第34話 俺が冒険者を始めたのは、100%金の為だ。

 ありゃ、一か月くらい前のことだったか。

 おせっかいゴリラのオサムの野郎と、保護者気取りのモキチのジジイ。

 それにこの俺、サワタリ ケンジの3人で3階層を攻略してた時のことだ。



「どっせぇいっ!!!」



 オサムの一撃が、3階層ボスのワイトキングの頭蓋骨を粉砕する。



 俺らの中じゃ、オサムの野郎の戦闘力は頭一つ抜けていた。

 というか、俺とモキチのジジイでの冒険に時折帯同したがってたのは、奴にしてみりゃあサービス精神みたいなもんだったんだろう。(野郎は、ビジネスがどうとかわけのわからないことを言ってやがったが)


 それでも俺達だって捨てたもんじゃあない。

 必死でくらい付きながら3階層ボスのワイトキングを乱獲していた。

 そしたらある時、普段と違うエフェクトと共に、妙なものがドロップした。



 それは、やたらに禍々しい"魔素"を纏った杖だった。



「おおお!すごい!

 これは”餓者の杖”だ!めっちゃくちゃレアな拾得物ドロップアイテムですよ!」



 オサムの奴が一人で興奮したのも無理はない。

 ただでさえ手ごわいボスモンスターのレアドロップ。

 それも、ワイトキングからの出現率は0.1%以下の超レア品だってんだから。


 相場がピンと来ない俺とモキチのジジイは、それでもポカンとしていたが。



「ほほう。それはすごいのう。

 それだけの貴重品となると、性能もよほどのものなんじゃろうか」


「ええ。俺も見るのは初めてですが、冒険者の間で相当の高値でやり取りされる逸品ですよ。

 基本性能もさることながら、一つ、非常に貴重な特性があるそうです。


 それは、"魔素"吸収性能。

 これで殴りつけた魔物モンスターから、直接"魔素"を吸収できるってことです。

 探索時の"魔素"回収効率が跳ね上がるだけではなく、戦闘中に敵のスペックを下げられるってんで、一流冒険者連中が入手しようと血眼になってるって話ですよ。


 一撃ごとの吸収量に上限があるので深い階層だと陳腐化するそうですが……、1階層や2階層で使用すれば、稼ぎの効率は2~3倍に跳ね上がるそうです」


「そ、そいつはすげえな」



 思わず素の反応を返しちまった。

 だって、仕方ねえだろ?そんな貴重品が飛び込んできたってんじゃ。

 うすらみっともねえことだが、俺にいくらか分け前が入るだろうか、なんてことまで考えていた。


 ……功績の大半はオサムの野郎にあるんだから、そうデカい事は主張できねえが。



「よし!それじゃあサワタリ。

 この杖はお前が使えよ。この中で杖使ってるの、お前だけだし。

 こいつでガンガン稼いでくれ!」



 ……は?

 何言ってんだこのゴリラ?

 数百万円のブツの話だぞ?

 それをまるで、ファミレスのワリカンを決めるみてえに言ってきやがって。



「ううむ、オサム君や。

 気前がいいのは結構じゃが、それはいささかやりすぎではないかの。

 ケンジの奴にも矜持というものがある。

 これほどの大金をポンと渡してしまうのは、こやつにとってよくないと思うんじゃが」


「いいえ、モキチさん。これは先行投資です。

 ここ数日お二人と冒険を共にしてわかりました。

 サワタリとモキチさんは最高の相棒バディです。


 近いうちにお二人はビッグマネーを生み出します。特にサワタリはきっかけ一つで大化けしますよ。

 その役に立てるんなら、この程度安いもんです。

 な?サワタリ。はした金だよな?こんなもん」


「……ボケたこと抜かしてんじゃねえぞ、ゴリラ野郎。

 施しでもしてるつもりかよ。ええ?おい」



「施される立場でいたいと思うんならそれでもいいけどな。

 お前自身、そんなこと望んじゃいないだろ?

