第29話 ドラクリア

「竜族の国には僕一人で行きます」


「分かりました。それではご主人様、失礼します」


 そう言ってフレアは僕の両脇に手を挟んで軽々と持ち上げる。そして翼を大きく広げはばたかせた。一気に宙に浮き高度も徐々に上がる。

 最高点に達するとルノメンの町が一望できる。絶景だ。


 てっきり本当にドラゴンの姿にでもなるのかと思ってたけどこれはこれで悪くない。それに竜族の筋力があれば僕を持ち上げることも造作でもないんだろうね。


「竜族の国にはどれくらいかかるの?」


 僕はフレアに抱えられながら尋ねた。


「『竜化』であれば一時間、この姿であれば三時間でしょうか」


「『竜化』って言うのは?」


「えっと…………本来の姿を解放する能力のことです」


 ああ、僕の予想通りドラゴンの姿にもなれるんだ。


「どうして『竜化』しないの?」


「そ、それは…………」


 フレアの声が詰まる。


「あ、言いたくなかった別にいいけど」


「いえ…………ただわたくしは竜化したら制御が利かなくなるんです…………」


 ああ、そういう事…………


「大変なんだね…………」


「はい…………でも鍛錬次第でいつかは…………」


 そこでフレアの声が止まった。


 そして僕は気まずくなった空気を変えるために話題を変える。


「それより…………結婚することについてはどう思うの?僕は女の子だよ?」


「そのへんは問題ありません。自分よりも強い人と結婚することが竜族の決まりですので。それに竜族の中にわたくしより強い者はお父さまを除いておりませんでしたから。あと竜族には結婚するのに性別も関係ありません」


 何だかすごい世界だな…………

 結婚するのに性別が関係ないなんて。それに実質竜族ナンバー2なんだね…………


「そ、そうなんだ…………」









 ・・・


 それからフレアの言った通り三時間で空の上から国が見えてきた。


「ご主人様、あれが我々の住む竜族の国『ドラクリア』です」


 そこには構造建造物がたくさん立ち並ぶ中世の街並みがあった。

 更に国の中心には大きな時計塔みたいなものがある。


 そして『ドラクリア』の入り口で僕はフレアに降ろされた。


「プリンセス!!お帰りなさいませ」


 数人の竜族の兵士が駆け寄ってくる。


 フレアと少し形は違うけど角や背中から翼もついている人たちがいる正真正銘の竜族の町だ。


「ご苦労様です。わたくしたちをお父さまのところまで案内してくれないかしら」


 完璧に王女様だ。振る舞いの一つ一つが清楚で大人っぽい。

 こんな人に『ご主人様』って呼ばれている女の子の僕っていったい何なんだろう…………


 そして案内されるままさっき空から見えた時計塔までやってくる。

 そして時計塔の門を兵士が開けるとそこには地下へと続く階段があった。


 どうやら竜族の王様の暮している場所は地下なのだろうか。下へと続く階段の壁には様々な装飾が施されていて豪華な感じがする。


 階段が終わると一際大きな扉の前に到着した。この扉もまた階段の壁と同様に細部にまで装飾が施されている。


「お父様、わたくしです」


 フレアが扉に向かって声を掛けると奥から低い声が返ってくる。


「フレアか…………入って来なさい」


 扉が大きな音をたてながらゆっくりと開く。


 そして扉の奥にいたのは黒鱗の大きなドラゴンだった。

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