番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#3
その日は朝からひどい熱気で、森の中ゆえの湿気と相まって倒れるものが続出していた。
私は家を飛びだし、隣国のシュマインランドの国境沿いの道を歩いていた。シュマインランドの土は白くて栄養がなさそうで、木がない理由がよくわかる。普段はここまで来ることなど滅多になかったが、延々と続く白い道と草原は、気が滅入る。ここが私の住む場所じゃないと、痛いくらいの日差しが言ってきているようだった。
そう思っていると、白い道の先、稜線の向こうから微かに蹄の鳴る音がきこえた。たしかだ。ここ数日で、私の神経は極限まで高まっていた。だが足の数が違う。二人いるってことだろうか。
首を振ってあたりを見回すが、隠れられそうなところはなにもない。だけれど、そんなことはしらねえと言わんばかりに、蹄の音はどんどん近づいてくる!
「っ……」
私は息を呑んで一番背の高い草の間に身を潜めた。自信はなかった。ただそうするしかなかったのだ。この時の私は銃もなければ、罠を作る器用さも持ち合わせていなかった。
蹄の音は私のそばを通り抜けた。
ほっと息をつく。でも頭を上げる気にはならない。相手も息を潜めて待っているかもしれないから。忍耐がないほうが先に見つかるのだと、私は最近になっていやというほど実感させられていた。
耳に届くのは草がさざなむ音だけ。あとは爆発しそうな私の心臓くらいだった。
「どうしました? そんなところで寝転んで」
「ヒーッ!」
真後ろから聞こえた声に飛び上がった!
振り向くと、そこには赤いコートを着て、つばの広い帽子をかぶった人がいた。もののみごとに腰が抜けてしまった。
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