番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#4
首も動かせずに周り込んできたその人を見あげるけども、逆光でシルエットくらいしか見えない。いかにも男性的なシルエットで、私は西部劇の保安官を連想したくらいだ。
「怯えていらっしゃいますね……」
男だと思ったその人の声が実に涼やかに私の胸に届いたことを、今でもはっきり覚えている。優しく、明るく、鈴がなるような声。それに帽子から飛び出たその耳。エルフ特有の尖り耳。
同族だ! その事実は、私にここ数日で一番の安堵をもたらした。
「あっ、ァー……」
喉がカラカラで声も出なかった。空気の鳴る音が自分の骨に伝わるのがわかるくらいで、やけにはりつく喉を濡らすこともできず、ただ壊れた楽器のように音を鳴らしていた。
「ああ、喉が渇いているんですのね。この暑さじゃ仕方がありませんわ」
その人が懐から取り出したのは、古い異国の文字が書かれたスキットル。なだらかにたわんだ薄い水筒だ。それは私の顔ほどもありそうな大きさだった。
その人は膝をついてそれを私に差し出した。私はそれを不躾に奪って、中の水をひたすらに胃に流し込んだ。その間、この人の優しさに感謝しつつも、その人の影からでて光り輝く美しい金髪に、釘付けだった。草の間の白い土に負けないほど、強く輝いて見える。
「あら、私の分は残していただけたかしら」
問いただす声に、私はあっという間に飲み干してしまったことに愕然として、なんとか取りつくろうと声をだそうとした。だけど言葉の出し方を忘れてしまったかのように、何もいえなかった。
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