第15話 やだこのおじいちゃんテクノロジーを使いこなしてる……

「遠藤流柔剛術といっての。

 武器術、毒術、無手術、何でもありの合戦術じゃ。

 それを教える道場を代々経営しておっての。

 まあ、儂の親父の代までは原理主義的というか、武人気取りというか。

 誰にも理解されなくともよいから正しく術理を受け継ぐことを重んじとった。

 でもの。今の時代、暴力なんか不要じゃろ?」

 じゃろ?

 っつわれてもなあ。

 いやまあ、暴力なんて避けて通れるなら絶対それに越したことはないけど。

「それでの。

 儂の代から勝手に、教育方針を変えまっくてみたんじゃ。

 健康増進、人間育成、ダイエット、美容促進、恋愛成就、その他もろもろ。

 とにかく、今の時代に求められる要素を前面に打ち出して、それ用に改造した武術をライトユーザーに稽古した。

 手こずったのは、受験対策の武術じゃな。

 稽古の後に国語や算術を教えることで集中力が上がる、とかなんとか屁理屈をこねくり回して客を呼び込んだ。

 科学的根拠はわからんが、まあ頑張って教え込んだ甲斐があって、それなりの進学実績を出せたわい。

 東大にも何人か送り込んどるぞ。ふふふ。

 まあ儂自身が中卒の出来損ないじゃったから、教えるための勉強にえらく苦労したが。

 あれもやっておいてよかった苦労じゃい」

 ーーマジすか。

 すげー人だな。

 え、これマジ話?

