第27話 マルクス滞在最終日

『マルクス』滞在一週間が経った。

 つまり武器屋の店員さんの指定された日がやってきたのだ。

 僕は指定された時間に武器屋に訪れた。相変わらず周りからは浮いた存在のお店。だけど言わないほうがいいこともあるよね。

 だから僕は店員さんにはこの話はしないでいようと思う。


「おじさん武器はできましたか?」


 店の奥から武器屋の獣人店員は布の包みを持ってくる。


「おう!完成してるぞ。だが少しばかり嬢ちゃん用にちょっと変えさせてもらったけどな!」


 すると店員は布の包みをそっと取る。

 そしてそこから姿を現したのは二本の白色の短剣。片方の短剣は真っすぐな刃なのに対してもう一方の短剣の刃はギザギザ状になっている。


「二本ですか?」


「ああ!このサイズの短剣を二本を扱うのは結構難易度が髙いと思ったんだがな、嬢ちゃんの実力なら扱えるはずだ」

「それに俺がこだわったのは切れ味、耐久性だけじゃねぇ!!色にもこだわったんだぜ?」


「はぁ…………」


 確かにキレイな白色だけど…………

 そこにこだわるんだったらもっとほかの場所に力を注いでほしいんだけどね…………


「嬢ちゃんの髪や毛並みと同じ白だ!!」


「あ、ありがとうございます…………」


 まぁカッコいいからいいんだけどね。


「ところでお値段…………」


 すると凄く軽い口調で店員さんは答えた。


「ああ、それならいらねぇよ」


「え?どうしてですか!?」


「実はな、王国十字軍に決闘で勝った冒険者が依頼してきたって伝えたら次から次に依頼が舞い込んできてよぉ!!今じゃ大繁盛だぜ!!」


「そ、そうですか…………」


 どうやら僕が王国十字軍の人との決闘に勝ったことが町では広まってしまっているようだ。

 いつの間にか商売道具にされてたんだ…………まぁいいんだけど。


「だから料金はタダだ!!大切に使ってやってくれ!!」


 そう言って店員は僕に二本の短剣を渡してきた。


 僕はそれを受け取って両サイドの腰に装着する。


「ありがとうございます!」


 これで『マルクス』での用事は済んだけど僕には最後に一つやるべきことがある。









 ・・・


 僕は武器屋から宿屋に戻る。


「一週間ありがとうございました」


 僕はシナモンのお母さんに一週間分の宿泊費を渡す。


「気にしないで。シナモンもお世話になったみたいだから」


「いえ…………」


 結局シナモンからはあの日以降話を交わしていない。

 それでもシナモンにはじっくり考えてほしい。これからどうしたいのかを…………


「それじゃあ行きーーーーーー」


「待ってください!!」


 宿屋の奥の扉が勢いよく開く。

 そしてそこから姿を現したのはベレー帽をかぶって大きなカバンを背負ったシナモンだった。


「シナモン…………」


「シノブ、やっぱり私も連れて行ってくれませんか!!」

「私、強くなりたい気持ちは変わらない。でもその使い道は別にいじめてた子に痛い目を見せるためじゃない…………」


 そう言ってシナモンはシナモンのお母さんの方に体を向ける。


「私知ってたんだ…………お父さんは帰ってこないって」


「シナモン…………」


 この子は見かけ以上に強いんだ…………


「そりゃ気づくよ、親子なんだもん」

「私シノブと一緒にもっといろんな世界を見てみたい…………お父さんが見てきた景色を」

「だから…………」


「そう…………行ってらっしゃい」


 シナモンのお母さんはあっさりと許可を下した。


「いいの?」


「ええ、一度決めたことは曲げないところ…………お父さんにそっくりだもの」


 シナモンの目に涙が浮かぶ。


「それとこれ…………」


 そう言ってシナモンのお母さんは首から下げたペンダントをシナモンに渡す。


「これ、お母さんの…………」


「ええ、そうよ。お父さんから貰ったものよ。次はあなたが持ってなさい」


 その言葉と同時にシナモンの目からは涙が零れ落ちる。

