第10話 あれは悪い意味での大人の金の使い方ってやつだ

「おっ!ウツミんさんいたいた!

 チーっす!それじゃ早速冒険に行こうか!」

「ああ、ちょっと待って。

 今マリさんとの相棒バディ登録の手続してるから。

 もうちょい時間かかるみたいだから、ゲート前のソファで待っててくれるかな」

「あはは、マリさんって!

 呼び捨てでいいよ、年上なんだし。私はウツミんさんって呼ぶからさ。

 じゃあ横で一緒に待ってるよ。相棒バディなんだし。

 ドリンクサーバーでお茶入れてくるね」

「お、助かる。

 なんだ、随分気が利くじゃないか。心境の変化か?」

「あはは!

 私をどういう人だと思ってるの。付き合ってくれてるんだからそのくらいするよ!

 それにウツミんさんが保護者認定もらって、活動実績認められて、はいサヨナラじゃ困るからね。

 相棒バディとして気に入ってもらえるようにしないと」

 利害関係の有無でこうも対応が変わるものか。

 まあ10代なんてそんなもんか。わが身を思い出すに。

 興味のない相手への対応とか絶対零度だったわ。

 大人の感覚だと「えっ?」て思うくらい、取り繕うってことをしないもんだ。実に露骨。

 あれから二日。約束通り俺はギルドに現れた。

 まんまと言いなりになるのも癪だが、結局どう考えても他に方法がない。

 まずは保護者ごっこを始めてみるのもいいだろう。どうしても上手くいかなきゃ、ギルドに説明の上で次善の策を練ればいい。

 あぁー。俺の気楽な一人無職生活がー。

 とはいえ、マリは学生さんだしね。

 付き合うのは放課後の2-3時間。学校のある午前中はフリーだし、楽なほうか。

 土日の休みは死守したいが、その辺は話し合いだろう。

「はい。確かに受理しました。

 今日からお二人は相棒バディです。

 迷宮ダンジョン探索を頑張ってください。ご安全に」

「サンキューサナエさん!

 じゃ、行こうかウツミンさん!」

「はいはい。じゃあ装備をしてゲート前集合で」

 車で運んできた日本刀を腰に据え、各種防具を身に付ける。

 ゲート前で待っていると、現れたマリはほとんど制服姿のままだった。

 聞けば下着アンダーウェア型の防具をいくつか装備しているとのことだ。

 異彩を放つのは、両手のトンファー。

 持ち手の部分にナックルガーダーのようなものも付いている。

 かなりの接近型武器だ。

 165cmぐらいと女子的には長身だが、それでも女の子のガタイで近接戦闘は大丈夫なんだろうか。

「日本刀の人初めて見た!カッコいいじゃん。高いらしいけど。

 それじゃレッツゴー!」

「とりあえず、一時間くらい流しで探索してみるか。

 安全重視で。そっから、互いの意見交換って感じでいこう」

 颯爽とゲートに飛び込み迷宮ダンジョンに入る。

 "魔素"の充満した空間に反応し、体がぼうっと熱くなる。この感覚も随分慣れた。

「まずは私が前衛でいいかなっ?

 とりあえずこっちに行ってみよっか!」

「おいおい待てよ。何を根拠に歩き出しているんだ」

「え?だって適当に歩くしかないでしょ。

 魔物モンスターがどこにいるかなんてわかんないんだから」

「そりゃそうだけど、それでも効率ってものがある。

 ちょっと待ってろ」

 そう言って、俺は"魔素"の気配を探り始めた。

 頭の中の地形の記憶と壁などから発する"魔素"の知覚を合わせて、脳内で地図を思い浮かべる。

 あっちがいいか。道がいくつも分かれているから、行動の選択権が多いのがいい。

 マリも無言で俺の先導に従ってきた。

 しばらく歩いていると、遠くに魔物モンスターの反応をいくつか感じる。

「まずは1匹の方に行こうか」

「え?」

「いやだから、右に行ったらゴブリンが3匹、左に行けば1匹いるだろ?

