第2悪 史上最低な男(後編)

 とりあえず学校へと着き、暫くして授業になるとまた皆は何時ものように、五月蝿くしている。

 どうやら、全く反省してないどころか止める気はないようだ。



 それからその翌日、文と私の家で遊んでいた。

 そして、文はトイレに行くと言っていなくなり。

 遊び相手が居なくて、暇だったので周りを見てみると、あることに気が付く。

 タンスには怪しい封印のお札ようなものが貼ってあり、如何にも剥がしてはいけないような雰囲気が漂っていた。

 だけど、つい私は好奇心を押さえきれずに、札を剥がして中を確認する。


 引き出しの中をのぞくと、封印のお札ような物がダイヤの指輪に貼ってあり、その他には赤のカウンターと透明なカウンターがあった。

 なんで、こんなものがあるのだろうと不思議に思うも、そのダイヤの札も剥がしてしまい、一応言い訳を考えてみる。

 まあ、こんなところに不自然なものがあると、つい誰でもやってしまうのだと。

 だが、翌々考えてみると、このタンスはお母さんのだし。

 色々バレたら、滅茶苦茶怒られて怖いし、不味いことになると思い、今さら後悔する。

 私は、そこに不思議なことがあるとついやってしまったり、その物事を一日中考えてしまって、その事について離れられない。

 その為、他の事が手がつかなくなることが、しばしばある。

 まあ、しょうがないのだろう。

 そう言う性格なのだろうと、勝手に納得してしまい、やってしまったことについて、言い訳をし始める。


 一瞬、剥がしたら何か起こるかと思い、冷や汗をかいて損した気分になったが、暫く経っても何も起きない。

 だから油断して、興味本位で指輪をつい着けてしまう。

 突然ダイヤが光りだし、光の中から徐々に男の姿が現れる。

 しかし、その男は無愛想な感じだった。

 それに、目が死人みたいな感じで、如何にも悪人面をしていた。

 何処か機嫌が悪そうな、そんな感じの雰囲気も醸し出している。


「誰だぁぁ! 俺を呼び出したのわぁぁ!!」


 その男は、とても怒っていた。

 なんで、そんなに私に対して怒っているのか、全く分からなかった。

 そんなことは、どうでもよかったから無視をして、その男が何故ダイヤの中から出てきたのかが、気になったので質問をなげかける。


「それより……なんでダイヤの中から出てきたのですか?」


「それはだな……俺はとある力を制御出来なくてダイヤの中に封印をされていて。このダイヤは地獄の中に繋がっていてだな………って! なんでお前にこんな事を話さないとならねぇんだ! あああん!?」


 その男の話いわく、とある事が原因で地獄に行くこととなり、地獄と繋がっているダイヤの中に封印されたらしい。

 他の事も、気にはなったが、私がダイヤマンと言ったら『俺は四神我流しがみがりゅうだ! 覚えておけ!』男はそう言い私の言ったことに対して怒ってしまったようで、他の詳細を聞き出せなかった。

 結局、それ以降何も四神は言わなかった。

 まあ、私もいちいち余計なことを言ったから、仕方ないかと思い諦める。

 それに、当然と言えば当然で。

 見ず知らずの他人に、自分のプライベートなことを言うなんて、ある筈がない。

 そう思いながら、男の方を見てみると、険しい顔をして違う場所を見つめていた。

 いかにも、難しそうな表情をうかべなから深刻そうに。


「それより……なんかあっちの方に、変な気配がするぜ……」


 文が、トイレに行くと向かった場所だった。


「私! 心配だから見てきます!」


 私は、心配だったので向かおうとするもその男が『ちょっと待てよ!』と言うから仕方なく話を聞く。


「何なんですか?」


「念のためカウンターを全部持っていけ! もしかしたら、悪薬保持者が要るかも知れねぇからな……」


 私は、その男がうるさく言うので仕方なく、2つのカウンターを持っていった。

 何故か、自分でも不思議でその言葉を信用できたのである。

 何故かは分からないが……自分でも、可笑しいなとさえ思う。



 それから、四神と一緒に来たが、そこには文はおらず部屋全体が黒い霧では覆われている。

 周りを見渡して、よ~く見てみると黒い化物だけが、そこにいて文の姿は全くない。

 私が、そっちの方をみていると、気が付いたのか化物が勢いよく、こっちに向かって走ってくる。

 どんどん近付いていく、やがて距離縮めていき、すぐそばまで来ていた。

 その化物は、鋭く生えている爪を私の方へと向けて振り下ろしてきた。

 私は、間一髪当たらなかった。


「おい! 今すぐカウンターを使え!」


 私は『え?』と四神の言葉に思い戸惑った。

 その化物は、爪が床に刺さったため、抜けなくなり必死に抜こうと、もがいてるため、先ほどの攻撃は出来なかった。


「カウンターを持っていたのだから、カウンターぐらい使えるんだろ! だったら、早くインフィニターなんだから、使えよ!」


 え?

