第25話 シナモンの気持ち

 東の領地に位置する王立魔術学校。

 ここは王国が設立した魔術学校であり魔法使いを育成するための機関である。

 学年という概念は存在せず教室の振り分けは全て魔法の実力で決まる。だから同じ教室にいる生徒でも年齢、階級も様々、上は18歳もいれば下はシナモンのような10歳の子供、貴族や領主の子供もいれば平民の出の子供だっている。

 更にこの魔法学校の特色としてはハッキリとした種族わけがされているという点だ。

 門を潜ればそれぞれの校舎、人間、エルフ、獣人と分かれている。


 ただこの制度がシナモンにとって一番の問題であった。

 なにせシナモンは人間とエルフの中間の存在ハーフエルフだからだ。


 人間が通っている校舎に行けば『どうしてエルフがいるのか』と口々に噂され、またエルフが通う校舎に行っても見た目はほとんど変わらないがエルフには人間の血が混ざっていることはお見通しなのだ。


 しかしそれでもシナモンは息苦しさを感じる中でエルフの生徒が通っている校舎へと毎日のように足を運んでいる。

 それはひとえに父の見てきた景色、そしてを冒険者になって見るためだ。

 シナモンはもうとっくの昔に気づいていたのだ。

 父が帰ってこないということに。

 しかしそれを知ってもなおシナモンは自分がまだ父の死を知らない純粋な少女を演じきっている。10歳の少女は傍から見ればただの女の子かもしれないが心は誰よりも大人なのだ。


 そしてシナモンはその冒険者になるために必死に努力した結果、王立のこの魔術学校でも二番目に優秀といわれるB級魔術師の称号を得たのだ。


 しかし当然であるがシナモンの子の頑張りを良く思わない者もいる。

 B級魔術師。それはエルフの中でもごく少数しかいない。そんな優れた称号を人間の血が混ざったハーフエルフが持っているともなれば自然に周りからの扱いもひどくなっていく。


 そしてこうして今もシナモンは同じクラスに属するエルフから呼び出されたのだ。


(ああ、またこの子たち…………)


 もう何度目かの行動にシナモンはうんざりしていた。


「ちょっとアンタこっち来なさい」


 強めの口調でシナモンを呼びつけるエルフの女。シナモンよりかなり年上だ。そしてそれと一緒にいる男のエルフ二人もまたシナモンよりも明らかに年上であることが見て取れる。


 そしてシナモンは三人に連れられるまま校舎の外へ出た。


 そもそも学校内での授業外での魔法の行使は禁止されてる。だからこれからシナモンが受けるのは純粋な暴力だ。


(また後で回復魔法ヒールでもかけておけば傷も見えなくなるよね)


 とシナモンはいつも通り暴力を受けた後のことを考えていた。

 魔法を使えばシナモンにとってこの三人は取るに足りない相手だ。だけど今は学校内で魔法の行使は禁止。もし使えばどのような厳罰が下るか分からない。


 しかし何を思ったのかエルフの女が魔法の詠唱を始めたのだ。

 これには今まで抵抗していなかったシナモンも横で見ていた男のエルフの生徒も驚く。


「お、おい!!メリー!流石に魔法を使うのはまずいんじゃないか」


「なによ?ゲイルだってコイツがウザいんじゃなかったの?」


 ゲイルと呼ばれた男のエルフは言葉を詰まらせる。


「た、確かにハーフエルフで年下のくせに俺たちよりも二つ階級上のB級ってのはムカつくけどよ、ここで魔法を使ったら俺たちだってどんな罰が下るか分かんねえぞ!!」


 ゲイルの言葉に何故かメリーは不敵な笑みを浮かべる。


「よく考えてみなよ、私たちは三人ともD級魔術師。普通に考えて敵うわけないでしょ?だったらそれを言い訳にすればいいじゃない!コイツを痛めつけるだけ痛めつけた後私たちも少しけがをする。そしたらお互いに魔法を使ったことになるでしょ?」


 さらにメリーは卑劣なことを口にし始めた。


「それに私たちの親は貴族、クラスの奴らは私たちには逆らえない。それにクラスの奴らだってコイツを良く思ってないはずよ!!」


 つまり一方的に魔法で痛めつけたのち全てはシナモンが吹きかけてきたことにするという考えだ。


 これにはシナモンも口を出さずにはいられなかった。


「あなた達は本当にひどいですね…………」


 シノブを前にする明るいシナモンとは違い今のシナモンは何もかもに絶望したような表情そして口調だった。


 しかしメリーの言葉に自信がついたのか三人は今まで以上に大きな態度を取り始めた。


 そして魔法の詠唱をとうとう始めたのだ。

 しかしシナモンは動こうとしなかった。これから起こる結末が分かっていながら抵抗の兆しを見せない。


 そしてメリーの詠唱の最後の一文が読み上げられた時シナモンに無数の風の刃が降り注いだのだった。

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