第9話 獣人の冒険者

「獣人さんだったんですね!!」

「しかも10歳で冒険者だなんて立派です!!」


 突然手を摑まれて上下に振られる。


「ちょ、ちょっと待ってください。僕獣人なんですよ?」


「それがどうしたんですか?」


 少女は何が問題?といった風に首を傾げる。


「え?」

「気にしないんですか?」


「気にするも何も私は獣人さんは大好きですよ?」


 突然の発言に僕は驚いた。どうやら獣人を嫌ってるのは人間全員というわけじゃないみたいだ。

 この世界に来てからというもの周りの視線はずっと冷たかった。

 だから自然と獣人は嫌われ者の種族で誰からも嫌われて居場所がないなんて思ってた。だけど、どの世界でも味方をしてくれる人はいるんだ。そう思えると少し安心した。


「私の名前はミナです!」


 カウンター越しに手を握りながら彼女はそう言った。

 それに対して僕も自己紹介をする。


「どうも…………シノブです」


 それでもやっぱりちょっと警戒はする。


「シノブちゃん…………」

「顔見せてよ!!」


 初対面にしては凄くフレンドリーな人だと思う。

 僕もここで断る理由もないからローブのフードを取った。

 周りには幸い朝ということもあって人が少ないから大した問題じゃないと思う。


「わああああ!!!可愛い!!!」


 凄く大きな声がギルド中でこだまする。

 ギルドにまだ人が少なくてよかった。僕の耳もミナの声でキーンってなってるよ…………


「ど、どうも…………」


 耳を触られてる。

 完全子供扱いだ。まぁ今は10歳だから立派な子供なんだけどね。


 それにしても耳を撫でられるのは案外気持ちいいことが分かった…………うん、悪くない。


「それより…………冒険者登録…………」


 うぅぅ……


 気持ち良すぎてつい頬が綻びそうになるのを必死になって抑えながら僕はミナに話しかけた。


「あ!ごめんなさい!!今すぐ書き込むから!!」


 そういってミナは僕が触れていたステータスペーパーに人差し指で文字を書きこんでいる。


 そしてしばらくしてから、


「これで完成!!どうぞ」


 そういってステータスペーパーを受け取ると新しく職業欄が追加されていてそこには冒険者と書かれていた。


「ありがとうございます」


「いいのいいの!これが仕事だから!」

「依頼は右手にある掲示板から受けてね」

「ちなみに冒険者にもランクがあるから実績を積んで高ランカー冒険者を目指してね!」


「はい」


 こうして不思議な少女ミナとの遭遇オプション付きで僕は冒険者登録を終えた。



(ところで神様、ランクって何ですか?)


 ミナに聞けなかったことを神様に訪ねてみる。


『冒険者の実力を形にして分かるようにしたモノね。五段階評価で一番上が金、下が黒ね』


 僕はその言葉を聞きつつ自分のステータスペーパーを見る。確かに冒険者と書かれた隣にかっこ書きで黒と書かれている。

 一番下のランク……でも今はそれでいいや。


(ちなみに具体的に実績ってどういうものなんですか?)


 依頼の達成回数かな?


『言葉のままよ。依頼を達成した数、もしくは以来の難易度が髙ければ高いほど一気に昇格できるわ』


(なるほど…………)


 予想通りの答えだった。


 正直冒険者のランクが今後どう役に立つかは分からないけど高くて損することは絶対にないはず……

 だから急ぐことはないけどいつかは金ランクになることを目標にしようと思う。


『どうするのこれから依頼で受ける?』


(そうですね…………お金は…………金貨1枚と銀貨が30枚ですか…………まだ金銭面には余裕がありますけど)

(試しに一つ受けてみますか?)


『そうね、何事も経験よ』


 こうして僕は初の依頼を受けることになった。確かに経験を積むことは大事………何だけどまた戦うことになるのか……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る