 私がインフィニター?

 そんな、不思議そうな表情をしていた私に、なんで使えないんだよと四神言ってきた。

 ごく当たり前かのような、その発言は可笑しいので、相手にしなかった。

 まあ、私は当然インフィニターじゃないので無理だとは言ったのだが、全く聞く耳を持たない四神。


「私が、インフィニターの訳ないじゃないですか!」


 四神は、はぁ~とため息まじりに呆れた表情で見てきたが。

 私が、カウンターの力を使えないのも、事実なのでどうしようもない。


 そうこうしているうちに、化物は漸く爪が床から抜けたのか、今にも鋭い爪で切り裂こうと手を振り下ろそうと、構えていた。


「仕方ねぇか!! 一か八かだ! もしかしたら、インフィニターじゃなくても、カウンターを使えるかもしれないから。やってみろ!!」


「はい!」


 私は、四神の言われるがまま、その透明なカウンターを操作した。

 どうやら、横の円柱のものを回すと、

どれだけ力が使えるのか、分かるらしい。

 回してみると。1800と言う数字が真ん中の白いところに出てきた。

 よく見ると、数字の上にボタンが4つあった。

 四神は、そのカウンターに書いてある、数字ごとに、力が引き出せると言っていた。

 一番力が引き出せそうな、四神が言っていた一番左のボタンを押す。

 だが、何も起きないと思い、もうダメかと諦める。

 だけど、いつの間にか先程まで私が持っていたであろう、赤いカウンターは男の手元にあった。

 慣れた手つきで、カウンターの円柱の形をした物を回して、一番左のボタンを押して、カウンターの中から出てきた刀を右手で持ち。

  そのまま、その化物に降り下ろし斬りつける。


「ぎゃぉぉぉ!!」


 化物は、斬られたためかうめき声を上げる。

 しかも斬ったと思ったら、その化物の背後に四神は移動していた。

 その化物の黒い部分が切れて、そこから裂けるように割れていき、人の顔が徐々にでてくる。

 だが、私は目を疑った。

 その顔は、どっからどう見ても文だったからだ。


「え!? なんで文が出てくるの? どういう事?」


 困惑している私に、はぁ~と溜め息まじりに四神はまた呆れた顔で説明をする。


「まだ分からねぇのか! お前は、コイツはめられたことだよ!」


「え!? 嘘だよね? 文?」


 文は、私に何か因縁があるかのように、鬼の形相で睨み付けてくる。


「嘘な訳ねぇだろがぁ!! この! 地味クソムカつき女が!」


 私は、唖然としていた。

 だが、それは文が悪薬保持者だったことではなく、文が私の事をそんなふうに思っていたことに。

 そのような言葉を平気で、親友である私に言ってきたことに。

 そして、彼女の本心は私を友達とは全く思っていなかったことに。


「どのみち気にくわなかったのよ!! この女は!! 私の方が人気者なのに、どうしてこの冴えない女なんかが、頭がいいの! そして、何もかも上手く出来るのよぉぉ!!」


 ポロポロと私は、その発言を聞いて涙をこぼすしかなかった。

 とても悲しかったからだ、親友にさえ好かれていなかったと言う、辛い現実に。

 そして、本当は誰一人も味方がいなかったと言う真実に。


「文は、私に優しくしてくれたよね! 励ましてくれたよね! なんでそんな事を言うの……えぐ……ぐす……ぐす……私、文の事を本当に親友だと信じてたのに!……なんで……ぐす……ぐす……」


 文は、ゲラゲラと高笑いをし、泣いている私を見下し暴言を再び吐き続ける。


「そんなわけねぇだろがぁ!! お前みたいな嫌われ者で、地味クソブスメガネ女! 親友な訳ねぇだろ! ただ利用しただけだよ! 少しでも私みたいな人間に、利用されただけありがたいと思え! 私みたいなクラス一の人気者が、あんたみたいなクラス一の嫌われ者になんかにさ! 理由もなく、親しくするわけないだろ!!」


 私は、涙が止まらなかった。

 文がこんな事を思い、私を友達として付き合っていなかった事に……今まで文と過ごしてきた楽しい思い出は、本当に嘘だったのかと、偽りだったのかと思うと、余計に悲しくなる。


 そんな中、四神は不気味に笑いながら、文と私の会話を聞いて嘲笑っていた。


「あははは!! 下らねぇよ!! もういいだろ! 茶番は! さ! さっさとお前を地獄に送る!!」


 男は、そう言うと今にも刀を構え斬ろうとしていた。

 だが、私は何故かそれを止めようと、庇ってしまう。

 それは、大切な人を失いたくないから。


「なんでお前が邪魔をする!」


「だってたとえ裏切らても、親友だもの! それに、何かあったから文はああなってしまったに違いないもの! そうに決まってる! それに、文が本当のことを言ってるのか分からない! それを確めるまでは、文は地獄に行かせない!!」


