第14話 帰国子女をなんだと思ってるんだ俺は
「まずは俺から行きますね。
俺、目標があるんです。
自分でビジネス作って、世界的な大成功を収めて、大富豪になりたいんです」
オサム君が語り出す。
また大それた目標だな。
でもそれ冒険者と何の関係があるんだ?
「この先の世の中、迷宮の存在って経済に滅茶苦茶影響してくると思うんですよ。
だから冒険者の数もどんどん増えていくし、その影響を前提とした社会構造にどんどん変わっていくと思うんです」
まあ、そうだろうな。
石油が取れる迷宮とかもあるっていうし。
産油国が利権保護のためにその迷宮を武力で封鎖したなんてニュースもあったが。
いつかは資源とかの考え方も変わるんだろう。
面白いのは、「水」が取れる迷宮が登場した国があるって話だ。
実は今の世界では、水資源の存在って凄く貴重で、その迷宮の占有権を巡って内戦じみた騒動さえ起きてるらしい。
水と安全と二次元ポルノが無料の日本に暮らしてると、その貴重さは実感しづらい所だけどね。
あと二次元ポルノを無料で見てる奴はちゃんと著作者に還元しようね。
「ところでみなさん、昔のアメリカのゴールドラッシュの時、一番儲かったのは誰だと思いますか?
金を取るのが上手かった人?一番長く金山に篭った人?それとも金の売買を手がけた業者?
答えは、バケツとスコップを売った商人です。
俺は、それになりたい」
「へえ。
ていうと、冒険者の使う道具を作るメーカーを立ち上げたいの?
オサム君、理工学部だっていうけど、流石に工場立ち上げるのは厳しくないか?
大手のメーカーだってどんどん参入してくるだろうし」
気になってつい口を挟んでしまった。
いかん、人の話の腰を折るのはいいことじゃないよな。
「道具というか、モノでもサービスでも何でもいいんです。
重要なのは、どれだけの人が、どういうことに悩んでいて、どうすればそれを解決できるか。それを知ること。
そのデータを大量に集めて、分析して、ノウハウを確立できれば何も自分が製造する必要はない。
モノが必要なら外部に製造委託すればいいし、サービスが必要なら人を派遣すればいい。
人を雇用する必要さえない。サービスを提供したい人間と受けたい人間を繋ぐ事が出来れば、その両方から仲介料を受けるビジネスだって成立する」
「随分偉そうなこと言うじゃねえか。
たかが学生の若造がよぉ」
タナカさんのツッコミもわからんでもない。
でも若者の夢にケチを付ける行為って老害感凄いね。
俺は自分が老害になるのが怖くてとてもできない。
だから俺に代わってどんどん言うたれタナカさん。
「大それた事を言ってる自覚はあります。
おっしゃる通り、まだ何者でもないただの若造ですからね。
だから、今は勉強させてもらう期間だと思ってます。
実際に自分で迷宮に潜って、どんな所に困難があって、どんなサービスに需要があるのか。それを探る。
でも、それだけじゃ足りない。みんなの力が必要なんです」
そう言うとオサム君は、苦笑しながら自分の体をポンポンと叩いた。
「俺、体デカいでしょ?
正直、低階層の魔物くらいならパワーでゴリ押しして倒せちゃうんですよね。鍛えてますし。
実際、三階層までもう単身で攻略しました。デビュー一カ月で。
へへ。自慢ですけど、これほぼ最速のペースらしいです。
でも、大抵の人はそうじゃない。
冒険者を助けるビジネスをやるなら、特別体が強かったり、頭が良かったり、才能があったり、そういう人を相手にしてちゃダメだ。
そうじゃなくて、普通の、俺ならひょいと乗り越えちゃう障害に悩む人達の話、沢山聞きたいんです。
一緒に悩んで、一緒に解決して。
それを積み重ねて、人を助けられる人間になりたい。そうすりゃきっと、人に喜ばれるビジネスを立ち上げることができると思うんです」
「なンだよ、俺達ゃキミの実験動物か?」
「ぶっちゃけて言ってしまうと、そういう魂胆はありますね。あはは。
でも、もちろん人間としてもみんなと仲良くやって行きたいと思ってますよ。
折角のご縁だし、貴重な時間を共に過ごした仲間ですからね。この出会いには感謝してます」
超意識たけえ。
インスタグラムとかやってそう(小並感)。
ホントにいるんだこんな奴。
「だからこそ、俺には全然遠慮しないで欲しいんですよね。
困った事があったらどんどん巻き込んでください!
こんな事言ったら困るかな?とか思わずに!
俺を助けると思って、どんどん厄介ごとを押し付けて下さい!」
彼が言うと、嫌味がないな。
無条件に人に好かれるというのも、ビジネスでは強力な武器になるだろう。
「人間の悩みなんて大体万国共通ですからね。皆さんの悩みを解決する方法を身に付ければ、世界中の冒険者の悩みを解決できますよ。
なんなら、ある程度ビジネスが育った所で会社ごとM&Aで売却してもいいですし。
そのままそのビジネスを続けてもいいし、その時にはもっと他のビジネスを思い付いているかもしれない」
その後も細々と詳細を語っていたが、途中で見せられた彼女さんの写メが美人過ぎて他の話が頭にはいってこなかった。
地元の製薬会社の創始者一族のお嬢さんなんだってさー。富山は薬のメッカだからな。
危うくリア充爆発しろ、というネット上の常套句を始めて口にするとこだった。
聞けばオサム君、帰国子女らしい。
お父さんの仕事の都合で、中学までは南アフリカで育ったとか。
英語もペラペラだそうで羨ましい。
帰国子女かー。それでこの挑戦マインドも頷ける。自分をアピールする習慣があるんだろうなー。
帰国子女ならそりゃ、レスリングでインハイ行くし、ビジネスも成功するし、美人の彼女も出来るだろう。
帰国子女をなんだと思ってるんだ俺は。
「俺はそんな感じです。
じゃあ次にモキチさん。お願いしても大丈夫ですか?」
「ほっほっほ。
こんな壮大な夢の後では恥ずかしいの。
儂の場合は、自分の力がどこまで通用するか、試してみたかったんじゃな」
モキチの爺さんが冒険者になった動機を語り出す。
というかなんだそのジャンプ漫画の主人公みたいな志望動機は。
「実は儂は、代々続く古流武術の継承者での。
ウチの道場で若人に稽古を付けることで生活しておったんじゃが」
唐突にデカめの設定が飛び込んできてこれまでの話の記憶が飛んだわ。
え、なに?古流武術?
ホントに主人公かよこの爺さん。
古流武術て。
今日びなろう主人公しか伝承してないぞそんなもん。
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