最低男の最悪な人生

黒金 影輝

プロローグ

悪薬戦争の真実

 俺は、四神我流しがみがりゅう幼馴染みの花道咲見はなみちさきみを探しに外にでていた。

 必死に、躍起になって探すも全く見付からないので、心配になり慌てて周りを見てみると、そこには黒い獣の姿をした化物がうじゃうじゃ不気味に動きふためいていた。

 コイツらは、悪薬あくやくを使ってなった化物で、悪人と言うやつで一度なったら最後、そこからは、善意の心がほとんどなくなり、心が闇に染まっていき暴走していき、しまいには犯罪を平気でやるようになる。

 それから、探している咲見の姿はなく、見渡すかぎりビルしかない、その他には悪人という化物が、人々を殺して悲鳴ばかりこだまする。

 そこには、もうすでに人っ子一人居ないのだ。

 そんな、意味不明な状況になりながらも俺は、咲見を探し続ける。

 それは、咲見を助けられなかったあの時の償いでもあった。

 そうして、思いにふけながら探索する。

 やはり咲見は見付からず、周りは悪人ばかりで、まともな人すら存在しない、そんな異常な現状。

 悪人達は、俺を見た途端鋭い爪と、牙をこちらに向けて襲い掛かってきたので、思いっきり殴り、その反動で倒れていく。

 他の悪人達も、俺を見るや向かってきていたが、咲見を探すために邪魔だった為仕方なく薙ぎ倒しながら進んで行く。

 そこには、自分が探していた咲見が居たのだ。

 だけど、その姿は目に光が無く茫然と立ちつくしていて、とてもじゃないが普通の状態じゃあない。

 声をかけても、何も反応はなかったので明白であろう。


 その隣には、白い不気味な笑顔の絵が描いてある仮面を被っている男が一人おり、咲見にボソボソと何か悪いことを吹き込んでいるようにも見えた。

 その後、声を上げて演説のようなことをし始める。


「人間とは……何とも愚かな存在! こんなもの達は消えればいい! そう思わないか?」


 白い仮面の男は、演説の真似事のようなことをしながら、咲見を精神的にコントロールしようとしていた。

 明らかに、咲見に対してなにか悪いことを吹き込んでいて、そのせいで正常な状態じゃないと思える。

 暗い表情で、なんとか男の言っていたことに咲見は頷き、仮面の男に同意する。


「はい……醜いです……」


 咲見のその言葉は、仮面の男に言われるがまま受け答えをしているように見えた。

 如何にも、奴隷のようだった。

 それも、自分の意思のような物は、完全に感じられなくてまるで操り人形のようだ。


 だが、俺はそんな咲見を見て可笑しいと思い、必死になって説得するために叫ぶ。

 何故なら、自分が知っている咲見は、普段は全くそんな感じではないからだ。

 今起きている、嫌な現実を俺は信じたくなかったのかもしれない。

 あいつが、こんな事を言うはずがないと否定して。

 あの、人を思いやれるアイツがそんなわけがない!

 そう思い、大声で咲見に問いかけるように、頑張って正気を取り戻そうとしていた。


「そんなの可笑しいだろ! 咲見がそんな事言うはずがない! おい! しっかりしろよ! なあ……戻ってくれよ……うぅ……あの時のように……うぅ……元気で、優しい咲見に……うぅ……」


 咲見は、普段は明るくて皆から慕われていて人気者なのだ、と言うかそういうところしか見たことがない。

 優しくて、人のことを思えるそんな人間だ。

 でも、今はこんなことを平然と、何でもないかのように言うようになっている。

 ずっと、酷い事を言い続けている。

 絶対に、可笑しい!

 あの、誰も見捨てたりしない、俺みたいな最低な男にも気遣ってくれる奴が。

 あんな、ニヤニヤした嫌みな笑顔で、人を悪く言うような奴なんかに、賛同するわけがない!


「私の事を大して知らないのに、勝手なことを言わないでよ! どんだけ私が、人に酷い目に遭わされたか分かる!? それで、皆私を責めてきて裏切られたのよ! 皆、口では良いことを言うけど、本心はそうじゃない! だから! そんな人達に、優しく出来る筈がない! こんな……私を追い詰めた人達なんかに!……こんな、ふうにさせた人間なんかに!!」


 そんな事を言っているが、本心で言っていないことは明白だった。

 それを俺は、感じ取れた。

 その一つの理由はすぐに分かった、咲見の表情は真剣だったし、辛そうに涙を流して険しい顔をしていたから。

 本当は、こんなことを言いたくないのだろう。

 それは、幼馴染みの俺が一番分かってる。

 だから、俺が救ってやりたい!

 いや!

 救うんだ!

 こんな悲しい顔をしている、咲見をもう見たくないから!

