第25話 流石ですわ子供部屋おじ様

「てめえらにコスパの何たるかを教え込んでやる!覚悟しろ!」


「ちょっ、ちょっとどうしたのウツミんさん!?」


 どうしたもこうしたもない!


「さっきから黙って見てれば……、お前ら、なんてコスパの悪い生活をしてやがるんだ!」


「……あ!もしかして緑茶が苦手だった?

 それならハーブティーもあるよ。

 ちょっと待ってね。今お湯から沸かすから」


 緑茶が気に入らないわけじゃないんだが。

 お、なんだハーブティーなんて洒落たものがあるのか。


 と、思ったら。

 なんだかやけに剥き出しのティーバッグがでてきた。


「エヘヘ。ママが時々ネットカフェとかから纏めて持ち帰ってくるんだよね。

 ちょっと待ってて、今淹れるから」


「なめとんのか!」


「ヒェッ!」


「それは窃盗だ!

 茶っ葉の一つもマトモに無いのかこの家は!


 アメニティの持ち帰りは百歩譲って流すとしても!それを客に出すか普通!

 その分じゃたまたま切らしてるってわけでもないんだろ!?」


 コスパコスパと言うが、金を払わなければそれがコスパというわけじゃない。

 己の生活を如何に効率的に快適にするか。


 つまりコスパとは生き方。

 人生……かな。少なくとも俺はコスパ道に人生を感じた。



「いいか、お前ら!

 今からこの家の大改革を行う!

 質問や反論があるときは、その口からクソを垂れる前と後にサーと付けろ!」


「サ、サー!

 ねえウツミん。家が汚くて嫌なのはわかるけどさ、とりあえずお菓子食べてからでいいか?

 サー!」


「シャラップ!!

 今すぐ菓子を食べるその手を止めろ!モミジもだ!


 ポテトチップスがうまいのは最初の3枚までだ。その後が全て惰性だ。

 どうしても食べたい時は、先に小皿に食べたい分だけを出してそれも箸で食べろ。

 量も加減できるし手が汚れない。しかも面倒だけど食べる量を減らすことができる!


 部屋が散らかってるからムダにストレスが溜まる。

 それを解消する為にジャンクフードや清涼飲料水に手が伸びる。

 だから、まずは掃除だ。わかったか!?」


「サー!

 ウツミん、ペットボトルでお茶を飲むことの何が悪いかわからないの。

 便利だし、みんなが買うからこういう形で売ってるんじゃないの?

 サー!」


「いい質問だ!

 まるでそびえ立つクソだ!


 そのボトル一本買うのにお前はいくら使った?

 スーパーでも90円、コンビニなら150円くらいか?

 茶っ葉から入れれば1人10円もかからん。しかも淹れたてで美味しいし、暖かいから体にも優しい。


 大体飲み物飲む度に、500mlも飲む必要はないんだよ!

 マリが命懸けで稼いだ金をくだらない事に使うんじゃない!」


「サー!

 タッくん、チーズ食べたいの!

 サー!」


「そっかぁ〜。チーズ食べたいのかぁ〜。

 でも、ごめんなぁ〜。すぐにご飯にするから、ちょっとだけ我慢してくれなぁ〜」


「なんでタッくんにだけ甘いの……」


 だって可愛いんだもん……。



 そこから皆んなでとりあえず30分くらいかけて、リビングのゴミを片して、カーテンや窓を開けて光を入れて空気を入れ替え、露骨な汚れは拭き掃除し、掃除機をかけてホコリを片した。


 なんとか人間の住める環境に近づいたな。


「まだまだ言いたい事は色々あるが……まずは食事だな。

 子供達には良質な栄養を与えなきゃならん。

 マリ、冷蔵庫を開けていいか?」


 サプリでもいいが、小学生や保育園児相手に使うのもな。

 食育の観点からも、俺が夕飯を作ってしんぜよう。



 冷蔵庫を開けて絶句する。

 何もねえな、これ。

 肉も魚も賞味期限切れ。どういう買い物してるんだ。



 キャベツとトマト、レタス。野菜は多少あるか……。

 タンパク質が欲しい。


 お!魚肉ソーセージがあるじゃん!