 だったら、この杖を使って稼いでみろよ。


 なんなら、俺とモキチさんの取り分を、倍にして返して見せろ。

 利息ゼロ、期限なしのある時払いでどうだ。

 返すかどうかはお前の男気次第だな。

 できるだろ?お前の場合、目標もあるわけだし」



 ……本当に気に入らねえ野郎だ。

 こっちがイラつくポイントを的確に理解してやがる。



「……3倍だ」



 安い挑発にノセられてるのはわかってる。

 でもよ、男なら引けねえ場面ってのがあるよな。



「3倍にして返してやるよ。半年以内にな!」


「おう!楽しみにしてるぜ!

 その時は、豪勢な打ち上げをやろうぜ!」



 相変わらず爽やかな笑顔がムカつくオサム。

 満足げに目を細めるモキチのジジイ。



 うざってえ連中だが……、このクソみてえな世の中の、クソみてえな冒険者連中の中。

 少しだけ。ほんの少しだけ。

 ……気を許してやってもいいと思えるのが、この2人だった。


 連中に金を突き返すために、俺は日夜迷宮ダンジョンに籠りまくった。

 モキチのジジイは何も言わず、ただ付き合ってくれた。




 俺が冒険者を始めたのは、100%金の為だ。



 きっかけは、俺の親父が交通事故に遭い、それまでの仕事が出来なくなったことだった。

 運転してたのはどこぞのボケ老人で、アクセルとブレーキを踏み間違えたとかで、親父は利き腕が上手く動かなくなった。

 身寄りのないボケ老人は賠償金だなんだと絞れる金なんざロクに持ってなく、やられ損って奴だ。


 俺の親父は元々腕のいい大工で、颯爽と現場を仕切る姿は、クソ、こっぱずかしいが、ガキの頃の俺の憧れだった。

 小学生の頃の将来の夢に、『大工になってお父さんと一緒に最強の家を建てる』なんて書いちまったのは一生モノの黒歴史だぜ……。



 だが、利き腕がうまく動かなくなって大工の仕事を続けられなくなった親父は、見る影もないぐれえ惨めな野郎になっちまった。

 ……もともと腕一本でやってきた野郎だ。

 上の連中に反抗することもしょっちゅうで、事故が起きたらこれ幸いとクビを切られ、業界の居場所をなくしちまった。



 生活のために始めたのは、ファミレスのウェイターのアルバイトだった。

 クソみてえな客にヘコヘコしてるのはまだいい。

 お袋はそれを見て、情けないだのなんだの言うが俺はそうは思わねえ。

 大工の頃みてえに男気持って仕事してんなら、何の仕事だろうが関係ねえ。


 気に食わねえのは、親父自身がテメエの仕事を惨めに感じてやがることだ。

 やりたくねえなら辞めちまえ!と怒鳴りつけてやった。

 しかめっ面で「ガキにはわかんねえよ」だとか、小せえ声でモゴモゴ言うだけだった。

「てめえ一人食わせるのに、いくらかかると思ってやがんだ」とも。

 あんなにみっともねえ親父の姿を見るのは初めてだった。



 いいぜ、じゃあ、言い訳を奪ってやるよ。

 金なら俺が稼いでやる。

 そんで、生活がどうとかの言い訳ができなくなったテメエがどんなザマを晒すか、見届けてやる。


 そのために一番都合のいい仕事が冒険者だった

 それだけのことだ。




 冒険者を始めてから、会う奴会う奴うすらボケた連中ばっかりだった。

 つるんでた同年代の連中も、ダリィだのウゼェだの言って、すぐに迷宮ダンジョンに来なくなった。

 勝手にしやがれ。半端モンの雑魚に用はねえよ。根性なしはすっこんでろ。


 いい歳こいて冒険者始めてるクソみてぇなオッサン共も、どいつもこいつも負け犬丸出しのツラしてやがる。

 俺の親父とそっくりの顔だ。イライラするぜ。


 やたら鬱陶しく絡んでくるオサムの野郎とモキチのジジイ以外、関わる気にもなれねぇくらいのクソばっかりだ。



 でもそんな中、一人だけ。

 やけに気になる奴がいた。



 マリ。多分歳は俺より1個下か?