 何時ものように明るく、皆に親しまれる彼女を見たかったから。

 だから、俺はこんな状態になってしまったのが我慢出来なくて、つい思っていたことを言ってしまった。

 思いの丈を、全部ぶつけるように。


「俺は、お前がどんだけ苦しかったのかも知っている! だから、お前を助けたいんだ! こんな奴なんかの指示に、従うのはダメだ! 本当のお前は、そんな奴じゃないだろ!! それを、一番お前が知っているだろう!」


 俺の言葉は、彼女に思ったより響いてしまったのか、咲見は一層悲しい顔をして暗い表情になりすすり泣き、大粒の涙を流す。

 俺はその表情を見て、悲しみとせつなさだけ咲見に伝わっていく。

 それも、前の時よりも苦しそうにしていて、胸に手を当てながら眉間にシワをよせて、まるで心臓を握られているかのようにも見えた。

 仮面の男は、咲見の心の隙を見逃さなかった。

 俺達の姿を見て、怒涛の勢いで暴言の数々を吐いてきて追い詰めてくる。

 まるで、悪魔みたいな笑い声を上げながら。


「あはははは!! 馬鹿か君は! この子はすでに、人間のクズい部分を散々見てきているのだよ! それ処か! 人に恨みしかない! なのに、まだそんな世迷い言を言うのか! 貴様は! そのような行いに、意味などあるわけがない! 貴様のようなやからが、人を助けられる力もないのに、思い上がり。正義ぶってそう言うことをするから、かえって彼女みたいな、人を苦しめるのだよ! 愚か者がぁ! 身の程を弁えろ! これが、現実なのだよ! 小僧! 無力とは虚しいものだな! 大切な人、一人すら守れないのだからな!! 残念残念!」


「勝手に決めつけるんじゃねぇよ!! それに、俺は助けなきゃいけないんだよ! あの時、助けられなかったから! 俺の手で! だから! お前を倒して、この現状を終わらせる!!」


 俺は、仮面の男へと一目散に向かっていき、一心不乱に周りの悪人が襲ってきてもお構い無しに、突っ込んでいく。


「そんなの! お前が分かるわけないだろ! それに、お前に聞いているんじゃない! あいつに聞いてんだよ! だから! 邪魔を、するなぁぁぁぁ!!」


 だが、その男が発した言葉は、確かに正論だった。

 それが、どんだけ嫌な事実でも、何も知らない奴に言われると、無性に腹が立つ。

 俺は、どうしてもその男に、一発入れてやりたいので、腕を振りかぶって殴りかかる。          

ここまで、彼女を苦しめる必要もないのに、そう思い、そんな行いが出来るこいつだけは絶対に許せなかった。


 殴ってはみたものの、全くかすりもしない処か、当たっていなかった為に、余裕の表情で仮面の男はすました顔を浮かべながら、ニヤニヤと不敵な笑みをしてきて、けなしてくる。


「君の攻撃は、至って単純……それに、威力もさほど無さそうだ……だが、当たってやるつもりはないよ。そんな攻撃に当たったら、恥でしかないからね~あはは!」


 そう言い、嘲笑してくる仮面の男は、次々と俺の攻撃を平然とかわしていく。

 俺は疲れて、攻撃を止めて休んでいると、腹をおもいっきり仮面の男に殴られ、激痛が走りそのまま俺は腹を手で押えながら、思わず痛みで膝を落とす。


「いや~対したことなかったですね~口ばかりで、本人の実力が伴っていない! まあ、いいでしょう……それよりも早く、天界の方に向かいましょうか……あまり、時間がかかると、あのお方に怒られますからね~」


「はい……行きましょう……」


 仮面の男は、突然背中から翼が生えてきたと思ったら、ちょっとつづ宙に浮き、その男は咲見の手を掴み、引っ張ってそのまま飛んで連れていってしまった。

 その時、咲見は抵抗せずに指示された通りに、仮面の男の言うことをきいていたが、その顔からは何処か助けてほしいように、俺には見えた。


 俺は、仮面の男の行動を全く止める事も、抗うことも出来なかった。

 本当に、情けないと思う。

 仮面の男が言っていたように、実力がないし何も出来ないダメな人間だ。

 そんな姿が、今の本当の自分だったからだ。

 自分に苛立って、拳を地面に叩きつけて、惨めで無力な現実を見ないようにしていたとは思う。


「咲見ー!!……うぅ……」


 俺は必死に、咲見の名前を叫ぶが。

 誰も、それは答えてはくれなかった。

 だけど、叫べばどうにか彼女に届くような感じがした。

 いつか、何事もなかったように、自分の元に咲見が戻ってくるような……そんな、気がしたから。

何時ものあいつが戻ってきて、平和な幸せだったあの日常が送れると思い。


 だが、その思いは届くことはなく、現実は非情でこの有り様。

 本当に、ダメだな俺って。

 そう思いにふけていると、周りには悪人が取り囲み、俺のそばまで押し寄せて来ていて、襲ってこようと牙を剥き出しにしながら、吠えている。

 押し退けようとするも、鋭い武器の爪が突き刺さり抜けなくなる。

 いよいよその化物達により、一斉に攻撃を受けて段々と力が抜けていき、尚且つ完全に道を塞がれ、囲まれてしまっている。

 もがくも、力があまり入ってなかったのか、抵抗も虚しく周りは、その化物達で埋め尽くされていく。

 視界は、どんどんと暗闇に包まれていく。   

 俺は、力がつきかけていたため、意識がなくなり始める。

 咲見との、楽しかった思い出にふけながら。

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