「親父のころなんかは、流派の名を知らしめるために、師範自ら門弟を率いて街で暴れとったが、それも辞めさせた。

 道場外での暴力行為は即破門。儂自らボコボコにしてやって道場から追い出してやったわい。

 それに反発して何人も高弟が辞めたし、決闘を挑まれたことも何度もあった。

 全員返り討ちじゃがの。

 最初はずいぶん苦労したわい。

 弟子が全然いなくなって、月謝が入らんからの。

 肉体労働で食いつなぎながら、何とかして道場を維持してきた。

 時間はかかったが、地域の人らの理解も少しずつ得ることができた。

 親父の代まではゴロツキ集団としか思われとらんかったから、苦労したわ。

 今じゃあ、半分託児所のような感覚で小学生のジャリどもを預けられておるわい。

 3人いる息子も、だれ1人道場を継ぐことを希望せんかった。

 儂はそれを許した。

 儂の時代にそんなこと言ったら半殺しにされて無理やり継がされとったじゃろうが、それはせんかった。

 時代が我が流派を求めとらんのなら、それまでのこと。

 儂の体が動く限りは道場を続け、その後はおとなしく歴史の波に消えるまで。

 そう思っとった」

 これもう偉人の域だろ。

 こんな人がこの県にいたのかよ。

 早く教科書に載せろ。

 起業家志望のオサム君が食い入るように見てるじゃん。

 リスペクト光線って技があったら多分今彼から出てる。

「じゃがのう。

 心のどこかで燻るモノがあったんじゃ。

 儂は道場の外で、一切喧嘩をしておらん。

 門下生にもそれは固く禁じて居るし、むしろどうやって喧嘩を避けるのかを徹底して教えてきた。

 それに対して後悔はない。

 じゃがそれでも。

 一武術家として、自分はどこまで登れたのか。

 もしかして、全く実践では使い物にならない弱者なのではないか。

 時代への適合を言い訳に、戦うことから逃げてきたのではないか。

 そんな疑問が頭の中から離れることはなかったよ。

 そこに、この度の迷宮ダンジョンの出現じゃ。

 戦っても、暴力をふるっても、誰にも迷惑をかけないどころか人々の役に立てる相手。

 魔物モンスターのことじゃな。

 そんな、戦える相手が世に出てきたとあって、居ても立っても居られんかった。

 それでも子供たちの手前、暴力の捌け口に即座に飛び付くことはできんかった。

 儂が軽率に冒険者になったら、門下生の中で暴力を振るいたい連中が付いてきて、危険にさらされるかもしれん。

 そのあたりを地域の保護者達としっかりと話すのに時間がかかったが、何とかこの度冒険者デビューできた」

 おうおう。

 いいじゃんいいじゃん。熱くなってきた。

 まんまと乗せられて感情移入している俺。

 武術の達人に条件反射的に興味を持ってしまうのは男の子なら仕方ないよね。

 30歳児はもうおじいちゃんの話に夢中です。

「ようやく訪れた実践の機会じゃ。

 最初は胸躍った。

 一階層のゴブリンを、二階層のオークを。

 ちぎっては投げ。ちぎっては投げ。

 思う存分に技をふるった。

 しかし、すぐに気づいてしまった。

 全然楽しくない。

 どうやら儂は、暴力に興味がない人間だったようじゃ。

 70年以上生きて、初めて知った。

 他者を傷付ける行為に、何の喜びも見いだせない。

 魔物モンスター相手であっても。

 武術家としては致命的な欠陥じゃな。

 じゃが、他の目的が見つかった。

 お主ら冒険者じゃよ。

 若くして危険な仕事に身を投じる者も。

 大人になってから改めてこの仕事を始める者も。

 大概みんな、それぞれ悲しい想いを抱えておる。

 そういう顔しとる。見ればわかるよ。

 きっと元いた場所で傷つけられ、ここに流れてきたんじゃろう。

 オサム君の逆じゃな。

 儂は迷宮ダンジョンにも冒険にも興味がない。

 あるのは冒険者だけじゃ。

 儂はそんな者たちに、寄り添ってやりたい。

 力になってやりたい。支えてやりたい。

 大した世の中ではないが、生きるに値しない程ではない。

 そのことを、知る手助けをしてやりたいんじゃ。

 それが儂の、今の冒険者をする目的じゃな」

 ーーシン。

 一同、水を打ったかのような静寂に包まれている。

 悲しい想いを抱えている、か。

 図星を突かれたような気持になる。

 俺は、抱えていると思うよ。

 いや、人にいわせりゃ自業自得なとこもあるかもしれないけど。

 元嫁の不倫、会社のリストラ。

 信じていた相手に裏切られた痛みは、多分まだ消えていない。

 タナカさんも抱えているな。

 それは本人からも聞いている。

 オサム君は例外だろ。

 こんなリア充、悲しみとか無縁でしょ。

 まあ、中にはこんな人もいるってことだろう。

 オタクコンビのことはよく知らないが、まあ見るからに生きやすい人生ではないよな。(失礼)

 特におっさんオタクの方は30代で就労経験ないようだし。

 色々言われて生きてきたことだろう。

 マリは……どうなんだろな。

 最初はイケイケのリア充かと思ってたよ。

 美人だし、スタイル凄いし、身体能力抜群で、富山C部高校っていう県でも有数の進学校に通ってるし。

 何より、すごくさっぱりした性格だからな。

 冒険活動ってのも、遊ぶ金欲しさだとばかり思っていた。

 でもこの2週間。

 冒険に忙しくて、金使ってる暇なんてなかったんじゃないか?

 身なりも派手にならないし。すごくストイックに戦ってるし。

 冒険の後も、まっすぐ家に帰っているみたいだ。

 火、金や週末に遊ぶにしても、肉体疲労がこうも激しいと、なかなか大変なんじゃないか?

 何のために金が欲しいんだ?家族や友人と一緒の時はどんな感じなんだ?

 なぜ他の冒険者とは関わろうとしない?左の膝、やはり痛めているのか?

 またバスケやりたいとか思ったりしないのか?俺と活動していることについて、どう思っているんだ?