 詳しい事はロクに知らねえ。会話したこともほとんどねえ。

 精々、ギルドや迷宮ダンジョンでちょいと見かけるくらいだ。


 だが、あいつは他の連中と何か違った。

 多分、相当根性座ってやがる。

 ……本気で生きてる。そういう目をしていた。

 そんなマリから、いつからか眼を離せなくなっていた。



「なんだサワタリ、お前マリちゃんに気があるのか?

 アハハ!応援してやりたいけど、ちょっと厳しいんじゃないかなぁ!」


「ほっほっほ。そう言うてやるなよオサム君。

 若人の純粋な思い。例え届くことなく散ったとしても、きっと今後の糧になるじゃろうて」


「バ、バカヤロウ!そんなんじゃねえよ!

 ていうか、舐めてんじゃねえ!ぶっ殺すぞ2人とも!!!


 ……俺はあれだ、単に、あんだけマジの奴が、あんなハンパこいてるオッサンにまとわりつかれてんのが気に入らねえだけだ」



 そうだ。たしか、ウツミとかいったか。あのオッサン。


 クソみてえなオッサン共の中でも、一番気に入らねえ野郎だ。

 他のオジンどもはカスなりに、まあ必死だ。

 生活かかってるだけあって、とりあえず迷宮ダンジョンには潜り続けてる。

 ……まあウスノロどもがうろついてるだけで目障りだし、すぐに泣き言ばっか抜かすのが邪魔くさくて仕方ねえが。


 でも、あいつは。

 なんかスカしてやがる。余裕ぶっこいてやがる。

 休み休み、たまに迷宮ダンジョンに来てちょっと探索しては、悠々と帰りやがる。

 ナメてんのか。金持ちの道楽気取りか。こっちは遊びじゃねえぞ。



「ウツミさんかぁ。

 いや、話してみるといい人だよ。お前も仲良くしてみろって。学ぶものがあるから。


 いやまあ確かに、言動とか性格にアレなとこはあるけどさ。

 根っこのところが暖かいというか、品があるんだな。


 本人の人格というよりは……きっといい親御さんに育てられたんだろうな。

 ……羨ましいよ」



 オサムの野郎が遠い目をしてそんなことを言ってたが、俺には理解できなかった。

 あんなヌルいオッサンと関わってられるか。そこまでヒマじゃねえよ。




 そんなある日。信じられないことが起きた。

 オサムの野郎が……死んだ。



 ふざけんじゃねえ。

 オサムの野郎がガチンコの戦いで負けるわけがねえ。

 どっかのクソが、汚い手を使いやがったに決まってる。

 許せねえ。必ず俺がケリを付けてやる。



 だが、オサムがやられるような相手だ。今の俺じゃ相手にならねえ。

 だから、俺は強くならないとならねえ。

“餓者の杖”を片手に、前にもまして迷宮ダンジョン探索をしまくった。

 ゴブリンキングだって、モキチのジジイが前衛になってキングを引き付けてる間に、自動発生するゴブリンを狩りまくってやった。


 戦力と効率を向上するために、有り金をはたいて、クソ高い靴まで買った。

 おかげで、さらにとんでもないスピードでレベルアップと金稼ぎができるようになったぜ。



 俺は強くなる。誰よりも。

 それで、オサムの野郎の仇を討って。

 オサムの野郎からの借りを、倍にしてオサムのお袋さんに返してやって。


 そんでもって、俺のクソ親父とお袋に札束を叩きつけてやるんだ。

 おら、テメエらの欲しがってた金だよ。そんで、これからどうするんだ?ってな。

 なんだったら、親父の腕を直せる医者を探してやってもいい。

 手術だかなんだかで治るんなら、金なら俺が用意してやる。

 金以外の問題はテメエでカタを付けろ。男気見せてみろよ。




 で、だ。

 今日も迷宮ダンジョンを探索していたら、マリの奴が一人でうろついてやがった。

 あのオッサンは一緒じゃねえ。


 なに考えてやがんだ、あのクソオヤジ。

 オサムの野郎をはめた奴が、どこかに潜んでるかもしれねえんだぞ?

 こんな時にマリを一人にするんなんて、マジでクソの役にもたたねえ野郎だぜ。



 ……マリの戦ってる姿を見るのは初めてだが、とんでもない動きをするんだな。

 でも、どう見ても様子がおかしい。……泣いてんのか?



