第12話 達成の宴

「本当にシノブ様には何とお礼を申し上げればよいか!!」


 そう言って僕の目の前で深々と頭を下げているのはこのジンクロ鉱山の開拓団の代表シモンさんだ。


 現在僕はシモンさんの誘いでジンクロ鉱山開拓団宿舎の一階食堂で行なわれている開拓終了記念のパーティーに参加している。


「いえ、僕の気まぐれですから」


「それにしてもあれだけの距離と広さの鉱山をどうやって切り開いたのですか?」


 というのも僕は魔物退治の依頼の後に魔法の練習もかねて鉱山の開拓ルートを切り開いたのだ。シモンさん曰く僕がものの数時間で切り開いたルートは普通の開拓だと最低でも三か月はかかるらしい。

 改めてチート性能であることを実感した。


「えっと…………魔法です」


「なんと!?」

「まるでうわさに聞く『王国十字軍』のようなお力ですね」


「『王国十字軍』?」


「はい。魔族の一国をたったの11人で滅ぼしたこの世界最強の兵士隊です」


 魔族に王国の兵士、まだまだ知らないことが多い。


「そんな人たちがいるんですね」


「おや?ご存じありませんでしたか?」


 シモンさんは僕のことを不思議そうな顔で見つめてくる。この世界にいる人ならだれもが知っていることなのかな。


「あ、はい。この国の情勢には疎いものでして…………」


 と適当に言い訳を付ける。


「それでその『王国十字軍』はそれほどに強いんですか?」


「強いというものではありません!この世界にあの方々より強いお方は存在しないとまで言われてます」


 へ~そんな人たちがいたんだ。

 僕が感心してると更にシモンさんは話を続ける。


「実はここもつい最近まで魔族の領地だったんです。それを『王国十字軍』の方々が魔族を退治して人間族の領地になったんです」

「そしてこの土地の開拓に一番最初に名乗り出たのが我々の飼い主ジンクロ様です」


「そうだったんですね…………」


 なるほど…………この世界もまだまだ発展途中なんだな。


(神様)


『何?』


(この世界って魔族と人間族が対立してるってことでいいんですよね?)


『そうね…………でも戦況は今のところ人間族側の方が有利なんだけど…………』


(なんだけど?)


『王国はひた隠しにしてるけど魔族にも『王国十字軍』に匹敵する戦力は存在するのよ。それにそれ以上の力を持つ魔王もいるわ』


「えっ!?」


 つい声を出してしまった。


「どうしましたか?シノブ様」


 シモンさんが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「い、いえ…………何でもありません!」


 魔王?確かに魔族と聞いた時点で親玉みたいな者の存在はあるとは思ってたけど…………


「そうですか」


『何やってるのよ!!』


(す、すいません…………でも驚くのは無理もないでしょ?)


 僕が驚いて声を上げてしまったことを神様は怒った。けど知らなかったからしょうがない…………


『まぁそうね』

『でもシノブはそんな面倒なことに巻き込まれることなんてないでしょ』


(だといいんですけどね)


 当然その後の生活でこのフラグは綺麗に回収されるのだった。







・・・


「シノブ様、今回は本当にありがとうございました!!」


 翌日、鉱山の出口。

 馬車に乗り込んだ僕をシモンさんを始め多くの獣人が見送ってくりに来てくれた。


「いえ、依頼ですから」


「それに本当に報酬の上乗せはよろしいのですか?」


 昨日、シモンさんたちの主人に当たるジンクロ伯爵の部下が鉱山にやって報酬の上乗せを提案されたけど僕はそれを断ったのだ。

 後から『金さえ出せば何でもやってくれる奴』みたいな感じに唾を付けられても困るから。


「はい、気にしないでください」


「そうですか…………」


 シモンさんの耳が垂れる。

 大男には似つかわしくない可愛い反応だ。


「冒険者の嬢ちゃん!そろそろ馬車を出すぞ」


 馬に乗った運送屋が荷台に乗った僕に声を掛けてくる。


「分かりました」

「それじゃあシモンさん僕は行きますね」


「はい!ありがとうございました!!」


 こうして僕を乗せた馬車はルノメンの町のギルドへ向けて出発した。

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