第9悪 最低ないじめ(前編)

 あれから、一日経った。

 私は、四神から何も彼女の事を聞き出せずにいた。

 四神に、あんなところがあったなんて、意外だなと。

 そう思った瞬間、教室のドアが開き、先生が入ってきて皆の前で話をする。


「今日も、また転校生を紹介する……入ってくれ」


 先生がそう言うと、ガラガラとドアが開き、そこには見覚えがある男が入ってきた。


「今日から皆と学ぶ。堅石守君だ、仲良くしてやってくれ」


「堅石守で~す! 僕わ~女の子大好きなので、彼女になりたい方は……気軽に声かけてね!」


 堅石が言いはなった一言は、女子にはキツかったらしく、皆ドン引きしていた。

 男子生徒は苦笑いをして、変な空気にしていた。

 よくもまあ、そんな事を転校初日にいえるもんだなと、ある意味凄い感心する。


「ただ~し……男と付き合うのは、お断りだから!」


 誰も聞いてないよと、皆思っていたが堅石は、動じず話しを進めようとする。


「……と言うことで、彼女ぼ……」


「……はぁ~……堅石君もういいから、先に席に座ってて」


 そうすると、堅石は先生が指を差した席に座る。

 私にとって、最悪な席になってしまった。

 だって、私の後ろには四神がおり、堅石が横にいるから本当に、最悪な席順である。


「ところでさぁ~、雫ちゃんって……彼氏いるの~良かったら~僕の彼女になってよ~た・の・む・か・ら!」


 あまりにも、その発言がうとっしいので四神に声をかける。

 とりあえず、友達ならどうにしてくれと。


「四神さん!! 四神さん! 起きてください!」


「なんだぁ~……ブス眼鏡かぁ~」


 四神は、寝ていたようで目がまだ覚めていない。

 だから、目が赤くなっていて、状況を飲み込めてないようだ。

 まあ、この人に物事を頼むのはしゃくだが、背に腹は代えられないと思い、勇気を振り絞って頼むことにした。


「ブス眼鏡では、ありません! それよりあの人どうにかしてくれません? あなたの友達じゃないですか……」


「しょうがねぇな~」


 四神がダルそうに渋々立ち上がり、堅石の方に声をかける。

 だが、その表情からは怒りしか感じない。

 本当にこの人に頼んで良かったのかと心配するが、堅石みたいなのがどうなっても良かったし、正直そのような軽率な行動や、ナンパ目的で女性を誘う言動などが、収まればいいと思ってしまう。


「おい! 堅石!」


「なんだ、しが……」


 堅石言い終わる前に、おもっきり四神に殴られて、机にうつ伏せになって気絶する。

 おまけに、たんこぶが後頭部にできていて痛々しい、見ていられるものじゃなかった。

 正直、そこまでやるのかと引いた。


「本当に面倒な奴が引っ越してきたもんだな……」


 また四神は、面倒臭そうに一人呟く。

 私は、そんな彼を見ながらつい癖で、余計なことを私は言ってしまう。

 そんな事をすれば、この人平気で人に酷いことをするのは、分かっていたのにも関わらず。


「四神さん! そんな面倒臭いなどのマイナスの言葉を言うと、幸せが逃げていきますよ!」


 呆れながら、四神はま~たコイツ馬鹿なこと言ってるよと、人を小バカにした表情で私が言った事を否定する。


「いいか! どうせ正義の言葉や、人を喜ばす事を言っても、誰も本当に有難いと思ってはいない。ましてや、良い人生になるなんてない! 本当の事を知ったが最後! 最悪な人生を送ることになる!」


 そう四神が言ってるが、私は納得できずに聞いてみる。


「何故そう決め付けるのですか? そうじゃない時もありますよね?」


 私がそう言った瞬間、四神が顔を真っ赤させてまた説教し始める。


「いいか! よく聞け! この世に、人のアドバイスやら他人の言葉を鵜呑みにして、いい人生を送った奴らはいねぇんだ! ましてや、他人にすがり自分で判断した奴らは、皆最悪な最後を送っている!」