 とりあえず腕試しに左の1匹からだな。」

「う、うん」

 ?なんだか歯切れが悪いな。

 左に進み、いくつかの角を曲がり、ゴブリンの元へ到達する。

 向こうが気づいてないから、奇襲で一撃かな、なんて思っていたら。

「本当にいた…!じゃあ、まずは私が行くねっ!」

 でかい声を出すマリのせいで、こちらの存在に気づかれた。

 敵がこちらに向き直り、警戒を露にする。こりゃまずったな、と思いきや。

 ビュンっ!

 瞬間。空気がはじけた。

 気付いた時には、すぐ隣にいたはずのマリが、10メートル以上先にいるゴブリンの頭蓋骨をトンファーで粉砕していた。

 え、なに今の。

「ヨシ!」

 現場猫みたいなこと言ってガッツポ決めているマリ。

 こいつが今やったのは、こういうことだ。

 走って、近づいて、殴った。

 ただし、反応不可能な超高速で。

「すごいスピードだな。

 マリはかなりレベル上げをしてたのか?」

「へ?

 私は今まで"魔素"を吸収したことなんてないよ?全部換金してたから。

 迷宮の中だと、この位普通でしょ」

 いや、どう見ても普通じゃないだろ。

 それとも俺が遅いのか?他の人の戦いを見ることがないので、基準が分からないけど。

「それより、周りにもっと魔物モンスターはいないの?

 私はいつも3-4匹まとめて戦ってるから、そのくらいのところがいいんだけど」

 マジか。本当にイケイケなんだな。

「ちょっと待ってくれ。まずは拾得物を回収するから。

 しばらくはマリの戦いを見学させてくれないか。その間、重い荷物は俺が持つから」

 そう言ってドロップしたボーキサイトを作業用のリュックに入れる。

 ゴブリン1匹から、大体10kgくらい取れる。

 ボーキサイトの値段は相場によるが、大体1トンで5,000円程とのことで、普通なら10kgで50円くらいになるのか。

 ただ冒険者家業の支援の意味で国から補助金も出ていること、またボーキサイト自体の純度も高いこともあり、100円くらいで買い取ってもらえる。

 "魔素"で強化された肉体ならば、10kgくらいならば大した負担でもないが、これが溜まってくると厳しい。

 だからいつもは50kgくらい溜まったところでギルドに戻って換金していた。

 超肉体労働でしょ。俺が長く続けたくないのもわかってもらえると思う。

 でも、戦闘役をマリに任せて荷物運びに専念すればもうちょい耐えられるかな。

 イチイチギルドに戻る時間を省略できれば、それだけ稼ぎの効率もよくなる。

「で、魔物モンスターはどっちにいそう?」

「そのくらい自分でも探索してくれよ。

 迷宮内なら普通に感知できるだろ?」

「ん、……うん。」

「ん?

 まあいいや。えーと、向こうの方に3匹固まってるな。

 大丈夫か?危ないようなら俺も一緒に戦うけど」

「ううん!いい!

 ウツミんさんはナビに専念して!」

 そうして、魔物モンスターの群れに遭遇する。

 こちらの準備は、当然万端だ。

「それっ!」

 またしても人間離れした瞬発力で飛び込んだマリが、一番手前にいたゴブリンの頭をトンファーで粉砕する。

 驚いて身構える残りの2匹の目の前で、マリは急スピードでサイドステップする。

 ゴブリンからすればいきなり視界から敵が消えたように感じただろう。

 勢いよく振りぬくトンファーが2匹目のゴブリンを粉砕する。

 なんてフットワークだ。

 残りの1匹が棍棒でマリに襲い掛かる。

 マリはトンファーを振り抜いてしまっており、攻撃手段がないかと思われたが--

「せいっ!」

 美しいフォームで放たれるハイキックがゴブリンのテンプルを見事にとらえる。

 とはいえ、所詮ただのスニーカーで叩きつけられる攻撃。

 "魔素"が籠っていないために、牽制にしかならない一撃だ。

 だが、

「ほっ!」

 隙をついてゴブリンの真横を駆け抜けたマリが。

 壁に向かって飛びこみ。

 壁を蹴り。

 宙に浮き。

 天井さえも蹴りつけて。

 反応不可能な死角からトンファーを振り下ろして最後のゴブリンを絶命させた。

「ヨシ!」

 その現場猫毎回やるの?

