異世界少女は最強のいじめられっ子

窯谷祥

第1章

転生編

第1話 さらば現世

 僕はこの日、学校の屋上から飛び降りて自殺した。





・・・



 今日は僕にとっては人生で一番重要な日でもあった。その日とは夏休みが明けた9月1日、誰もが憂鬱と思う日だ。

 もちろん僕だって憂鬱。


 そして僕が学校の屋上から飛び降りて自殺しようと決めた日。


 理由は簡単、特定の男子からのいじめだ。

 僕は高校生になってすぐに目を付けられた。理由すらも分からないけど僕の存在が何か気に障ったんだと思う。

 初めは影で噂される程度だったんだけど日に日にいじめの内容はエスカレート。終いには暴力……

 そこからは毎日のように悪口、暴力が振るわれた。

 正直顔も良くない運動神経も良くない何のとりえもない人間、目を付けられるのも必然かな…………

 だから僕は夏休みの期間を使ってじっくりと考えた。これからどうするべきなのかを。そこで行き着いた結果が自殺というわけだ。


 そして俺の人生最後の日である今日も、


「おお!三条川忍さんじょうがわしのぶ!めげずに新学期初日から登校してきたか!」


「ホントだ!!またボコボコにされるって分かってて来たのかよ!俺だったら絶対に来ねぇわ」


 いつもどおり絡まれる。関わらないことを心掛けてるから名前は知らない。

 知ってどうにかなる訳でもないしね。


 (好きに言ってろ…………今日で終わりなんだから)


「…………」


 僕は関わらないように彼らを無視して廊下を真っすぐ歩き出した…………けどどうやらそれは逆効果だったみたいだ。


「おい…………何無視してんだよ!!」


 肩を思い切り掴まれる。


 そして絡んできた奴の蹴りが僕の背中に炸裂した。さらにそこから腹に一発、もう一人の拳が入る。


「ッ!!」


 痛い!


 俺は腹を抱えて廊下に倒れこんだ。


 (何回受けてもこの痛みには慣れないな…………)


 その後も僕は名前すら知らない四人の男子生徒から暴力を振るわれた。初めは僕の味方をしてくれる友達も沢山いたけどその人たちとは僕から縁を切った。

 だって僕のせいで他の人までいじめを受けるのは辛いから。


 それから永遠とも感じられる長い時間が過ぎて彼らは去っていった。僕の体はボロボロ。体中が痛い…………夏休みであざもほとんど消えたのにこれじゃあ元通りだ。


(もうどうでもいいことだけど)


 そして男子四人と入れ替わるように二人の男女が僕のもとにやってくる。


「忍!大丈夫か!!」


「忍君!!」


 二人は僕に肩を貸して体を起こしてくれた。


 この二人の名前は紙野上一かみのうえはじめ長谷美穂はせみほ。僕がどれだけ距離を取ろうとしても最後まで僕のことを心配してくれた人たちだ。


「だ、大丈夫だから」


 僕はそう言って二人から距離を取る。まだ体は痛むけど大丈夫だ。


「二人だって僕なんか助けたらいじめられるよ」


「……」


「……」


 二人は何も答えなかった。視線は地面に落ちる。


 (それでいいんだ…………これ以上関わって欲しくない)

 

 二人自身のためにも。僕なんかにかまって巻き込まれてほしくない……


 そしてとうとう放課後がやってきた。

 僕は真っ先に屋上に向かう。今日は部活動は全て休みだから学校にはほとんど生徒は残っていない。


 僕がいなくなることで全てが終わる。


 僕は屋上のフェンスにまたがってフェンスを超える。そして足場数センチの場所に立ち靴を脱いだ。

 遺書なんてものは必要ない。どれだけあいつらのことを憎んだって何も変わらないんだから…………

 

 ここまで決心したら案外すぐだった。


 そうして最後まで僕は何の抵抗もせず屋上から飛び降りた。


 もし二度目の人生が僕じゃない誰かで送れるんだったら次こそは…………

 そんなことを考えていたところで僕の意識は途切れた。


 こうして僕三条川忍の15年の人生は幕を閉じたのだった。





・・・


 は!!


 僕は目を覚ました。


 あれ?確か僕は学校の屋上から飛び降りて…………


 体の感覚がない。

 視界も真っ暗だ。どうやら僕は無事死ぬことができたみたいだ…………

 安心したような……そうでもないような複雑な気持ち。

 それにまだ意識があることが不思議だ。


「ようこそ忍さん」


 !?


 (誰ですか?)


 !?


 (あれ?声が出ない!)


「声が出ないのは当然ですよ。あなたは今魂だけの存在なのですから」


 優しい女の人の声だ。それにどうやら僕が聞きたいことは一応伝わるみたいだ。姿は見えないけど多分綺麗な人なんだと思う。


 (そうですか…………ところであなたは誰ですか?それにここは?)


 僕は頭の中で話したい言葉を思い浮かべる。


「私は天界の10神の中の1人です。そしてここは様々な世界の境目です」


 (神様ですか?)


「はい!神様です!」


 余りにも信じられないけど…………状況からして本当なんだと思う。

 それにしても神様って10人もいたんだ……


 あ!いや……今はそれどころじゃ……


 (で神様が僕に何の用ですか?)


 まずは要件から聞こう。


「あなた飛び降りてる時『もし生まれ変わったら』って言いましたよね?」


 (ああ…………確かに言ったような気がします)

 (いや言ったっけ?)


 言ったような言ってないような……記憶が曖昧だ。


「はっきりしなさい!!この死にぞこない!!だからいじめられるのよ!!」


 ええ~神様にボロクソ言われた!?


「で、言ったわよね!!」


 (は、はい…………言いました)

 (多分…………)


「あ?」


 声は少し怒りを含んでいるようだった。昭和のヤンキーか!

 うぅ……怖い。


 (いえ何でもありません!!)


「そう……ならいいんだけど」

「で、私はその『生まれ変わったら』を叶えてあげるわ」


 (え?)


 突然の話に僕は驚くことしかできなかった。

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