 確かにこれまで、そのような人達は悪薬を勧められそれを使い、利用され地獄へ送られた。


「だけど四神さんそれだと、自己中な行動の人達だらけに、なるのでわ?」


「それは違う」


「なんでですか!」


 私が不思議に思い首を一端傾げる。

 それを見て、四神は溜め息をし、冷静に淡々と答える。


「いいか……よ~く今度こそ、聞けよ~この世の中に、信じてはいけない物がある! 一、真面目で人に何も悪い事をしなくて、人を褒める奴ら! ニ、人に合わせって喋る奴ら!  三、宗教や怪しい団体だ! 分かったか? ブス眼鏡!」


「ブス眼鏡じゃないけど! 分かりましたよ!」


 そう言っていると、先生と他の生徒が違う話題をしていたのが聞こえたので、一旦その話を止めて、私もその会話に加わる。


「先生! 今日も霧塔瞬きりとうしゅん君休みなんですか?」


「そうだなぁ……あいつなんで休んでいるのだろうなぁ……」


 まあ先生も本当のことを言えるはずがない。

 何故なら、このクラスを牛耳っている天使は、教員を何度もクビにしたり最悪独房に入れて、何年間も過ごした人もいるからだ。

 そう考えていると、『キャー! 屋上に人がいるー!!』と聞こえたので窓から屋上を見て見ると、そこには先程の話題にのぼっていた。

 霧塔という生徒がおり、今にも飛び降り自殺しそうだった。


「四神さん! 行きますよ!」


「お……おう……」


 四神は、何時にもなく驚き。

 私と共に屋上へと向かう。

 向かった先には、やはり屋上から飛び降りようとしていた霧塔がおり、今にも飛び降りて死のうとしている。


「近付くな! 死ぬぞ! それ以上近付くと」


 私達がいた事は、すぐにばれて。

 屋上の扉の前から動けない。

 まあ、そんな事をすれば霧塔自体が飛び降りてしまうので、迂闊に動く事すらできない。

 そんな中、四神は口を開けて話をとりあえず聞くといい、何で自殺をしようとしていたか経緯を聞くことに。


「何で、お前はそんなに死のうとするんだ。何かあったのか?」


「僕も! こんな事したくないんだ! でも! 死なないと彼女を守れない!」


 私と四神は暫く、キョットンした顔をして

一瞬何を言ってるのか、正直分からなかった。

 だが、四神は霧塔の話を真剣に聞く。


「それって、どう言う意味だよ!」


「それは、君も今日聞いていると思うが、ある生徒に僕は苛められ続けている。そこまでは良かった……まだ、自分だけですんだんだから! だけど! 僕の大切な幼馴染の女の子を襲うと言ってきた! だから、僕が自殺することによって、それをしないと交渉してもらった」


 それは、本当に理不尽な物。

 こんなものが交渉と言えるのだろうか、どんなに酷い性格でも、女性に今まで手をあげる物は、この学校にはいなかった。

 正直、聞いていても気持ちが良いものではない。

 だが四神は、そんな霧塔の気持ちを気にする処か、大きな声で叱り始める。


「なんで、分かってやれないんだよ!」


「うんなこと言ったって、苛めっ子の気持ちなんて分かるわけないだろ!」


 本当に、私にも分からなかった。

 全く持って意味が、だから先程のようにキョットンした顔をするしかない。

 また、四神が良く分からない事を言ってるのだと思って。


「そんな事も、分からなくなっちまったのか! それは、残されたお前の女が悲しむって事だ! なんで……お前は! 分からないんだよ! 一番悲しむのは、お前を大切だと思っているその女なんじゃねぇのか! 俺は、悲しかったあいつが居なくなって……」


 四神は、何時にもなく真剣だった。

 こんなに、この人は人の事を思えるのかと、だったら最初から私の友人関係も気にしろと思うのだが。


「分かりました……自殺するのは止めます……」


 その後、霧塔は屋上から出ていき、学校からも居なくなり、静けさだけ残る。


 教室へと戻ってくるも、あんなことがあった後だ。

 皆は黙って授業を聞いていた。

 その最中だった、ガラガラと言う音がしてきて、誰かが教室に入ってくる。

 戸が開き入ってきたのは、クラスを牛耳っている。

 先程話しをしていた、生徒を脅している張本人に天使の男。

 