 よく考えたら俺、マリのこと全然知らないのな。

 保護者見習いなのに。

「ーー感動しました」

 オサム君が切り出した。

 こういうとこやっぱリーダーシップあるよな。

「ええ、本当に感動しました。

 自分がいかに、自分のことしか考えていないか、思い知らされた気分です。

 サワタリ君と相棒バディを組んでいるのも、やはりその一環でしょうか」

「ほっほっほ。

 まあギルド職員に頼まれたというのもあるがの。

 彼もまた、悲しみを抱えた子じゃと思う。

 誰かが寄り添ってやらんと、歪んでしまうほどに。

 とはいえ、相棒バディといっても、書類上のことじゃがの。

 冒険に行くのにタイミングを合わせようとしても、こちらの連絡にまるで返事をせん。

 まったく、既読スルーはいかんと何度も教えておるのに。

 ま、焦ることはない。気長に付きまとってやるわい」

 やだこのおじいちゃんテクノロジーを使いこなしてる……。

「まあ、そんなわけでの。

 お主らもいつでもウチの道場に遊びに来るといいわい。

 なに、月謝なんぞとらんよ。

 気軽にお試しだけして、茶でも飲んでいってくれい」

 そうですねー。

 機会があれば、是非行ってみたいですねー。

 とか曖昧かつ玉虫色の返答で適当にお茶を濁した。

 俺とか空前の行けたら行くタイプのスタンド使いだからな。

 たまに本当に行って「えっ!?」って顔されることも稀によくある。

 古流武術ね。

 興味がないわけじゃないけどさー。

 そんなこんなで、次はタナカさんにバトンが渡った。

 この二人の後じゃ話しにくいよな……。

「ああ、俺はさ。

 まあ、生活のためってのが大きいよ。

 東京で働いてたんだけど、ちょっと問題を起こしちゃって、仕事クビになって。

 そしたらまあ、嫁さんも娘を連れて出て行っちゃって。

 一人で東京で再就職することも考えたんだけど、マンションも一人じゃ住むには広すぎるしさ。

 ローンの支払い考えたら、売れるときに売っちゃおうかとも思って。

 うち、お袋が結構歳でね。

 親父はもう、4年前に亡くなってるんだけど。

 結構、介護とか必要なくらいに老いぼれちゃってさ。

 一人にしとけねえかなって。

 前はまあ、嫁さんとお袋の仲も良好でさ。いや、多分だけど。

 いつかお袋をウチに呼んで同居しようってことで、一応納得してもらってたんだけど。

 それもまあこうなるとキツいじゃん?

 だから一緒に住もうかと思ってさ。

 で、税金やらの負担を考えたら有利かなって思ったのがこの冒険者だったんだよ。

 その時は、まあ税金だけ得したら富山で再就職とか考えてたんだけどさ。

 やっぱ簡単じゃないね。地方は特に。俺が選びすぎなのかもしれないけど。

 いや、いい話してくれたところもあったんだよ?

 これでも向こうじゃバリバリの営業マンだったからね。

 でもさ、今俺家のこと全部自分でやってるのよ。飯も掃除も洗濯も。お袋の分まで。

 お袋、もう足がだいぶ弱くてさ。

 しかもボケも入り始めてるし。

 デイケアとかデイサービスも利用してるけど、まあ費用を考えるといつもってわけにもいかないし。

 そんな感じで、しかもいつでも呼び出されたときに帰れるって条件となると、なかなかね。

 となると、自営業というか自由業というか。

 時間に融通の利く冒険者くらいしか、なかなか難しいのかな、って感じで。

 ……悪いね。なんだかしんみりさせちゃって」

 ……。

 モキチさんの時とは違う静寂が流れてしまった。

 ……そうか。タナカさん、そういう生活だったんだ。

 それと知らず、軽く扱ってしまってるところがあったかもしれない。

 いや、あった。俺、舐めてたよこの人のこと。

 俺よりずっと必死じゃないか。

「……苦労されてるんですね、タナカさん」

 オサム君が神妙に言う。

 お、ちょっとその発言、軽率かもよ?

 タナカさん的に、気楽な立場からは言われたくないセリフかも。

 ……まあ、大丈夫だとは思うけど。大人なんだし。

「言いにくいところもあったと思いますが、よく話していただけました。

 その、俺にできることって、あるのかわからないですけど、でも本当、是非なんでも……」

「いいよ、オサム君。気持ちだけで十分だ」

 タナカさんがとりなす。

 ホッ。何事もなかったか。

 そこから若干妙な間ができてしまった。

 少々慌てた様子でオサム君が、まあまあまあまあ、とか言いながら進行する。

「それじゃあ次は、マリちゃん。よかったらお願いできるかな」

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