番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#12

「こいつぁ驚いたな、おい」


 リーダー格の男が立ち上がって、私の方に歩いてきた。どすんどすんと筋肉で重そうな体を揺らし、皮の下の血管が浮き上がっている。彼に踏まれたら、虫けらのように私は死ぬだろう。



「お前、なんでこんなところにいるんだ? おい」


 そう言って、私のこめかみを肘で小突いた。身動き一つできない私の視界に、ずいっと凶暴な角と、丸い瞳が差し込まれる。臭い息を漏らす口が開き、ずらりと並んだ金歯が、ねっとりした涎をまといながら光る。



「答えろよ、喉は潰してねえだろ。どうしてこんなところにいるんだ?」


 グッグッグ、と化け物は喉の奥で笑う。



「小娘ではありません。タマーラですわ」


 その人は、火傷跡の生々しい右手で頬杖をつきながら、凛とした顔で角ごしに私の瞳を見つめる。まるでここにいる化け物のことなど、存在しないかのように振る舞う。



 そこに店主がやってきたのだが、酒瓶を机の端に置くと、ちりんと鐘を鳴らして店をでていった。店主が見捨てたとあっては、この店に未来はない。旅行者の二人も、すぐさま後を追うように飛び出していった。



「いい酒を飲むじゃあねえか。俺にもおごってくれねえか?」


 急に静かになった店内に、ミノタウロスの低い声が響く。私はそれだけで、冷や汗をかいてしまう。

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