 気が付いたら、話しかけていた。

 我ながら嫌になるぐらい、喧嘩腰になっちまったが。

 なんでだ?なんで俺はこいつに普通に話しかけられないんだ?



 案の定マリには冷たくされたが、ほっとけねえ。

 お前もガチで生きてんだろ?

 それに、なんだか知らねえが、なんだか知らねえが、お前の事が知りてえんだ。


 そう思っていたら。

 背後から強烈なプレッシャーを感じた。



 ーーー



「サワタリ!後ろ!」


 私は叫んだ。

 あまりにも凶悪な怪物の出現。

 それが、サワタリを狙っているのに気付いたから。



「ウォォォォォォォっ!!!!?」



 サワタリが振り返り、得物の杖を振りかざす。

 でも、一瞬の跳躍であっさりと躱される。



 ……あの動き、次元が違う!

 1階層や2階層の魔物(モンスター)とは段違いだ。

 5階層とか、もっと上かわからないけど、とにかくゴブリンキングなんかとはわけが違うバケモノだ。



「せぇいっ!!!」


 ダン!ダンダンダン!

 すかさず私は壁や天井を蹴り付け、三次元動作で戦場を駆け巡る。

 ウツミんさんの指導を受けて以来、私のスピードはどんどん上がり続けている。

 この動きで少しでも幻惑させられれば……と思ったのに。



 ダン!ダンダンダン!

 黒い狼の方も、負けじと壁や天井を蹴り付けて、私の死角に回り込もうと跳び回る。

 ……あの巨体でなんて動きなの!?


 いけない。安易な軌道で動いていては追いつめられる。

 読め。読め読め読め。相手の動きを。ウツミんさんのように。最高速度を維持しながら。

 ーーーいける!このタイミングなら!



 ブン・・



 攻撃態勢に入って私の前でーーー狼の姿が消失・・した。

 ぞわり。

 全身の肌が泡立つ。

 私の背後。獣の気配。必殺の一撃。急所に。回避。不可能。死ーーー



「ウォォォリャァァっ!!!」



 丁度そこで。

 サワタリが持つ杖からーーー眩いほどの輝きを放つ、光弾が射出された。

 狙いは、私の真後ろ。



 ドォン!!!



 強烈な炸裂音を背中で聞きながら、私は全力で前方に避難する。

 地面に身体を激しくたたきつけ、勢いそのままに前転を繰り返す。

 口の中に土が入り込み、服や皮膚にいくつもの裂傷ができるけど、意に介している余裕はない。



「は、ははは!どうだオラァ!

 これが“餓者の杖”の能力だ!

 今の一撃で、何十万円分の"魔素"を使ったかわからねえがな!!!」



 勝ち誇るサワタリだけどーーー危ない!

 危険を直感し、私は有無を言わせずサワタリにタックルを仕掛ける。


「うおっ!?」


 サワタリを地面に押し倒した、そのほんの一瞬後。

 ザっ!私たちの真上を狼が凄まじい勢いで通過する。



 危なかった!少しでも遅れていたら2人とも殺されていた!



「グルルルルゥ……」



 私達を通過した先で、魔物(モンスター)が振り返り、うなり声をあげる。

 こいつ……私よりも速い!しかも、さっきの光弾をモノともしないタフネス。


 ーーー思い出した!こいつ、”黒狼”だ!本来なら7階層に出現する上位種の!



 なぜそんなバケモノが1階層にいるのかはわからない。

 確実に言えるのは、私やサワタリの敵う相手じゃないってこと。


 よく見ると、その左眼がつぶれていて、左前脚が可笑しな方向に曲がっている。鼻先も少々曲がっているようにも見える。

 これまで何とか攻撃をかわせていたのは、それらの負傷で少しでも動きが鈍っていたから……?

 なんにせよ、そんな偶然がいつまでも続くわけがない。



 グルルルル。

 油断なく獲物を睨みつける黒狼が攻撃動作に入った瞬間に。

 私は荷物袋から取り出したを奴の鼻先に投げつけた。


 パァン!炸裂したその玉が、破裂して噴煙をまき散らす。

 ボールの扱いなら、私は誰にも負けない!



