第11話 依頼達成
シモンさんの話によると魔物が出てきたのは鉱山の北入り口。
そのせいで開拓工事が滞っていたらしい。
主に出てくる魔物はアリ型と蜂型の魔物『クロガシ』と『メモル』。
どちらも下位の魔物らしいけど量が多すぎて手が付けられないと聞いた。
今回の依頼で試しに魔法の一つや二つ試使ってみる予定だったけど鉱山の中となれば魔法の行使は避けた方がいいと思う。
というのも今だに僕は魔法は一回も使ったことがない。つまり力加減を間違えたら生き埋めになってしまうのだ。
だから今回の戦闘方法は体術、そして新しく買いそろえたナイフで行なう。
鉱山の中は少し蒸し暑いくらいで明かりも立てかけてある松明だけで少ししかない。
だからここに来てまたしても獣人の特性である視界の暗闇耐性が役に立った。これは能力とは違って身に着いたものじゃなくて獣人なら誰しもが持ってる力らしい。
これのおかげで真っ暗な視界でもしっかり周囲を見ることができる。
ギシギシギシ!!!!
視界に入ったのは何十、何百ものクロガシの大群。大きな顎が特徴的だ。大きな顎をすり合わせている音が何十にも重なって凄くうるさい!
しかもアリって聞いてたからもう少し小さいのかと思ってたけど…………今の僕と同じくらいの大きさだ。
(神様…………大きくないですか)
『思った以上ね…………』
シャァァァァァ!!!!
一気に何十もの大群が襲ってくる。
スパッ!!
ナイフで頭と体を両断したり、拳で腹を思い切り殴ったりと紙きれのように体を舞って動かした。
ステータスが高いおかげもあって体が軽いから壁の側面を走るのもお手の物だ。
時々飛んでくる蜂型の魔物メモルも何の問題も無かった。強いて言うならホバリング音がうるさい!!
その後も僕はナイフを振るう。
そしてひと段落着いてから神様がぽつりと呟いた。
『もしかして巣でもあるんじゃないかしら』
(げっ…………巣ですか…………)
『ええ、この量が突然現れたってことはそう言うことなんじゃない?』
(行きますか?)
『行かないとダメでしょ?』
(まぁ、そうなんですけど…………)
『じゃあ早く行くわよ!!』
何で神様はこんなにやる気があるんだ?
そのまま僕は鉱山の奥へと足を運んだ。奥に行くにつれて出てくる魔物の量も増えて行く。
そしてその先には一際大きな空洞がありそこには案の定クロガシの巣があった。大量のクロガシが丸い大きな球体上の巣から次から次に出てきている。
うっ…………
この世界に来てから虫としか戦ってないよ…………
すると巣の中央付近にある大きな穴から一際大きな羽の生えたクロガシが出てきた。十中八九あれが女王アリならぬ女王クロガシだと思う。
そして女王クロガシは明らかに僕のことを視界にとらえた。するとその顎が開かれ中から炎が噴射される。
何とかギリギリのところで回避。
なんでやねん!
流石異世界クオリティー。この世界の女王アリは炎を噴くのもお手の物みたい…………
そして幸運なことにその炎は仲間のクロガシも巻き込んでいく。
『あ、これ使える』
「あ、これ使える」
神様と僕の声が被った。このとき神様と僕はどうやら同じ悪手を思いついたみたい。
そして僕は真っ先にクロガシの大群へと突っ込む。そして女王クロガシの放つ炎は僕を狙うついでに仲間のクロガシを巻き込み灰にしていく。
これが僕と神様が同時に思い付いた悪手、同士討ちだ。
それからあらかたクロガシが灰になり女王クロガシが疲弊したところを狙って僕は女王クロガシのところまで壁をつたい進みナイフを刺して倒すことに成功した。
完璧な戦略的な勝利!!
後は残った巣の処理なんだけど…………
『シノブ、このくらいの空洞であれば魔法使っても大丈夫だと思う』
おそらく神様の考えは巣の処理を魔法を使ってやるということだろう。
(魔法ですか?でもどうやって使うんですか?)
『簡単な話、どんな魔法が使いたいかイメージするのよ』
(…………)
『ちょっと何で黙るのよ』
(いえ…………久々に神様のポンコツぶりを感じられて安心してるだけです)
『魔法がそんな簡単に使えるわけがないでしょ』が僕の素直な感想だ。噂を聞く限りでも魔法を使うのには長い詠唱をしかも間違えずに言う必要があるらしいし…………
『何よ!私が冗談でも言ってると思ってるの?』
(はい。流石に今のは信じろと言われる方が困難かと…………)
『もう!騙されたと思って一回私の言った通りやってみなさい!!』
(分かりましたよ…………)
ここまで神様が本気で言うのならやってみようと思う。
『属性は火、形はあの巣全体を包み込む球体上。規模はこの洞窟が崩れないくらいで』
『大体想像できたかしら?』
僕は右手を体の前にかざして神様の言った通りの状況を想像する。
すると手のひらが徐々に熱くなる。それと同時に体の中から力が少しずつ抜けて行くような感覚に襲われる。
そして目を開けると視界は真っ赤に染まっていた。
さっきまで目の前の空間に大きく居座っていたクロガシの巣は全体が日の球体に包み込まれていたのだ。
『ね?言ったでしょ?魔法なんて初めはただの概念でしかないのよ。そもそも詠唱だってイメージを持たないで使う現代の魔法形式であって本来の力を十分に発揮できてないのよ。つまりこの魔法は完全シノブのオリジナルで魔法を正しく使った最大級のものよ!』
僕は目の前で起きている光景が今だに信じられずにいた。
『それで私に何か言うことがあるんじゃないかしら?』
クソ…………
(すみませんでした!疑って!!)
『うむ!よろしい』
こうして無事僕は冒険者として初めて依頼を達成したのだった。流石のチート性能にビックリだけど。
(神様)
『どうしたのシノブ』
(おせっかいかもしれませんけどここで魔法を使えば簡単に鉱山の開拓ができちゃうんじゃないですか?)
『言われてみればそうね』
(練習にもなりますし、やりますか)
『そうね!』
その後魔法の練習も兼ねて鉱山を掘り進めていき、結果として一時間でシモンさんたちの仕事を終わらせたのだった。
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