番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#13

「あら、どうしましょう」


 くすくすと笑うその人は、瓶の蓋を右手だけで難なく開けると、ミノタウロスの角の下をくぐらせるようにして、折り紙に酒を振りかけた。とっとっと、という音が店中に響き渡る。アルコールのつんとした臭いが鼻をつく。


 机の上からでは見れなかったのだろう、彼は一歩引いて、ヴォーダをかけられた折り紙を眺める。意外にも、口から出てきたのは賞賛の言葉だった。よくできてる、と。



「だが、なんで酒をかけた?」


 ミノタウロスの質問にその人は答えない。その代わりに私に微笑をなげかけると、まるで噛み合わないことを言い出す。



「ターニャ、好きな食べ物はなぁに?」


 無言で震え続ける私を無視してその人は続ける。



「私はね、ビーフシチューにビーフステーキ、それから中でもビーフストロガノフが気に入っているんですの。細切りにされた肉が食べやすくて大好きですわ。なかでも牛の肉の焦げる匂いと言ったら……」


 いたずらっぽく微かに口の端を歪めると、彼女はどこからか取り出したマッチを机の端で擦って火を付けると、折り紙に火をつけた。紙の牛は青い炎を高らかに燃え上がらせ、私達の眼前で焼け焦げていく。



「家畜はやはり火を恐れるものなのですか?」


 燃え上がる炎をじっと見つめながら、彼女は軽くミノタウロスにウィンクする。



「喧嘩売ってんのかお嬢さん?」


 背負っていたライフルを持つと、威圧的にガチャン、とレバーを押す。虫酸が走るほど大嫌いな音だ。あのレバーを前後に動かすたびに誰かが死ぬ。そんな音を好きになれるはずがない。

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