 だが、四神は私の話に耳を傾けるどころか、私をかるがると避けて文を斬る。

 縦に切り込みを入れられたかと思ったら、切り口が裂けていきやがて大きくなり、そこから黒い渦が出てきて、文はその渦に吸い込まれそうになる。

 必死にもがく文は、なんとも苦しそうな表情を浮かべていた。


「助けて~! 雫!!」


 逆らおうとするも、黒い渦はどんどんと吸引力が増していき、徐々に足から頭の先まで吸い込まれていく。


 文は、やっと改心したのか、諦めたのかは知らないがスッキリした顔で、こちらに向かって最後に自分がこのような行いをした経緯を話す。


「私は、雫が羨ましかった。何でも出来て才能があるから。私は何もなくて、劣等感を抱いていた。だから、何でもいいから自信を持ちたかったの……私は、本当は何も無いもの……あなたと……違って」


 その時の文は、なんとも悲しそうにうつむき、申し訳なさそうに、暗い表情をして反省しているように見えた。


「あんたは……私みたいになるんじゃないよ……あんたは、正々堂々と自分の力でやったきたんだから……決して人に、考えを合わせてはいけない!……私のようにね!……ぐず……ぐず……」


 涙を流し、泣き終えた文はスッキリした表情を浮かべたと思ったら、姿がなくなっていた。

 黒い渦も、それと同時にすぐに消滅してた。


「何故……なぜ何ですか!!……文を斬って地獄に送ったの!?……改心したかもしれないじゃないですか!! あの表情とあの反省した発言を聞いて、なんでそんな事ができるんですか!……なんで……なんで!……私のたった一人の親友を……私には文しかいないのに……ぐず……ぐず……誰一人として、味方は居ないのに! それなのに! あなたは!」


 泣きながら私が言うが、四神は顔をうつむきながら悲しそうに、現実のことを語っていく。


「自分の事は、自分でしかどうにもする事は出来ない……たとえ友達でもだ!  だから他人の言葉や行動に左右されてはいけない……お前の親友みたいに利用されてしまうからな……だから……どの道幸せでも不幸でも自分で責任をとるしかないんだよ……それに、本当の愛や友情なんてこの世にはない……あるのは、汚い人間関係と自分にとって嫌な連中だけだ……」


 私は、四神の言葉は真実だと分かっていた。

 だけど、それを否定したくてしょうががなかった。

 だって、それを認めてしまうと、四神が間違ってないと認めてしまうことになるから。


「あなたは、本当の友情はないと言った……ぐす……ぐす……でも!  親友の文は、最後言ってくれた!……ぐす……ぐす……私だけに、自分の思いを!……ぐす……ぐす……」


 だが、その言葉は四神には何も響かない。

 それは、何故だが分かっていた。

 私が、人を信じて騙されただけだからだ。

 そして、私もそんなことをしてもなんの意味もないと分かっている!

 なんの解決にも、ならないことも分かってる!


 だけど悔しくて仕方がない。

 しかし、四神は顔をうつ向き寂しそうにしているだけ。 

 その光景をみていると、確かに四神は今まで色々なことがあってこうなったと、想像できるかもしれない。

 辛いことがあって、そうなったのかも知れない。

 だけど、全く納得がいなかった。

 確かに、そうするしかなかったかもしれない、こんな文を傷付ける最低最悪なやり方をしたのは分かる。

 だけどやはり許してはならない。

 第ニの文みたいな人が、生まれる可能性だってある。

 だから、私みたいな大切な人を失う、人を生まないように、四神には真人間になってもらうんだ!

 いつか、四神に自分のやっていたことが正しいと証明してやる為に!

 絶対に、更正させてやる!


 だから、この男の言葉や言動を許してはならない。

 許したら、正しいことになってしまう。

 私の心の寄りどころの、親友を失わせた処か、自分の今まで築いてやってきたことも、全否定する奴なんかに!


 そう思うも、四神は私を可哀想な人を見るかのような目で見てきて、見下してきて失礼極まりない。

 そんな見方される必要性もないのに。

 私は、そのように思われるほど、どうしようもなくて、哀れな人間じゃない。

 だから、絶対に私は文も救いだすんだ!

 そして、この男こそくだらない最低な男だと、世の中に知らしめて反省させてやるんだ。

 この男はやがて、自分がした行いがいかに、酷い事をしたと気付くだろう。

 その時は、なんでこんな人になってしまったのか、どんな過去で性格がこんなに歪んだのか聞こう。

 この男の悩みを解決すれば、このような人間に対処が出来るようになる。

 そして、彼みたいな人は一人もいなくなり、私の人生はバラ色になる。

 そんな、ありもしない妄想にふける。

 しょうがない、私の顔は既に涙でぐしょぐしょでとてもじゃないが見れたものではなかったし、それにそうしないと心が持たなかったから。

 そのように思ってないと、ショックでこれから一生立ち上がれないように、なる気がしたので。

 今はこうするしかない、たとえそれが幻想でありもしない、世迷言だったとしても。

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