第32話 勝機

 バハムートとの戦闘は正直バハムートの方に武がある。

 僕は一方的にバハムートの攻撃を受けきるので精一杯。魔法は詠唱や規定されたものを使わなくて済むものの創造する隙きすらも与えてくれない。


 せめて一瞬でもバハムートから隙をつければ……そう考えてたとき、一ついい案が思い浮かんだ。



『チャーム』を使えばいい。



 これは例えバハムートが僕の能力を知っていても対策はできないはずだ。


 僕はそう考えたとき真っ先に『チャーム』を発動した。

 対象相手を魅了し集中力を削ぐ。今はそれだけでも大きなチャンスを作り出せるのだ。


「ん?」

「お主、不思議なことをするではないか」


 バハムートは自分の体の異変に気づいたようだ。

 でも流石は竜族の王。普通の相手であれば集中力は愚か戦闘能力の喪失まで狙える能力なのにバハムートは少しの異変を感じる程度なのだから。


 でもその一瞬の隙こそ僕が望んでいた好機。


 魔法の創造には十分な時間だ。

 そして僕が使ったのはジンクロ鉱山でクロガシの巣を破壊するときに使ったもの。


 そしてバハムートの全身が炎の球体に包まれる。

 すると球体の中から声が聞こえる。


「何!?……最上級魔法か!!!!」


 パァン!!!


 炎の球体が弾け飛ぶ。


 そこから体がボロボロになったバハムートが姿を現す。


「まさか…………『竜化』を解いた…………ことが裏目に出るとは…………」


 致命傷だ。

 これで僕の勝ちがほぼ確定した。バハムートが竜化状態であればこの魔法攻撃も意味をなさなかったかもしれない。

 正直博打だったけど何とか成功して良かった…………


「僕の…………勝ちですね」


「うむ…………お主の勝ちだ。好きにするがよい…………」











 ・・・


 バハムートとの戦いの後『ドラクリア』では一気に僕のうわさが広まってしまった。この世界は日本にいた時よりも情報の流出が早い。そのくせしてその情報も正確過ぎて言い訳もできない…………


 僕は魔力消費に体力の消耗、傷をいやすためドラクリア内で宿を取って一日休息を取ることにした。それに外を歩くと突っかかってくる竜族が沢山いるから。

 この国が実力至上主義の国だから我こそはというやからが勝負を申し込んでくるのだ。

 僕的にはそんなの断じてお断りだし、そもそもバハムートに勝てたのもほとんど運なんだから。


 トン、トン、トン…………


 宿屋のドアが誰かに叩かれる。


「はい…………」


「ご主人様…………フレアです」


 どうやら訪ねてきたのはフレアみたいだ。


「どうぞ」


 僕はベッドで横になっていた体を起こす。


「ご主人様…………」


「あの…………もう僕はフレアと結婚しないから『ご主人様』なんて言わなくていいよ?」


「いえ…………わたくしがそう呼びたいのです…………」


 フレアの視線が真っすぐ僕の方へ向く。

 その顔はバラのように真っ赤で…………


「ど、どうして…………」


「わたくしもご主人様について行ってよろしいですか?」


 ん?ついて行く???


「えっと…………ルノメンに?」


「はい…………よろしいですか?」


 まぁこちらとしては賑やかなほうが生活も楽しいし断る理由も無いけど…………


「一応聞くけど…………それはフレア自身の意志だよね?」


 ここでバハムートの命令と言われれば即断るけど…………


「はい…………わたくしが本心からご主人様のお供をしたいと…………」


「そう…………だったらおいで。一緒に暮らそう」


「!!!いいのですか?」


 え?なんで聞いておいてまた聞き返すの?


「う、うん…………僕も賑やかなほうがいいし、それにシナモンも喜ぶと思うよ」


「はい!!わたくしご主人様について行きます」

「それで…………あの時わたくしとの結婚を拒んだのは…………わたくしが嫌いだからではないですよね?」


 突然の問いに戸惑う。

 た、確かに嫌いではないんだけど…………

 僕のアイデンティティに反するだけであって。


「うん、嫌いじゃないよ」


「そ、そそそ、そうですか…………」


 フレアの顔が今まで以上に真っ赤に染まる。

 えっと…………この反応は色々とマズいような気がするんですけど…………

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