じで作戦の準備を始める。



 私は引き続き戦場を駆けまわる。

 ただし、さっきまでよりも守備的に。

 あくまでモキチさんの支援のポジション。決して敵の攻撃を食らわないような位置取りで。


 サワタリは餓者の杖を手に、コツンコツンと壁や床を叩いている。

 あの行為でも、少しずつ"魔素"を杖に吸収できているはずだ。


 そうして2人で、固唾をのみながらモキチさんが”機”を作るのを待つ。



「親父も祖父じい様もたどり着けなかった遠藤流奥義……。

 必ずここで決めて見せる!


 僥倖だぞ!犬コロ!

 わが生涯の意味を!価値を!貴様が試させてくれるのだからな!!!」



 アゲアゲのモキチさんが黒狼と対峙する。

 これまで以上に冴え渡った動作で、紙一重のところで敵の攻撃を躱し続ける。


 奥義。多分それが炸裂した瞬間が合図だ。

 気を練り、意識を研ぎ澄ませ、ただその時を待つ。


 黒狼の爪を躱し、手裏剣を放つ。

 鎖分銅を後ろ脚に投げ放ち、躱しざまの噛みつきを飛び退いて躱す。

 黒狼の飛び込みの軌道上に小太刀の斬撃を置き、挙動を牽制する。



 まだ……まだなの……。

 緊迫感あふれる攻防に、心がジリジリと焼けついていく。

 一瞬でも気を抜けば即死の魔境。

 あの怪物を相手に、たった一人で互角の戦いができるなんて。

 あんな神業、モキチさんにしかできないだろう。



 そして、やや大振りな苦無くない投擲が躱された瞬間。

 モキチさんの気配が僅かにブレるのが見て取れた。

 それを好機と見たのか、黒狼が渾身の勢いで突進し、右前脚の爪で斬りかかる。


 ……大丈夫。あのタイミングなら躱せるはず。さっきまではそうだったんだから。


 しかし。



 ズバっ・・・



 ーーー黒狼の爪が、モキチさんの左肩から深々と突き刺さった。



「ーーーダメっ……!」



 失敗した!

 そう反射的に判断して、身体が飛び出しそうになったその時。



「行くなマリ!ジジイを信じろ!」



 真後ろのサワタリの声に、すんでのところで静止する。



「遠藤流柔剛術奥義ーーー」



 攻撃を食らったはずのモキチさんが、そのままの体勢で一歩前進する。

 虚を突かれた黒狼は、無防備に腹部を曝け出すことになる。



「ーーー『桜花』!!!」



 がら空きの心臓部に向け、攻撃を放った。

 多種多様な武器を使ったモキチさんがそこで選んだのは、素手での一撃。

 それも、拳打ではなく開手。てのひらで撃ち抜いた。


 掌底ーーーいや、発勁?

 身体の表面の破壊ではなく、浸透する衝撃で内部破壊をするっていう、あの?

 漫画でしか見たことのないそんな技を、現実で、それもこの状況でやってのけたっていうの?



 いや、驚くべきはそこではなく。

 黒狼の一撃をその身に受けながら、眉一つ動かすことなくそれを実践したことだ。



 まるで・・・

 最初から・・・・敵の攻撃を受ける・・・・・・・・事を前提とした・・・・・・・

 そういう技みたいに・・・・・・・・・



「ギャ、ギャワワワワァっ!!!?」



 流石に大ダメージを受けたらしい黒狼がついに悲鳴を上げる。

 さらには、その巨体が空中に打ち上げられ、隙だらけの体勢を晒すことになる。



 感心してる場合じゃない!

 今!今この瞬間で決めなきゃ勝ち目はない!!!



「行っけぇぇぇぇっ!マリぃぃぃぃぃぃっ!!!」


「うおおおおおおおおっ!!!」



 サワタリの声に弾かれ、私は全速力で黒狼に駆けだす。


 同時に、サワタリが餓者の杖から強烈な光弾を打ち出す。

 さっきかき集めた"魔素"も含まれているだろう。少しでも威力を上げるために。


 狙いは当然黒狼ーーーではない・・・・

 私だ・・

 私を丁度真後ろから撃ち抜くように、その光弾は射出されている。

 私の立てた作戦通りに!



「ここだぁぁぁぁぁっ!!!」



 私がどれだけ速く走ろうと、光弾の速度には敵わない。

 当然、追いつかれて背中から撃ち抜かれるだろう。普通なら・・・・

 だが、その直前に私は飛び上がり。



 空中で・・・左脚の裏で・・・・・後方の・・・光弾を思い切り・・・・・・・蹴り付けた・・・・・



 ほとんど非現実的なタイミングが要求されるはずだが、なぜか絶対に成功できる確信があった。

 既に最高速度に達していはずの身体が、さらに強烈に前方に押し出される。


 だが、当然蹴り付ける左脚には凄まじい衝撃が走る。

 特に膝。ここで踏み切れなければ体勢は崩れ、スピードは霧散し、全ては水泡に帰すだろう。



 中学時代の全国大会の苦い瞬間が脳内にリフレインする。

 消え去った夢。陶酔する仲間。去っていくパパ。

 膨大な絶望と孤独が私の胸を占拠しようと襲い掛かる。



 でも。



「負けるな……」



 積み重ねた今日が。

 戦い続けた今が。


 共に死線を潜る戦友たちの声が。

 相棒の暖かい笑顔が。


 跳ね飛ばせと。負けるなと。心の中で叫び続ける。



『お前は自分を信じて大丈夫な人間だよ』



「負けるな!私の膝!私の心!!!」



 ありったけの"魔素"で、左の膝を”レベルアップ”する。

 靴の性能で、足の裏の光弾から吸収した分まで含めて、全部。

 そこだけはこれまで一度もレベルアップしたことはなかったけど。



 グン・・

 想像したことさえない程の安定感で、私の体は前方に押し出される。



 知覚不能な速度で打ち出された肉体は、空気の壁を突き破る。

 まるでガラスを叩き割るように、バリバリと何かを粉砕したような錯覚さえあった。

 破ったのは、空気の壁だったのか。それとも心の壁だったのか。



「せいやぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」



 狙いはがら空きの心臓部分。

 モキチさんが撃ち抜いた、黒狼最大のウィークポイント。



 私は跳んだ。

 今までで一番迅く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る