 これがあるなら大丈夫。勝ち確だ。

 ……僅かに、鶏ムネ肉の使い残しもあった。消費期限が今日だから、こいつも利用しよう。

 卵もラス1あったな。


「マリ、パスタとオリーブオイルはあるか?

 出来れば昆布茶もほしいんだけど」


「あ、あるよー。

 えと、お鍋や調味料の場所は……」


「ん、オーケー。

 すぐできるから、みんなは食卓の整理をしててくれ」



 そんなこんなで、魚肉ソーセージとキャベツのペペロンチーノ昆布茶味、茹でチキンとレタスとトマトのサラダ、椎茸と卵とネギのスープを供する。


 スマホのタイマーで所要時間を調べる。

 21分と38秒。

 思ったより時間がかかってしまったが、初めて使うキッチンだと言うことを考えればまあまあと言う所だろう。



「おいしい!めちゃくちゃおいしいよウツミん!」


「本当においしいの!マリ姉ちゃんが作ってくれるのと全然違うの!」


「マジで美味しい……。

 でもどっちかって言うと、料理する前よりもキッチンが片付いていることのほうが驚きなんだけど」



 好評なようで何よりだ。

 ていうかキッチンが最初、めちゃくちゃ酷かったからな。

 茹で時間やら何やら、手が空く時間があったから洗ってしまったよ。


 ていうか洗わないと使える皿とか全然なかったし、その勢いでいるの他のも色々洗ってしまった。



 皿の種類がバラバラで、あれじゃ収納する時にぐちゃぐちゃになる。

 そういうところで、地味にエネルギーをロスしてストレスが溜まることになるんだよな。


 貰い物の皿なんかは即捨てるかメルカリ。

 そして統一されたデザインの食器を買い足す。

 この先食洗機を導入するならなおさらそういう判断が重要になる。



「ウツミん。おいしい!」


 そうか。タッくん、おいしいかぁ。

 喜んでもらえて嬉しいよ。

 嬉しいな、嬉しいな、嬉しいなったら嬉しいな 。


「ウツミんさんがこんなに料理が上手なんて知らなかったよ。

 やっぱり味付けのセンスとかが違うのかな?」


「センスなんて全く使ってないぞ。

 むしろ技術やセンスを全然信じない方が良い。

 全部セオリーだよ。


 人がおいしいと思う味付けは、食材の重さに対する塩分量のバランスが厳密に決まっているんだ。

 塩だろうが味噌だろうが醤油だろうがね。

 ただ、そのセオリーに従って機械的に処理していくのが労働力のコストと味のパフォーマンスの関係的に1番良い」


 なんだったら、後で食材の重さと調味料ごとのグラム数の関係表を印刷してマリにあげてもいいかもしれない。



「ねぇ、ウツミん。

 おかわりとか、ないの?もっと食べたい!」


「いや、もうないなぁ。

 足りないようなら、さっきのお菓子でも食べたらどうだ」


「お菓子よりもウツミんのお料理の方がいいの。

 さっきウツミん、お皿に残ったパスタを入れてラップをかけていたの。

 モミジは見逃ないの」


「あれはお母さんと弟くんの分だよ。

 お母さんて何時ぐらいに帰ってくるのかな?

 一応、挨拶しておいた方がいいよな」



 するとみんな、俯き気味になった。



「あはは。

 そうだ、私ヒロ君にこのパスタもっていくよ。

 これだったらヒロ君も食べてくれるかもしれない」


 そう言ってマリはラップした食事を持ち、パタパタ階段のほうに向かっていった。


 ヒロ君?