「だ、ダメだ!

 獣系の魔物(モンスター)は嗅覚がつええ!

 煙で目くらまししたところで……!」



 意外と勤勉なのか、サワタリが突っ込みを入れる。

 でも、大丈夫。



「ガホっ!ギャホンっ!ギャフゥーン!!!」



 黒狼が激しく咳こみ始めた。

 大成功。この炸裂弾はウツミんさん考案の特別性だ。

 中身はタバスコ・ワサビ粉・コショウなどを大量に。



 ギルドで購入できる煙玉があまりに高価でコスパが悪すぎる。

 だから、なんとか自作できないか、と彼が作り上げた逸品だ。


 "魔素"で身を包む魔物(モンスター)にそんなものが通用するものかと思ったが、同様に"魔素"をまとう私達冒険者も、迷宮(ダンジョン)内で食事をする際には、普通に味も臭いも感じている。

 つまり、味覚や嗅覚への刺激は"魔素"の防壁を貫通する。

 迷宮ダンジョンに持参したシュウマイ弁当のカラシにむせ返ったという経験が、ウツミんさんに画期的な裏技を思いつかせた。



「行くよ!サワタリ!逃げるんだ!」


「に、逃げるったって、どこにだよ!あのバケモンが逃がしてくれるわけが!」


「いいから早くこっちに!すぐ近くだから、上手くすれば逃げ込める!」



 私はサワタリの腕を強引につかんで走り出す。

 全速力で走ってみたけど、意外にもサワタリはその速度についてこられた。

 ……そっか、その靴の性能か。凄いな、やっぱり。


 後方で黒狼が動き出す気配があったが、気に留めている暇はない。

 左前脚の不調から、私たちに追いつくほどの速度は出せない。そうなってくれることだけを信じて、とにかく必死で足を回す。



「おい、マリ!ここって!」


「そう。ゴブリンキングの領域だよ」



 1階層ボスモンスター、ゴブリンキング。

 領域に入った瞬間に、侵入者の排除に向けて動き出す、1階層の最大の恐怖。

 その最大の危険地帯が、この場合だけは最高の安全地帯になる。



「そうか!あいつを倒せば!」



 サワタリって、意外に理解が早いんだね。

 そう。ボスモンスターの領域に、他の魔物(モンスター)は立ち入れない。

 つまり、キングさえ倒してしまえば、ここはボスがリポップする1時間後までは黒狼も立ち入れない安全地帯となる。

 その間になんとか事前の策を練りたいところだけど……。



「グガギャガギャガギャっ!!!」



 侵入者に怒り狂うキングが……私たちの後方に向けて怒声を飛ばした。

 なんで……?と振り返るとそこには。

 何の抵抗もなくボスの領域に足を踏み入れる黒狼の姿がそこにあった。



「ガギャギャギャギャアアっ!!!」



 魔物(モンスター)の侵入が、私達人間の侵入以上に許せなかったのか。

 私とサワタリを歯牙にもかけず、キングは黒狼に襲い掛かる。


 が。

 ガブっ!!!



 黒狼はキングを一撃で噛み殺した。

 胴体を空間ごと抉り取ったような死体が、ドサリと床に落ちる。



「どうなってやがんだ!あのバケモノ、平気で入ってきたぞ!」


「普通の相手じゃないって事だね……。

 誰かに調教テイムでもされてるのか、それとも別の要因なのか」


「……一応言っとくが、俺がアレをつれてきたわけじゃねえぞ」


「わかってるよ、サワタリ。

 アンタ別に、そんな人間じゃないでしょ?

 見ればわかるよ」


「……!」


 ……?

 なによこいつ。おかしな顔して。

 状況わかってんの?



 ……やがてキングの死体が消滅し、一片の金のかけらが床に落ちる。

 いつだっけ……キングの打倒後の金の回収数が打倒数と合わなかった事があったけど、あれってこういうことだったの?



「……実際のとこ、どうするよ。

 あの野郎、俺達を食う気マンマンだぜ」


「どうするもこうするもないでしょ……。

 戦うしかない!」



 私はトンファーを。サワタリは杖を掲げ。

 巨大な黒狼を迎え撃つ覚悟を固めた。

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