第26話 胸の内
東の領地の魔術学校。
日本の高校なんかと比べ物にならないくらい大きい学校で在校生の数も尋常じゃない。中にはエルフの子もいるし獣人の子の姿も目に入る。
でも明確な線引きがされていた。
というのも学校を入ると人間は中央の校舎に、エルフは右、獣人は左の校舎へと入っていく。
だったらシナモンは…………
まさかハーフ専用の校舎があるなんて到底思えないし、当然だけど人間かエルフのどちらかの校舎だよね。
僕は学校の塀の上に飛び乗り中をこっそり覗き込む。
そしてシナモンの姿を見つけた。シナモンが入っていった校舎は右の建物、エルフが入っていく建物だ。
ここから先には魔法でも使って姿を隠して中に入ろうと思ってたけど魔法を学ぶ人たちに僕の魔法が通用するはずがないから潜入は断念。
そもそも僕に姿を隠すなんて高度な魔法が使えるかどうかも分からないしね。
だからタイミングを見計らってこっそり『気配遮断』でも使って入るかもしくは校舎の外に出てきたところだけ見学するかのどちらか。
そう考えた時にうかつに動くよりかは、
「取り合えず待機かな」
・・・
少し場所を変えつつ木の上から校舎の中を覗き見る。
授業風景はどの世界も共通なのだろうか、生徒が椅子に座り先生と思われる人が教壇に立っている。それに流石は魔術学校、外の訓練場みたいなところで魔法の戦闘訓練をしてるのも見て取れる。
しかもこの魔術学校には学年分けの制度がないみたいだ。
というのも見ている限り一つのクラスには様々な年齢の子がいる。上は高校生くらいの人から下はシナモンみたいな子まで様々。
そしてそんな感じで学校を観察しているとようやくシナモンに動きがあった。
数人のエルフに連れていかれる。
その瞬間胸がチクリと痛んだ。
嫌な予感が的中したのだ。
案の定シナモンは他のエルフの男女3人に校舎の裏まで連れてこられていた。そしてかぶっていたベレー帽を取られる。
正直素性を知らない限り外見は普通のエルフと変わらないのに…………
さらに他のエルフの生徒によるいじめと思われる行動は過熱化していく。しまいには魔法を行使しようとする。
ここで見て見ぬふりだってできるし助けることもできる。
そうなったときに僕は助けることを選んだ。
「大丈夫?」
「え?シノブ?どうしてここに?」
僕はシナモンに手を差し伸べる。
「あ?お前誰だよ?」
「シナモンのお友達です」
すると三人は顔を見合わせ笑い始めた。
「あ?こんな汚い血の混ざったエルフの友達?」
「何コイツ。獣臭くない?」
「そうですよね。だって僕は獣人ですから」
僕のしっぽや耳を見て更に笑いに拍車がかかったようだ。
「「ははははは!!!!」」
「アンタ獣人のくせに生意気よ」
エルフの女子生徒の一人が魔法の詠唱を始める。
ー来たれ風の聖霊よ、我に宿りて敵を切り刻めー
ー風靭ー
三本の風の刃が僕とシナモンに襲い掛かる。
だけど魔法が僕に効くはずもなく風の刃は体に当たる瞬間に霧散する。
「「「は?」」」
「残念でした」
「どうするの?これでもシナモンをいじめるの?」
「チッ!!!」
「行くわよ!!」
そう言って三人のエルフの生徒は去っていった。
「シノブ…………ありがとう…………」
また胸がチクリと痛む。
「今までこうやって耐えてきたの?」
「うん…………」
シナモンは僕なんかよりはるかに強い。だって僕はいじめに耐えられなくなって自殺したんだから。
でもその分シナモンの気持ちには誰よりも共感できる。
誰にも相談できない孤独感、それが飽和状態に達したら辛くて死にたくなる…………
「シナモン…………」
「今日は何とかなったかもしれない。だけどこれで終わったわけじゃないんだよ?」
「分かってる…………」
「だから…………私はもっと強くなりたいの!!」
「お願い!!お父さんのためにも私のためにも私も一緒に冒険に連れて行って!!」
え?
一緒に…………
「別に一緒に来てもいいよ」
「ホント!?ありーーー」
「でも」
「シナモンがもしあのエルフの子たちに痛い目に合わせたいって思ってるんだったら僕は連れて行かない」
「え?」
そう…………いじめてた子を懲らしめるために強くなりたいのと純粋に強くなって戦うことは違う。これは僕がこの世界に転生して改めて獣人のそれも強い力をもった女の子人になって気づいたこと。別に一緒に来ることを拒みたいわけじゃない。
力があるから力を得たから復讐する、それはいじめと本質が変わらない。
シナモンにはそれを理解してほしい…………
勿論明確に抵抗するべき場面だってあるけどね。
「…………」
「シナモン…………早く帰ってきてね」
最後にそう言葉を残して僕は学校を後にした。
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