第21話 無実の証明

「お前が『試練の魔陣』を破ったのか?」


「は、はい。シノブと言います」

「ところでその『試練の魔陣』って何ですか?」


「門を潜った時に発動する魔法で敵意などの感情を感知したら問答無用で適当な場所に転移させる魔法じゃよ」

「まさかそんなことも知らずにここに乗り込んでくるとは」


 て、適当な場所ですか…………


 ジンクロ伯爵はこれを知ってて僕にこの依頼をしたんだな…………上手くはめられた。

 道理で報酬が高いわけだ。


 そして今は洞窟の最深部に位置する大きめの建物一室。そこで僕は今エルフの隠れ里『リフル』の長に会っていた。

 勿論チャームの能力は解いてあるから!


「わしはリンクと申す。ここの隠れ里の長じゃ」


 リンクという名前のエルフの老人は杖を片手にそう名乗った。


「ところでわしに何の用じゃ?そんなまやかしで兵士たちを操ってまで会いに来た理由は?」


 おそらくリンクの中では『チャーム』=『まやかし』らしい。


 それよりも驚くべきことはリンクに『チャーム』の能力があっさりと見破られたことだ。間違いなく今まででであった人の中では一番鋭い感覚を持った人だろう。


「えっと…………」


 ここで無理に隠しても駄目だろな…………


「僕は王国から来ました。ここに来た理由は今この『リフル』全体が魔族と暗躍してると噂を聞きつけたからです」


「なに?」


 リンクの鋭い視線が向けられる。

 するとリンクが答えるのではなく護衛についていた兵士が真っ先に答えた。


「そんな馬鹿な話があるか!!」


「でも…………本当ですよ?」


 まぁ確かに信じられない話ではあるけど、実際疑われてるって言うのは本当なんだよね。


「何だと?この獣人が!!!」


 とリンクが剣を振るってきた兵士の喉元に杖を当てて抑制する。


「リンク様!!」


「やめんか!ここで我々が敵対でもしてみんか!!今度こそ王国の疑われるのだぞ!!」


 確かにリンクの話は最もだ。

 でもこの様子を見る限り本当に暗躍なんてしてないように思うけど…………まだ判断はできないかな。


 リンクが深々と頭を下げた。


「うちのモノが無礼をした…………」


「い、いえ…………」


 凄いパワフルな老人エルフだな…………


「で、シノブ殿。わしらはどうすれば身の潔白が証明できるのかね?」


「つまり暗躍はしてないってことでいいんですか?」


「うむ。わしらは無関係じゃ」


「そうですか」


「ん?」

「疑わぬのか?」


「はい。少なくとも疑いませんよ」


「そうか…………シノブ殿は疑わなくても王国は分からんということか」


「そうですね…………僕は獣人ですし本当に信じてもらえるかは分かりません」

「ですから今から『王国十字軍』の方々を呼んでも問題ありませんか?」


「なに?王国十字軍が来ておるのか?」


「はい。少し離れた場所にいます」


「構わんよ。それでこの『リフル』の潔白が証明できるのならな」


 どうやら本当に『リフル』は暗躍してないみたいだ。というのも、もし暗躍していれば『王国十字軍』の存在を出せば何かしらの行動を起こすエルフが出てくると思っていたけどそんな雰囲気は感じられない。

 つまり暗躍はガセだったんだと思う。

 でもどうしてこんな情報が出回ったんだろう…………いや僕が考えても無駄だよね。


 ここから先は僕の任務外のことだからランドールたちに任せようと思う。








 ・・・



 翌日、ランドールやレオンを含めた王国十字軍が『リフル』に入って現地調査を始めた。

 そして意外にも早く『リフル』の潔白は証明されたのだった。


 そしてシモンさんや招集された冒険者はわざわざ遠出をしたというのに無駄足だったことに対してぼやいていたのはまた別の話だ。






 ・・・


 さらに場所は変わり現在僕はジンクロ伯爵邸、伯爵の書斎にいた。


「ジンクロ伯爵。あなた『試練の魔陣』がある事を知っていながら僕にあの任務を任せましたよね?」


「ななななな、何のことかね?」


 ジンクロ伯爵の視線は明後日の方向を向いている。


「…………」


 無言の威圧というやつだ。

 最悪の場合は『チャーム』でも使ってお金を奪い取るという戦法も用意してある。


「チッ!!」

「金だ金!!!持っていけ!!」


 そう言ってジンクロ伯爵は書斎の机に初めに提示した時と同じ量の金貨の入った袋を置いた。


「ありがとうございます」


 よし!いい収穫だ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る