番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#20

「あら、これがゲームだったら私の負けでしたわ」


 ミノタウロスは叫んだ。大粒の涙を流して、年頃の女の子のように泣きだす。それにまじって、やめてくれ、やめてくれ、と嗚咽混じりに漏らす。


 私も目の下が熱くなって、じわりと涙が溢れ出てきた。


 もう一度撃鉄を起こす。



「もう片方の角も狙ってみないかしら? ミノタウロスの角には、歯のような神経が通っているんですのよ。それはそれは、想像を絶する痛みだと聞きますわ」


 どぱん。


 次に吹っ飛んだのは下顎だった。


「あごおぁあああッ! あふっ、あぎゃっ、あぁあ!!」


「どうして顎を狙ったんですの?」



 不思議そうに彼女は問いかける。私は、彼女に向けて初めて笑いかけた。


「だって、歯も撃ってみないとどっちが痛いかわからないじゃないですか」


 振り返って笑いかけると、彼女は目を見開いて息を呑んだ。そして実に嬉しそうで、蠱惑的な微笑で答えて私の心を鷲掴みにすると、頭をなでてくれた。



 その手はすごく柔らかく、温かかった。


「キャスカ」


「え?」


「私はキャスカ・ロングウェイと言いますの。これからよろしく、ターニャさん」


 これからよろしく。その一言に、びくりと体が跳ねる。


 どぱん。


「あら! 今度は大腿骨ですわ!」

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