第16話 ジンクロ伯爵
中央都市までは馬車に揺られておよそ一週間もかかった。
でも流石は中心都市といったところ。街中に高層建造物が立ち並び日本の東京のような街だ。行き交う人の中には人間以外の人種も目立つ。
特に目に入ったには長い耳を持つ俗にいうエルフというものだ。他にも筋肉粒々の露出度の高い服を身に着けたドワーフも目に入った。
この世界にはまだまだ僕の知らない種族が沢山いる。いつかはいろんな種族の王国や町にも行ってみたい。
しかし違和感があるとすれば獣人だけが奴隷としてひどい扱いを受けているということ。この世界は獣人が嫌われてることが一目瞭然。
名前の通りこの中心都市は中心に『マルクス』と呼ばれる王国都市、そしてそれを取り囲む形で北の領地、三波の領地、東の領地、西の領地によって構成されている人間の王が君臨する人間の国家。
でもここは他種族の貿易にも活用されているから今回のように他種族を見ることも普通のことらしい。
そして僕は馬車に揺られ北の領地にやってきた。
ここはあのジンクロという人が統一する場所らしいんだけど流石は金持ち伯爵。住んでいる屋敷が凄く大きいし庭に噴水がある。
そのまま僕は護衛の兵士に連れられて屋敷に入った。
そしてある一室のドアの前で立ち止まる。
「ジンクロ様、シノブ殿を連れてまいりました」
ドアの向こうから男の低い声が返ってくる。
「うむ。入れ」
兵士がドアを開く。
中は中央に大きな机、そしてその手前には向かい合った二つのソファーが置かれている。
「お前が俺の開拓班を助けてくれた獣人か?」
「はい…………」
そこに立っていたのは小太りの体にちょっとおしゃれな髭を生やした男。雪だるまみたいな人…………
ここだけの話正直笑いそう……
「まぁいい。そのローブをとって座るといい」
言われた通り僕はローブを取ってソファーに腰かける。
獣人でも問題無いみたい。
「ほお~やはり噂通りの美しさだな。将来が楽しみだ」
そう言ってジンクロ伯爵は僕の向かい側のソファーに腰かける。視線がいやらしい…………だから来たくなかったのに。
だってこういう伯爵とかって女には目がないってよく聞くし………僕だってもう女の子な訳だし。
「あの…………御用って?」
僕は纏わりつくような視線を解くために話題を逸らす。
「うむ。単刀直入に言うと依頼を引き受けてほしいのだ」
「依頼ですか?」
「そうだ。報酬は弾むぞ」
そう言って机に大きな布袋を置いた。ジャラジャラと音を立ててるから中身はお金なんだと思うんだけど問題はその中身で…………全部が金貨ということだ。
この金額は……多分平民が一生遊んで暮らしていけるレベル?
「こんな大金…………」
それほどに依頼の難易度が髙いということなのだろうか…………
「それでその依頼って…………」
「エルフの隠れ里の調査だ」
え?それだけ?
もう少しハードな依頼を想像してたからギャップが…………
「あの…………それだけなら僕を雇う必要なんてありませんよね?」
「ああ、そうだな。でも問題はそこではない」
いよいよ雲行きが怪しくなってきた。
どうやら本当の依頼は別にあるみたい。
「これはこの王国の国王からの勅令だ。近年エルフが魔族と暗躍してる可能性があるのだ。だから今回の任務には最悪の場合に備えて人間族の最大戦力をつぎ込むとのことだ」
おそらくジンクロ伯爵の言う最悪の場合というのは『エルフが本当に魔族と暗躍していたら』ということなのだろうか。
「ということは『王国十字軍』もですか?」
僕は今持ち合わせている知識でなんとか話に食らいつく。
現段階での人間族最強の兵士団『王国十字軍』その力の大きさは分からないけど最大戦力ともなれば出てきてもおかしくないんだけど。
「うむ、勿論だ。それ以外にも四大伯爵家の兵士全てをつぎ込んだ最大戦力」
なるほど…………事の重大さは僕にも分かったけど、
「それでもこのお金の量は多すぎませんか?まさか雇った人全員にこんな大金を払うわけじゃありませんよね?」
「ふはははははは!!!!!」
「お前は見た目は可愛らしいガキだというのに意外と鋭いではないか!!」
やっぱり…………ジンクロ伯爵の依頼は別にある。本当に大丈夫かな……
「そう、お主に頼みたいことは単独でのエルフの隠れ里に潜ってもらいたい」
「単独でですか?」
「うむ。流石に何十もの兵を一気に隠れ里に入れるのはまずい。だからお主に先にエルフの隠れ里に潜入してもらい、暗躍が本当であればその時点でエルフを根絶やしにする!!」
余は危険な仕事は獣人に任せろということですか…………
ここで断ることもできるけど…………引き受けて損はないと思う。
ただ引き受けたとして、もし本当にエルフが暗躍してたとしたらどうする…………
まぁその時考えればいいか。
「分かりました。その依頼引き受けます」
正直まだまだ怪しい点はあるけどここまで聞いてしまったら断れないしね。
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