 また新しいキャラが登場したな。


 あー、上の弟のことかな。

 家にいるんだったら、一緒に食べればいいのに。



 ちょっと気になったけど、詮索するのも気がはばかられ、俺は人数分のお茶を淹れた。

 ろくにお茶っ葉がないので、アメニティーから持ち帰ったハーブティーのティーバッグを、急須に2つ入れて出している。



「ヒロアキお兄ちゃんは、いつも1人でご飯を食べる。

 ここ1年くらいお部屋から出てくれないの」


 ハーブティーをふうふうと冷ましながら、モミジがそんなことを言い出した。



 へー。

 思春期ってやつかな。

 それにしてもこじらせすぎに思うけど。


 ん?

 部屋から出ないって、本当に部屋から出ないってことなのか?



「えっと、それってつまり。

 学校とかも行ってないのか?」


「ママが悪いんだよ」



 苦々しげな表情でカエデがつぶやく。


「パパが出て行ってから、ずっとヒロ兄ちゃんにべったりだったもん。

 2人だけペアルックにしようとしたりしてさ。気持ち悪い。


 多分、パパの代わりにしてたんだと思う。

 パパみたいに学年トップの成績を取りなさい、パパはピアノを弾いていたからあなたも引きなさい。なんてね。


 ヒロ兄ちゃんもずっと頑張ってたけど、パパが生徒会長やっていたからあなたも立候補しなさいって言われて、とうとう切れちゃった」


「カエデ、ママの悪口言わないの」



 コツン、とマリがカエデの頭に軽いげんこつを落とした。



「それでさ、ウツミんさん。

 この後どうするの?

 なんか、家の片付けとか手伝ってくれるの?」


「片付けって言うかな。

 もっと根本的な構造改革が必要だな」



 それから俺は、いくつかの改善提案をした。



 まずそもそも、この家は物が多すぎる。


 一般論として、その家の収入は、床の面積に占める露出している部分の割合に比例すると言う。


 これは別に、金持ちの方が家が広いから床が広く使えると言う意味ではない。

 実際、都心に住む高収入の世帯よりも、富山の一軒家のこの家の方が床面積自体は広いだろう。


 ならばなぜこの家がもので溢れかえってしまうのか。

 それは、ものを買うと言う行為に哲学がないからだ。



 金持ちは余計なものは買わない。

 そして、買ったものを、その目的に沿って適切に管理する。

 そして不要になったものは惜しげもなく処分する。


 一方で貧困層はその場の気分でものを買う。


 何に使うのかまでは考えても、どう管理するのか、それがあるとないとで生活がどのように変わるか。

 それが不要になる時とはどんな時か。


 そんなことを全く考えずに、その瞬間の不安を解消するためだけにものを買う。

 そして無駄なものに囲まれて、膨大な時間とエネルギーを失い続けることになる。



 例えば、ろくに手入れもできない観葉植物。

 あるいは、もう着なくなった服、履かなくなった靴。これなどは「いつか誰かにあげるかもしれないから」とか言うよくわからない理由でやたらに保管したりする。

 その際、元の持ち主ですら必要ないようなものを押し付けられる側の人間の気持ちなど考える事は無い。



 さらに子供の図画工作で作った作品。

 これだって、子供が自分から作ってコンクールに出したものや賞を取ったものなんかだったらいい。


 でも授業で義務的に作ったようなものを後生大事に抱えておいて家の中を圧迫するなど馬鹿げている。

 よほどこだわりがあるものでない限りは、それこそデジカメで画像を残しておけばそれで十分だろう。



 だから、まずは断捨離。

 家の中の無駄なものがなくなるだけで、相当に生活が快適になるはずだ。


 そこからさらに、最新の家電を導入して家事の負担の軽減を図ること。

 食材の買い方や管理の仕方を伝道して、自炊の効率を上げる。

 手間をかけず、安くて、美味しくて、栄養が十分な食事を続けること。

 これで一気にQOLが上がる。



「とはいっても、いろいろ捨てたり、家電を導入するって言ったら、お母さんの許可も必要だろうけどな。

 お母さんは何時ごろに帰ってくるんだ?」


「ママなら帰ってこないよ。

 土日の間は絶対帰ってこない」



 やけにバッサリと、マリがそう言った。

 まるで何かを拒絶するような、そんな速さだった。



「えーと、お母さんは泊まり込みの仕事なのか?」


「仕事じゃないよ。

 大抵、友達の家に遊びに行ったり旅行に行ったりしてる。

 平日は仕事と育児でいっぱいいっぱいだから、週末位はリフレッシュしたいんだってさ。

 帰ってくるのはいつも月、曜のお昼前くらいだね」


 ……。

 え?なんだそりゃ?


