番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#9

 バーテンダーというより店主という言葉が似合うミノタウロスは、磨き上げられた角をカウンターから突き出すと「酒かい?」と聞いてきた。警戒しているのが丸わかりの、とげとげした口ぶりだ。



「いえ、お水です。私達に一つずつお願いできるかしら。それと、これになみなみと注いでいただけませんか?」



 そういって彼女はスキットルを放った。店主はそれを受け取ると、スキットルをまじまじと眺めた。私と同じで、こんなに大きくて古いスキットルなんて見たことがなかったんだろう。警戒心があっという間に好奇心に変わっていくのが、ありありとわかった。一通り眺めると、思い出したようにカウンター裏の樽の蓋を開けて、コップに水を注いだ。



「スキットルは帰りに渡すんで、それでいいかい? でかいスキットルのくせに口が小さくて、入れづらくってなぁ」


「ええ、それで構いませんわ。しばらくゆっくりするつもりですので、焦らなくてもよろしくてよ」



 テーブルに座った私達にコップを置くと、店主は大きな黒目で私達をまじまじと観察した。



「あ、あのよぉ……。あんたってもしかして結構名のある人かい? ありゃどっかの戦争で、オーク達が使ってたやつだろう?」


「あら、有名人かと思われるなんて照れちゃいますわ。でも全然違いますの。あのスキットルだって、骨董市で買っただけの代物ですわ」


「なんだ、そうなのかい。まあいいもの見せてもらったよ。ゆっくりしていってくれ」


「ええ、そうさせていただきますわ。……そうですわね、水だけというのも失礼ですし、ヴォーダがあればいただきたいですわ」


 店主は怪訝な顔をする。ヴォーダといえば、一杯で大男でも卒倒しかねないお酒だ。

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