「まだやっているのかよ……今日も帰るので後は、よろしく……」


 一言を言って出ていった。

 その後も、クラスが静まりかえるも、誰の話声もしない。

 まあ、そりゃそうだ霧塔のように皆は苛められたくなかったし、何をやれるか正直分からない、どんな酷い目に合わされるか。

 だが、その最中この男だげはそんな空気を察する事が出来なかったのか、一言発する。


「さっきの男、天使か……」


「そうですよ! だから皆話しをしないように、しているのじゃないですか」


 天使は、この世で二番目に権力を持っているので用意に、誰も逆らえない。

 だから、皆は霧塔がいじめられていても、誰も庇うものは一人もいない。

 自分らも、そうなってしまうから。


「まあ……とりあえず、霧塔の家へ行ってプリントを渡してくれる人いるかー」


 先生が言う、誰も手を上げずにいたので仕方ないので私が上げる。

 それもそのはず。

 下手に霧塔の友達と思われると、巻き込まれでもしたらたまったもんじゃないから。


「そうか~朝日がやってくれるか~じゃあよろしくな……」


 まあ、先生も詮索すると自分の立場が危うくなるので、何も出来ないのだ。

 先生が言い終えると、四神が睨み眉間にシワを寄せ罵声を浴びせる。


「てめぇ! 面倒事引き受けるじゃあねぇよ! この……善人きどりのクソブスがぁ!!」


「しょうがないじゃないですか! 誰もやらないのですし! それに、四神さんが霧塔君にああ言うことを言ったんですよ! 責任取るのが筋ってもんでしょ!!」


 呆れた顔で、『そんな責任ねぇよ』と言った四神のその表情は如何にも、面倒みたいに見えた。

 また私に、そう言う事を止めろと言っている気がする。


「あのなぁー……こんな誰もが引き受けない事を立候補するのは、馬鹿なことだ!」


「何がですか? それに、人を助けるのって当たり前じゃないですか!」


「だから馬鹿だっているんだよ! いいか? よく聞け? 本人が、こう言う苛めを受けないようにするためには、自分がどうにかするしかないんだ! それに、俺がもしあいつの苛めていた奴を叩きのめしたとする。それであいつの事態は良くならねぇんだ! 裏でもっとやる可能性がある! それにインフィニターは仕事じゃなければ、力を使ってはいけねぇんだ!」


 私は、その意見には同意できなかった。

 確かに正しいかもしれない!

 社会的にはだけど……だが!

 人としては正しくない!

 そう思い、四神の反対意見を押しきる。


「私は、引き受けますからね! なんと言おと!」


 四神は、そっぽを向き自分は何もやらないからなと言った態度をとる。


「勝手にしろ! 何があって天使モ助けないからな!俺は!」


 本当に薄情な人だな。

 この人は……そう思っていると、チャイムが鳴り授業は終わる。

 皆は、一斉に帰っていく、何もなかったかのように。


「頼んだぞ!」


 先生もそう言うと帰っていく。

 私は霧塔の家へ行くその最中、何故か四神が着いきていた。


「行かないんじゃないんですか!?」


「ああん! しょうがないだろ! てめぇは、まだインフィニターになって日も浅い! 着いてかないと、何かあった時解決できないからな! それに……ちょっと嫌な予感がしたからな……」


 はいはいそうですかと、私は仕方なく四神が着いて行くのを了承する。

 そうこうしている内に、霧塔の家の前に着いた。

 だが、霧塔の家に黒い煙が上がっている。


「だろな……」


 意味深な事を言うのが気になるが、詮索するのは止めた。

 だって、そんなことより霧塔の事の方が、今は気になるから。


「中へすぐ行きましょう!」


「待て! これは、悪薬を最初に使った時にでる悪煙あくえんだ! てめぇは、離れていろ! 俺が最初に、中に入る!」


 最初の時と、うって変わって。

 真剣な表情で先に入っていく四神、続けて私も入っていくと、そこには黒い化け物に半分なりかけた霧塔が居た。


「だろうな……」


 なんで、分かったのか分からないが、話をすれば分かると思い話をしようとする。

 だが、時はすでに遅い。

 もうほとんど悪人あくじんと言う薬を使うとなる化け物になっていた。


「四神さん! 早く倒さないと!

霧塔君を……グス……グス……」


 私は、泣けてきた。

 ここまで可哀想な悪薬保持者は、今まで居なかったから。

 だけどやらなきゃならない。

 四神が言っていたように、薬を使うと自分でどうにかする方法はない。

 他のものにもどうすることも出来ないが。


「てめぇなんで悪薬なんて使った!」


 四神が言う。

 すると、霧塔は暗く怯えた表情をしながらもことの成り行きを言う。

 それは、悲惨な話ではあったが。

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