第36話 魔族と能力

 目の前にいるのは正真正銘の魔族。


 能力の『魔力感知』に反応がなかった……どうしてだろう。


 するとフレアが僕とシナモンの前に立つ。

 その顔は出会ってから一度も見たことがない険しい表情だった。


「魔族がどうしてここにいるんですか……」


「いやはや、私もそろそろ戦場に出てみたいと思いまして」


 その声は初老みたいな感じで危険そうには感じられなかった。

 でもフレアの『竜眼』には何か別のものが見えてるのかもしれない。


 僕はフレアに話しかける。


「フレア、竜眼には何が見えてるの?」


「……とてつもない魔力です……今までに見たことがないくらいの……」


 その声は少し震えていた。

 それだけあの魔族が強いということなのかな……


「まだ名乗っておりませんでしたね」

「私の名はフレバス。魔王リリィ様の眷属でございます」


 ま、魔王!?


「魔王の眷属!?」


 シナモンが声に出して驚く。


「シノブ!フレア!早く逃げないと!!」


 そう言ってシナモンは僕の服の袖を掴んだ。


 正直言って僕もこの状況は逃げるべきだと思う。

 だけどフレバスという名前の魔族は僕たちを逃してくれるだろうか……

 そもそもよく考えればこれは元から仕組まれたものにも思えるんだよね。

 フレバスが出てきたタイミングはフレアが丁度サラマンダーを倒した後、それに今になって思えば星七個の依頼がそう簡単にギルドに出回るはずがない………

 本来なら上級冒険者が斡旋してるはずじゃないか……


「すみません……僕たちを狙っての行動ですよね……」


「おや?そこの可愛いお嬢さん意外と鋭いですね」

「そう、私は魔王リリィ様のご命令で貴方様に用がございまして」


 そう言ってフレバスの視線は真っ直ぐ僕に向けられた。


 体が強張る。

 僕が狙いだったとは……怖いけど、


「フレア、シナモンを連れてこの場から離れてくれる?」


「ご主人様!?」

「シノブ!?」


 僕が狙いってはっきり決まってるんだったら二人まで巻き込むことは無い。


「ご主人様、それはできません!!相手は魔族です。それも魔王の眷属!!今まで戦った相手とは比べ物になりません!!もしかしたら……お父様よりも……」


「フレア、お願い。どれだけ遅くなっても必ず帰るから」


「ご主人様……」


 フレアはゆっくりとその場を離れてシナモンの所へ向かった。

 そしてシナモンを抱えて翼をはばたかせる。


「シノブ……帰ってくるよね?」


 うん……きっとね。


「帰るよ、必ず」


 僕は自分の作り出せるとびきりの笑顔で二人を見送った。



 ふぅ……

 バハムートよりも強い相手ですか……正直言って勝ち目ないよね?

 でもやってみないと分からないかな。


「よかったのですか?二人を返して」


「はい、僕のせいで二人を巻き込むことは絶対にしたくなかったので」


「さようでございますか」


「で、ご要件はなんですか?」


「魔王リリィ様は貴方様を大変気に入りまして、お連れして来いとのことでして抵抗されるようでしたら力ずくでもとのご命令です」


 そうですか……いったいいつから魔法様に目をつけられてたのやら……


「では、僕の力の限りで抵抗させてもらいます」


 せっかく毎日が楽しくなってきたのに……こんなに早く終わるなんて嫌だな。


「それは残念です。それでは私もリリィ様の眷属として全力でご命令の遂行を致します」


 視界からフレバスが消えた。


 と思えば僕の目の前に姿を現す。


「精々抵抗してみなさい」


 !!


 次の瞬間真正面から剣が降ってきた。


 僕は急いで短剣を二本構えてそれを防ぐ。


 その手に持たれていたのは細いレイピア。一体どこに隠し持っていたのだろうか。


 それに細い体で老人なのに剣がとてつもなく重い!!


「おや?やはり噂どおりの実力ですね」


 ギリギリと音と火花を散らしながらフレバスの剣と僕の二本の短剣が擦れ合う。


 僕は擦れ合っていた二本の短剣のうち一本をフレバスの剣から離し一本の短剣を使い受け流す。


「ほぅ……中々やりますね」

「それではこれはどうですか?」


 そう言ってフレバスは手を前にかざした。そして次の瞬間、


 ー焔之矢ヒノヤ


 その言葉と同時に無数の火の矢が僕に向かって降り注ぐ。


 え!?『詠唱不可』


 それは僕も有している技能の一つだった。今まで使ってる人には合ったことがない……

 それに僕が知ってる限り一番の魔法使いはフレアでそのフレアですら詠唱不可は身につけてなかった……

 シナモンもできて高速詠唱だったのに……


 『詠唱不可』には驚いたけど僕にはまだ奥の手がある。それは『魔力遮断』。魔法攻撃なら大体は防ぐことができる、と思っていたけど実際には大きな弱点があったみたいだ。


 フレバスの魔法攻撃は僕の体の前で多少は威力が低下したもののそのまま僕の体に降り注いだ。理由は案外単純なものだった。

 それはフレバスの魔力量が僕よりも高いから。つまり魔力量が明らかに僕より上の相手の魔法攻撃は防ぐことができないみたい。

 どんな能力にも必ず弱点は存在した。


 僕は初撃は受けたもののそれ以降の魔法攻撃は短剣を駆使して何とか防ぐことに成功した。


「これもある程度防ぎきるとはのぉ」


 ヤバイ……このままだと、負ける。


 だったらここで奥の手だ。

『チャーム』を発動してフレバスの集中力を一瞬でも削ぐ。


 僕は『チャーム』を使った。


「む?」

禁大能力スピリトアビリティか」


 聞き慣れない単語だ。

 だけど今はそんな事気にしてる場合じゃない。この隙を使って魔法を………!?


「残念ですね」

「まだまだ禁大魔法スピリトアビリティを使いこなせていません」


 目の前にはフレバスの姿。


 嘘でしょ……隙を作ることもできないの……


 次の瞬間、フレバスの剣が真っすぐ振り下ろされた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界少女は最強のいじめられっ子 窯谷祥 @kama11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