第22話 マルクス
ここ数日の出来事ですっかりお金持ちになってしまった。
もともとこの世界には家のローンなんてものは存在しないから一括で払ったし一人暮らしだから揃える物も意外と少ないのだ。
だから消費が少ない分お金が貯まると結構な余裕が生まれる。
そこでせっかく王国に来たのだからいっその事有名な武器屋で最高品質の武器でも買って帰ろうと思う。この国には有名な武器屋があるってシモンさんから聞いたのだ。
てなわけで北の領地を抜けて僕は現在中心王国都市『マルクス』に来ていた。
『マルクス』は驚いたことにジンクロ伯爵の北の領地よりもはるかに大きな建物や露店が立ち並んでいる。そして視線の先には大きな城壁に囲まれた城。
あの中で国王が生活していたり
どこの世界に行っても政府は隠し事が多いな…………
てなわけで色々複雑な気分になりながらも『マルクス』を散策しつつ僕はシモンさんのおすすめの武器屋へ向かった。
「えっと…………ここなんだよな…………」
というのもシモンさんのおすすめの武器屋は…………何というかボロイ。
両サイドの建物は綺麗なのにその武器屋だけが場違いというか…………まぁ見かけが全部じゃないしね。
ギィィィィィ…………
ドアを押すと今にも壊れそうな音をたてて開いた。
「す、すいません…………誰かいますか…………」
武器屋の中は薄暗くて立てかけてある松明の光がにわかに店内を照らしていた。
以外においてある武器の量が少ない…………これはもしかして本当にハズレなのでは?
「ん?珍しい客じゃねぇか」
店内の奥から姿を現したのは獣人の男だった。
「獣人の店員?」
「あ?獣人で悪かったな!!」
「い、いえ!違うんです!!」
そう言っていつもどおり頭にかぶさったフードを取る。
「ん?可愛い獣人の嬢ちゃんじゃねぇか!!」
「は、はい…………」
あ、危ない…………追い出されるかと思った…………
「で、嬢ちゃん何の用だ?」
「あ、武器の方を買いに来たんですけど…………」
そう言って店内を見渡す俺の姿を見てか店員の獣人はぼそりと呟いた。
「うちは基本オーダーメイド何だよ。だから店内にはほとんど武器は置いてねぇんだ」
「そうですか」
「それじゃあオーダーメイドで武器を作ってもらえますか?」
「ん?嬢ちゃん、そんな小さな体で武器を使うのか!?」
「あ、はい…………一応冒険者をしてます」
「んんんんんん?」
すると店員が顔をカウンター越しに覗き込んでくる。
「もしかして嬢ちゃんがレオンの奴に勝ったって言う獣人の子か!?」
え!?もう知れ渡ってるの!?
「す、すいません…………その話どこで聞いたんですか?」
「どこって今じゃマルクス中に広まってるぞ」
何でこうなるんだろ…………まるで日本にいた時の主婦のご近所ネットワークみたいだな。
「で、嬢ちゃんがその獣人なのか?」
「は、はい…………シノブと言います」
「ほほ~こりゃたまげた!!!まさかこんな可愛い女の子だとは」
「それで…………武器の方なんですけど…………」
「ああ、そうだったな!任せろ最高のヤツを作ってやる!!」
「で、嬢ちゃんはどんな武器がお望みだ?」
どんな武器…………
「そうですね…………僕はナイフですかね」
「ナイフか…………」
「ってことは軽量の短剣なんてどうだ?」
「短剣ですか?」
「ああ、丁度そこに置いてあるヤツと同じくらいのサイズの剣だ」
そう言って店員が指さす先には刃渡り30センチぐらいのサイズの剣が置かれていた。今まで使っていたナイフよりも少しリーチが長い。
持ってみても使い勝手の良さは…………分からない。
「そうですね。これくらいのサイズでお願いします」
取り合えず店員に任せることにする。
「了解した!ところで予算はどうすんだ?」
予算か…………高すぎなければ払えるだろうから…………
「お任せします」
「ん?本当にお任せでいいのか?」
「はい。大丈夫です」
「よし!決まりだな!」
・・・
武器の完成まで最短でも一週間はかかるとのことだった。
つまりルノメンに帰るのはもう少し先になってしまった。だけどもともとルノメンに戻ってもギルドの依頼を受けるだけの生活だったから多少帰りが遅くなっても問題はない。
そして今から僕がやらないといけないことはここマルクスでの一週間の宿探しだ。王国である以上獣人に対する扱いも他の場所に比べて酷いことは容易に予想できる。
つまり泊めてもらえる宿があるかすら分からないのだ。
状況は予想以上に深刻…………
宿がないとお風呂に入れない、それだけは何としても避けたいのだ。
最近は問題ごとを何でもかんでも『チャーム』で解決しようとする傾向にあるからできるだけ発動しないままこの問題を解決したいところではある。
道中にある宿を手あたり次第当たってみることにした。
「すみません。今日からしばらくの間泊まらせてもらいたいんですけど一部屋空いてないでしょうか?」
出てきたのは優しそうな女の人。
「一部屋ね」
え?
「と、泊めてもらっていいんですか!?」
「いいもなにもお客を泊めることがうちの職業だから」
「ま、まぁそうなんですけど…………僕獣人ですよ?」
「それが何か問題なの?」
まさかの一発OKだ。
「部屋は階段をのぼって突き当り右手の部屋だよ。ご飯の時間になったら娘が部屋まで呼びに行く。お風呂は大浴場を使ってね」
「わかりました」
部屋は右手に椅子と机、左手には一人用のベッドと普通の作り。これで一日三食、お風呂付で銅貨三十枚なのだからお得だ。
僕はこれまでの疲れを取るためにベッドに横たわる。最近ではすっかりしっぽの存在にも慣れて今ではお気に入りの抱き枕だったりする。
??
部屋の前に気配を感じる。
「すいません、部屋の前にいるのはどちら様ですか?」
「ふぇ?」
ドア越しに女の子の声が聞こえる。
「別に怒りませんよ?入ってきてください」
するとドアがゆっくりと開かれる。
エルフの女の子?年は今の僕と同じくらいの10歳前後だろうか。エルフの特徴的な長い耳に緑の瞳、そして金髪。
「どうしたんですか?」
できるだけ優しめに声を掛ける。
「あの…………耳の生えたお客さんが今日から泊まられるってお母さんが言ってて…………」
ん?お母さん?ってことはこの子が娘!?
ちょっと待った!!さっきの人は人間だったよね?
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