 しかしなんちゅうアクロバットだ。

 もう全部こいつだけでいいんじゃないのか?

 俺一人の時は複数の敵は全部避けてたからな。

 こいつ一人いるだけで、2倍以上の効率での狩りは余裕でできる。

 俺は荷物持ちという名のお荷物になるだけで、安全に今まで以上の稼ぎができるんじゃないのか?

 万一ケガをするとしてもこいつだし。(ゲス顔)

「さあ、どんどん行こう!」

 例によって敵の探知は俺にやらせるマリ。

 まあ、戦闘は完全にお任せですわ。

 雑務くらい喜んでやります。むしろ花を持たせてくれているのかもしれない。

 そんなこんなで、しばらく破竹の勢いでゴブリンを殲滅していった。

 ---

 流石に荷物が限界に重くなってきた。

 休憩も兼ねて、ギルドにいったん帰還する。

拾得物ドロップアイテムの買い取りをお願いします」

「また随分と沢山ですね」

 そう、俺のリュックだけでは入りきらず、マリのリュックを体の前側に担いで、さらに両手に大きい手提げ袋をパンパンに詰め、やっと持ち帰った。

 重さも限界だが、そもそも物理的に持てないっすよこれ以上。

「はい、全部で3,000円です。現金と"魔素"のどちらで受け取りますか?」

「現金で」

 全部で300kg程か。二人で、30分で、3,000円。

 実際は魔物モンスターから得た"魔素"もほぼ同額で売れるので、それぞれ時給6,000円の計算になる。

 すげーな、これまでの3倍以上だよ。

 こりゃ時間当たりなら、前職以上の収入だ。

 いや、命を懸けた肉体労働と思うと考え物だけど。

 でも、レベルアップを全然してなくてこれだからなー。

 工夫したらさらに収入上がっちゃうわけ?

 なんかその気になって来ちゃいそうだ。

「じゃあ、もっかい迷宮に行こうか!」

「あ、待て待て。

 休憩がてら、ちょっとそこで作戦会議しよう」

「えー、まだ30分とかしか働いてないじゃん。

 一時間やってからって言ってなかった?」

「いや、そうだけど。

 でもいくつか話したいことがあるんだ」

 不満げなマリを宥めつつ、カフェテリアに移動する。

 ロッカーに入れていたビタミン、ミネラル、プロテインの粉末をたっぷりの水で飲む。

 いや、迷宮に潜ると色々栄養が消費されていく感覚があるんだよね。

 水分も凄く奪われる感じがする。

 迷宮内では、"魔素"が眼にまわっているせいか、体内で不足している栄養分が"視える"んだよな。

 俺はビタミンB系。マリはビタミンCとアミノ酸がかなり欠乏している。

 見た目にギョっとするほどの量のサプリをオブラートに包み、マリにも飲んでもらう。

「それで、さっきの戦闘についてなんだけど」

 マリに聞いたところ、彼女は中学時代はバスケットボール部のエースで、全国大会にも出場したそうだ。

 本格派のフィジカルエリートかよ。

 迷宮内での身体能力は、元々の肉体の性能と吸収した"魔素"との掛け算だ。

 俺たち中年の体の鈍さもある程度"魔素"の吸収でカバーできるが、やはり素の体力が高い奴に同じことをされたら負ける。

「それにマリは、下半身の魔素適合度が凄く高いみたいだからな。

 ちょっと"魔素"を吸収させれば、さらに凄くスピードが上がるんじゃないか?

