番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#2
す、と伸ばされた手を机越しに取り、彼女のやけどまみれの右手にキスをする。様々な器具が埋め込まれた、ただれた右手。今は黒い軍服で隠れているけれど、手の甲だけでも、その凄惨さを雄弁に物語る。
ああ、それにしてもこの人の手は、本来どれほど美しかったのだろう。
顔をあげる私に、彼女の耳がきらりと輝いて視線がうつろぐ。そこにはぴんと張り詰めたエルフ独特の耳がある。私にもついているが、彼女の純血的な、張り詰めるような完璧さはない。
そしてそこで揺れる3つの金色のイヤリング。
「夕飯はストロガノフにしましょう。炊事班に伝えておきます」
「あら、気が利きますわね。私もそうしようと思っておりましたの。だって、ふふ。ここに来てから、毎日あれを眺めるでしょう?」
あれ。彼女がこの部屋を選んだ理由だ。
キャスカは一言も発せず、流れ続ける自分の血を一滴、カップに垂らす。中身のラテジーノはただでさえずいぶんと濃く、苦い飲み物なのに。血を入れるとどんな味になるのだろう。
私は彼女が何を指しているのかわかっている証拠に、身を乗り出して彼女のイヤリングをなでる。その手に彼女は頬ずりし、色ごとを覚えた少女のように、私のことをいたずらっぽく見やるのだ。
途端に、頬に紅がさすのがわかった。彼女のこういった表情に、私はいっさい抵抗できない。いいえ、抗いたくない。
「あらあら、かわいいですわね。昔のあなたみたい」
「からかいにならないでください……」
私は上気しながら、彼女の綺麗な金色の髪が床についているのを見つけ、出会った時のことを思い出した。あのときもこんな風に、彼女の金髪が地面に触れるほどかがみこんで話しかけてくれた。
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