 子供たちを家に置いて?

 家のことを全部マリに押し付けて?

 それで、自分は毎週遊び歩いている?


 土日は家にいないっていうのは、日中仕事に行ってるとかじゃなくて、本当に土日の間中いないってことなのか?



「だから、家の事は何でも好きにして大丈夫だよ。

 私の一存でなんでも決めて大丈夫だから。

 ……多分、家がどんなに変わっても、ママは気づかないんじゃないかな?」


「……失礼だけど、お母さん、仕事は何を?」


「スナックでバイトしてる。

 パパが出て行くまで、仕事なんてした事無い人だから、自分にはこのくらいしか出来ないんだって」



 そうか……。

 いや、スナックのバイトを悪く言う気はない。


 ただ、それだけで一軒家のローンを負担するのは厳しいだろう。いや、時給がどんなもんかわからんけど。



 ……それで、マリか。

 冒険者の命懸けの収入で、なんとか生計を立てているって感じなのか。



 いや、言うまい。

 ヨソの家の事情に口を出しても始まらない。

 マリだって、俺なんかの何万倍もその事について悩んだ後だろう。


「多分ママが、家の事なんて全然興味がない。

 だから、何も気にせずどんどんウツミんさんがいいと思うように変えちゃって欲しいんだ」


 中途半端な同情などするまい。

 俺にできる事は、もっと具体的なことだ。



「よし、じゃあまずは戸棚の中や、タンスの中のものを一斉にこのリビングに広げてみよう。

 その中から何を捨てるか、いや、何を残すかを選択しよう。


 何も、今日1日で全部を送られてる必要は無い。

 できることから、少しずつ始めていこう」



 それから2時間ばかり。

 及川家総出での断捨離大会が繰り広げられた。


 ずいぶんな量の廃棄物が出た。

 途中で雑巾が足りず買い足した。

 重曹やクエン酸、ビタミンCなんかも買い足したのはちょっと本気を出しすぎたかもしれない。


「すげー……、ウチってこんなに広かったんだ」


 おかげさんで、部屋の様子が見違えたぜ。



 汗だくになった皆んなには、断捨離の開始前から仕込んでいた水出しのルイボスティー(俺が自分で飲むために買っていたもの)がなかなかに好評だった。



 手間もかけず、お金もかけず、おいしくて体にも良いと言うのが、女子中心のこの子たちには刺さったようだ。



「でも、私はやっぱりジュースの方が好きだけどな」


「モミジは、こっちの方が好きなの。甘くないのがちょうどいいの」


「麦茶やそば茶、ルイボスティー、それともし好きならアイスコーヒーなんかは、水出しで用意すると安くて楽ちんに大量に準備できるからな。


 このコスパを知ってしまうと、もうとても缶やペットボトルの飲み物なんて買う気をなくすぜ。

 出先で携帯用に買うのはありだけれど」



 ウチなんてそれに加えて、昆布や煮干しの水出しまで仕込んでるから、冷蔵庫の中が液体だらけだぜ。

 どこまでやるかはその家のスタイル次第だけれど、こういうのがあると色々とすごく楽だ。



「後はやっぱり、このソファーだな。

 皮も破れているし、サイズ的にすごく邪魔だ。

 やっぱり、買い換えたほうがいいんじゃないか?今時、安くていいやつはいっぱいあるぜ」


「あはは。

 うーん、どうしようかな」


「まぁ、それもおいおい検討していけばいいよ。

 なんだかんだ言ってでかい買い物になるからな。

 最初から完璧を目指しちゃうと、続けるのがしんどくなるだけだ」



 その後翌朝の処置のための味噌汁の出汁と、小松菜と油揚げの煮浸しを用意して、一旦その日の作業は終わりにした。



「ウツミんさん。

 こんなに家事ができるのに、なんで奥さんには捨てられちゃったの?」


「夫婦生活では、評価されない項目ですからね」