 今吸入器に入っている"魔素"を、いくらかレベルアップに使ってもいいかもしれない」

「そんなのわかるの?」

「いや、わかるだろ。俺たちは"眼"にも"魔素"がまわってるんだから。

 ここじゃわかんないけど、迷宮内ではそういう風に見えたぞ。

 特に、膝と足首あたりを集中して"レベルアップ"させたら、今逃げてるパワーをスピードに変えられるんじゃないか」

「ん……、でもできるだけ"魔素"はお金に変えたいんだよね」

「気持ちはわかる」

 お金を稼ぐために迷宮に来てるんだからな。

 その金を得るチャンスを減らしたくない気持ちはわかるぜ。

 投資とそこから得られる利益はいつだって不確定なものだ。

 腹をくくれるかどうかは本人の意思で決めること。

 俺の都合でとやかく言えることじゃない。

「まあそれはそれとしてさ、ちょっと買い物していこうぜ。

 いくつか必要なものがある」

「買い物?」

「ああ、靴と、ポーターだ。

 マリの戦闘スタイルだと、蹴り技を組み合わせるとかなり有効だと思う。

 "魔素"の伝導率の高い靴が売ってたはずだ。武器にできるような。中古で6万くらいしたと思うけど」

「6万円かー……」

「とりあえず出しといてやるよ。

 気になるなら、所有権は俺でそれを相棒に貸しているってことにすればいい」

「……いいの?太っ腹過ぎない?」

 もちろん魂胆あってのことです。

 その6万円は全て俺の今年の経費にさせてもらう。

 来年処分したら4万円くらいにはなるだろう。来年への所得の付け替えができればそれだけで黒字だ。

 一方で、収入はすべてマリに寄せている。

 拾得物の売却は全部マリにやらせてるからな。税務上の所得はすべてマリに帰属することになる。

 冒険者の所得は一律15.315%の課税だから、別にマリに損をさせてるわけじゃない。

 ただ俺の赤字を大きくしたいだけだ。

 そのうえで受け取った収入は二人で山分けだ。

 一見悪質な脱税のようだが、相棒バディ同士での所得や費用の融通は公的に認められた行為なので問題ない。

「それと、ポーターバッグは荷物運び用だな。

 ほら、海外旅行とかに使うコロコロ転がすでかい鞄あるだろ?

 あれの冒険者仕様のやつだ。

 滅茶苦茶頑丈で大容量、さらに"魔素"をこめれば軽くなる機能までついてる。1トンとか普通に運べるはず。

 これがあればいちいちギルドに戻る回数をかなり減らせると思うぜ」

 これも中古でも15万くらいはするんだよな。

 一人の時は、完全に片手が塞がってしまうからリュックにしてたけど。

 戦闘専門のマリがいるなら片手が塞がっていても問題ない。

 別に戦闘時に床に放置しておけば、俺も普通に参戦できるしな。

 勿論俺の経費にさせてもらう。

「すごい……!どんどん効率が良くなる!」

「だろ。まあこれが投資ってやつだ。

 大人の金の使い方ってやつだよ。

 マリの実力があればすぐに回収できると思うぜ」

 大人の力 (財力)を見せつける形になったな。

 まあこのくらいは役に立たんとね。見捨てられちゃうかもね。

 ついでに俺は"魔素"を吸収して、腕力と脚力を高めておこう。

 金を得られないのは少しもったいないが、荷物運びでへばっちゃったら効率が落ちるからな。

 その後二人でギルド内の店で商品を物色する。

 値段、性能、デザイン。

 品物が決まっていても、迷おうと思うと迷えるもんだなー。

 というか、マリの買い物長すぎ。金出すのは俺なんですけど。

 ボチボチいい買い物ができたかな、と思っていると。

「ああああぁぁぁぁっ!クソがっ!!」

 オッさん特有の野太い絶叫がフロアに響き渡る。

 タナカさんだ。デカい筐体の前で崩れ落ちている。

 なんだあれ?

「あー、ガチャだ。やってる人初めて見た」

 マリが侘し気に呟いた。

「課金したらランダムで迷宮ダンジョンから拾得物ドロップアイテムを得られる機械なんだって。

 1回3,000円で、30,000円一括なら11回回せるってやつ。

 大半はゴミしか出ないらしいけど、ワンチャン激レアアイテムが出るから一発逆転したい人の希望的存在らしいよ。

 ほとんどの人は養分にしかならないっていうけど」

 タナカさん……。折角稼いだ金をそんなことに……。

「あれも投資?」

「あれは悪い意味での大人の金の使い方ってやつだ。

 目を合わせないほうがいい」

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