 そしてお互いが抱き合いシナモンの鳴き声が高らかに響き渡った。


 僕?当然泣くよね。






『マルクス』から自宅のある『ルノメン』までの帰宅道中、僕は新しく仲間になったハーフエルフの女の子シナモンと会話を楽しんでいた。


「シノブこれからよろしくお願いします!」


「よろしくシナモン」


 これからやることは沢山ある。シナモンの冒険者登録に部屋の改装。

 確か余ってる部屋が一つあったからそこをシナモンの部屋にしようと思う。まさかここに来て二人暮らしをすることになるなんて思わなかった。でも一人よりも二人の方が絶対に楽しいだろうしね。

 ん?でも神様がいたことを数えればもともと二人で暮らしてたことになる?いや、そもそも神様は家を買った直後にいなくなったわけだし一人としてカウントできるかも微妙…………


それより、


「シナモンは魔法はどれくらいできるの?」


「えっと~魔導検定のB級は取ってますよ」


「魔導検定?」


 ここ最近『マルクス』に言ってからというもの知らないワードが多すぎる…………まぁ当然なんだけど。


「えっと、王国で魔法学校に通うとそういう称号が貰えるんです。それに魔法にもランクがあって上からA、B、C、Dの四段階評価です。その中の私はB級魔術師なんです」


 つまり異世界風の資格みたいなものだろうか。

 しかもシナモンのB級は聞く限りだと上から二番目、すごいと思う。

 それにこの魔法の階級はこの世界中の魔法使い全員に適応されるものらしい。だからシナモンはこの世界でも凄く高位の魔法使いということだ。




 そんな感じでお互い気になったことを話し合ったりしているうちにあっという間にルノメンにある自宅に到着した。



「ここがシノブの家ですか?」


「うん。そうだよ」

「奥の部屋が空いてるからその部屋を使ってね」


 家を買って早々に北の領地の任務に参加し、それが終わって武器を買おうと思ったら次はその武器の制作待ちとでそこそこ長い間家を留守にしていた。


 だからこうして自宅でゆっくりするのは久々なわけだ。


「シノブの家って…………なんだか物寂しいですね」


 そうだろうか。

 ベッドにソファー机に椅子…………確かに物寂しいと言われればそうかもしれない。でも正直これくらいが僕にとっては一番落ち着けるわけで…………


「シノブって見た目はこんなに可愛いのに家は簡素なんですね」


「簡素で悪かったね!!」


 なんてことを言われたので一応反論はしておく。本心は別に気にしてないんだけど。



 その後はルノメンの町に出てシナモンの分の食器や生活用品の買い出し、そして冒険者登録も済ませた。




 名前、シナモン

 性別、女

 種族、ハーフエルフ

 年齢、14

 役職、冒険者

 称号、B級魔術師

 能力、高速詠唱

    魔導適正

    高速成長



(高速詠唱、詠唱速度が速くなる)

(高速成長、エルフの持つオリジナル能力『長寿』と人間の特性が融合しイレギュラーを起こしたもの。急激な経験値の上昇による身体の成長速度が上昇する)



 シナモンは人間とエルフのハーフ。

 そこで今問題なのがシナモンの持つ能力『高速成長』。本来エルフは長寿で何千年も生きると言われている。だけどシナモンの場合は人間の血が混ざったことで『長寿』の能力がイレギュラーを起こしたってシナモンのお母さんが言っていた。

 もともとシナモンのお父さんが迷宮ダンジョンという未開拓域に行ったのも『高速成長』を止める手掛かりを見つけるためだったらしい。


 『高速成長』つまり経験値、実戦経験が増えれば増えるほど身体は急速な成長を始め、人間や獣人よりもはるかに年を取るスピードが速くなる。

 それによって実際の年齢は50歳なのに体の方は80歳の体なんてことも起こる。

 これから一緒に冒険者として活動していくのにそれは致命的な問題。


 この先必ず解決しなくちゃいけない問題になる。





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