 流石ですわ子供部屋おじさま。

 なかなかできることじゃないよ。

 なっかなか難しいよ。なっかなかいないと思うよこういう人は(ギリ健)。


 実際、離婚の原因の1つになったまである。

 家事にうるさい男とか、嫌う女性は嫌うからなぁ……。



「んじゃあ、この辺で俺はお暇しようかね」


「ねえ、ウツミん。

 明日もウチに来てくれよ!

 どうせママもいないしさ、あたしらと遊ぼうぜ!」


「いっそ今日は泊まっていったらいいの。

 特別にモミジ渾身の同人誌を読ませてあげるの」


 それはちょっと怖いから読みたくねーな……。


「こら、ウツミんさんを困らせないの。

 もう8時過ぎているし、2人とも一緒にお風呂はいっちゃいなさい。

 私とタッくんもすぐに合流するから。


 ……よかったら、ウツミんさんも一緒に入る?なんてね、あはは」


「……バカタレ、大人をからかうな」



 ちょっと動揺してしまった。恥ずかしい。

 マリの言葉に従って、カエデとモミジはバタバタとお風呂に向かって行った。



「……ヒロ君が、ご飯食べてくれてたんだ。

 いつもの私の料理は全然手をつけなくて、カップ麺ばかり食べているのに」


「ん……」


「このままじゃダメだってずっとわかってた。

 家は汚れていくし、ヒロ君は引きこもっちゃうし、カエデ達もいい子だけどいろいろとしつけが行き届かないし。

 でも私も学校があるし、ママは家に寄り付かないし、冒険者でお金は稼げるけど家のことをする時間がなかなか取れないし。

 そもそもどうやって家事をやったらいいのかわからないし。


 もうどうしたらいいかわからなくなってたんだ」



 無理もない話だと思う。

 こんなの、マリが1人でお父さんの仕事とお母さんの仕事と高校生の仕事を全部抱えているようなもんだ。

 成立するはずがない。


 そしてマリは背筋をまっすぐに伸ばし、そこから90度の見事なお辞儀をした。


「だから、ウツミんさん。

 もしよかったら、私に生活の仕方を教えてください」



 なんとできた子だろうか。

 きっと、弟や妹たちを良い環境で育ててあげたいと言う真心からの行動だろう。

 だから俺は——


「——ダメだ」


 と、断った。

 マリは、断られるとは思っていなかったのか、呆けたような表情を浮かべた。



「私に、じゃぁだめだ。

 それじゃ多少効率が良くなっても、またすぐにいっぱいいっぱいになっちまう。


 だから、言い直すんだ。私たちにって。

 モミジやカエデ、それにできればヒロアキ君も巻き込んで、みんなで生活を立て直すんだ」


 お母さんの事は、一旦置いておくとしよう。

 きっとそれは、根が深い。



「タッくんも!タッくんも!」


「そうだなぁ〜。タッくんも手伝ってくれるなら百人力だなぁ〜」


 デレデレにと思った蕩けた表情でタッくんの頭を撫でてしまう。

 なんて健気な子なんだろう。可愛すぎる。天使か!



「今まで本当に大変だったろう。

 でもマリ、お前はまだ高校生なんだ。

 何もかも自分1人で背負い込む事は無い。


 俺にできることならなんだってやってやる。

 だから存分に大人に頼ってくれ」



「ウツミんさん……。

 ありがとう。……本当にありがとう」


 マリは涙を拭うことすらしなかった。

 きっとこれまで、ずっと大人の役割を演じて来なきゃいけなかった。

 そのプレッシャーは並大抵のものではなかっただろう。



 とりあえず明日。

 そしてその先も、冒険が休みでマリが家になきゃいけない時なんかに、俺がこの家に出向いて生活改善の手助けをすることになった。

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