第15話 無礼な来訪者

 家でくつろいでいたある日、突然家のドアが叩かれた。


 僕は寝室のベッドから勢いよく起き上がる。髪の毛としっぽの毛が寝ぐせでぼさぼさだ…………


 ドン!ドン!ドン!


 まるで急かすかのようにドアが何回もたたかれる。窓の外を見るとまだ辺りは薄暗い時間で言えば午前4時くらいだろうか。


「はいはい、どちら様ですか?」


 ドアを開くとそこには大きな体の鎧を身に着けた男が立っていた。国の兵士ではないようだ。


「すいません。本当にどちら様ですか?」


 僕よりはるかに身長がでかいため首がもう少しで90度に傾きそうだ。


「お前がシノブか?」


「いえ人違いです」


 とっさに面倒ごとを避けるために否定してしまった…………


「そうか、そうだよな。こんなクソ非力な獣人風情が強いわけないよな」


 カチーン

 流石の僕でもその言葉は聞き捨てなりませんね…………


「いえ、すいません。僕がそのシノブですよ」


 すると男は僕の方に改めて体を向けた。そしてあからさまに見下してくる。


「おい、獣人の嬢ちゃん嘘はいけないなぁ。俺に嘘をつくと痛い目にあうぞ?」


「へ~そうなんですか」

「やれるものならやってみてくださいよ」


 らしくも無いけど挑発を試みる。

 だって馬鹿にされたくなかったし………


「何だと!?」


 あ、かかった。


 鎧の大男は左手の拳に力を込めて僕めがけて思い切り殴りかかってくる。


「譲ちゃん、今なら許してやってもいいぜ?」

「その代わり俺と一緒に来てもらうけどな!」

「まさか獣人なんかにこんな可愛い子がいるなんてな!お前も他の獣人たちも全部奴隷にしたいもんだ!」


 下心丸見えなんですけど……

 この体になってこういうことも増えてきたな……。正直チャームで解決するのが一番早くて暴力も振るわなくていいんだけど………


 どうしてもさっきの言葉は許せない。

 僕はどれだけいじめられてもいい。だけど他の獣人を悪く言うのは違うから!


「僕は許しは乞いません」


「そうか、じゃあおとなしくやられろ!」


 次こそ本当に男の拳が降ってきた。


 だけどそんな攻撃が僕に効くはずもなく男の拳をよけた瞬間に小柄な体を生かして懐に飛び込む。そして右手に力を込めて男の肛門にめがけて思い切り拳を入れた。


 ボコ!!


「ひやああああああああ!!!!!!」


 男の断末魔が朝のルノメンの町一体に響き渡ったのだった。








・・・


「は!」


 男が目を覚ました。


「おい!身動きが取れねぇじゃねえかよ!!」


「はい。あなたが気絶してる間に木に縛り付けておきました!」


 我ながらいい手際だったと思う。もともと男だったから男の弱点なんて全部把握済み!どれだけ鍛え上げた兵士や王国十字軍でも肛門は鍛えられない…………


「で、僕に何の用ですか?」


「お前、ジンクロ様の手紙を無視したよな?」


 ああ、そういえばこの前そんな手紙貰ったっけ。


「それがどうしたんですか?」


「!?王国の伯爵からの手紙だぞ!?これ以上ない名誉なのにどうして無視したんだ!!」


「えっと…………そもそもあの手紙には日時も場所も書いてませんでしたよ?」


 うん、僕の記憶が正しければあの手紙には会いたいとは書いてあったけどいつ、どこでとは書いてなかった。


「た、確かに…………」


 あ、自覚してたんだ。


「で、どういった要件ですか?」


「ジンクロ様はあなたにとてもお会いしたいと言っていらっしゃいます。だから早く謁見しろ!この獣人ふぜいーーーー」


 ドゴン!!!!


 思い切り気に拳をぶつける。

 うん、威嚇には十分すぎる威力だね。


「すすすす、すいません!!!!」

「是非伯爵とお会いしていただけないでしょうか」


 目の前にいる兵士の態度が変わったところで僕はようやく本当に伯爵のところに出向くかどうか考える。


 う~ん…………絶対に良いことなんてないと思うんだよな~

 伯爵がわざわざ部下をこんな田舎町に連れてきてまで僕なんかに会いたいと言っているのは正直怪しい。

 でもこのままこの人を帰しても逆に面倒ごとが増えるかもしれないしな…………


「分かりました。ついて行きます」


 今日から数日の楽なのんびりした生活と伯爵に会いに行くことを拒否したときに起こるであろう今後の面倒ごとの大きさを天秤にかけた時、明らかに今この兵士の言うことを聞いた方がいいと僕は思った。

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