番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#11

 店に入ってきたのは4人のミノタウロスだ。私はそれを見て、心臓が凍りついた。忘れられない、醜い家畜だ。とっさに顔をそらしてしまったが間違いない。


 煤だらけの茶色い軍服のズボンに、ごわごわとした毛並みをはだけた上半身。角には棘付きの鉄の輪っかをはめ、宝飾品のように小さな頭蓋骨を首から下げている。今どきこんなステレオタイプなミノタウロスなんてそうそうお目にかかれない。そして忘れもしない、あのライフル。筒が2つ並んだそれの先には、大きな斧がついている。


 似たりよったりの牛共は私達を無視してカウンターに行くと、水を注文した。彼らがカウンターの椅子に座ると、私はちょっとだけほっとした。カウンターに座れば、こちらを向くことは少ないだろうと踏んだのだ。


「できましたわ!」


 彼女の声で私が振り返るのと同時に、そこにはちょこんとした牛の折り紙ができあがっていた。無数に入れられた切れ込みが影の役割を担い、その繊細さときたら、ガラス細工にも負けない。


「わぁーっ、すっごい! ……あ」


 感嘆の声を上げたことにすぐ後悔した。思わずカウンターの方をみると、座っていた連中の一人、リーダー格だと思われる筋肉が隆々としたミノタウロスが、顔を横に向けて、片目でこちらを伺っていた。


 私は呆然とそいつを見ていた。そいつの黒目が私を品定めするかのように、見る。視線が弾丸になって、私の体を撃ち抜いていくようだった。私はもう震えを隠せなかった。


「すごいでしょう? これはね、セリョーガから教えてもらったんですの。折り方もね。セリョーガも片腕でしたから。私と違って、あの人は右腕でしたけれど」


 目の前の人は、隠しもせずに私に笑顔を向ける。私はこの時、初めて彼女のことがわからなくなった。この人の鍵穴の奥にある闇が、私を飲み込んでしまいそうだった。


 どうしてこの人を信頼していたのか、まったくわからなくなってしまった。もしこの人が、彼らとグルだったら? 逃げ出した私を捕まえるために、平原の稜線の向こう側で待ち構えていたのだとしたら?

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