セカンドヒロインはホラーの香り

 ぬ、と青白いマネキンの顔がでてきやがった!



 目のないくぼんだ眼窩と、尖った鼻のそいつは、僕の顔にすがりつくと耳まで裂けた口をがぱりと開き、牙を剥き出しにする。そいつを映し出すのは空で弾ける砲弾の光だけで、それこそ雷で照らし出される化け物ってシチュエーションまでそっくりだ。



 その時の僕は、ぐっと生唾を飲み込んで顔をそらして、かちこちに固まった。



「ゔぁ……あぁ……がぁ、アァーー!」



 悲鳴とも威嚇とも取れる声をそいつは発する。とにかく、僕が青い顔をして泣き叫んだことだけは確かだった。



「やめろ! 僕みたいな病人を食っても旨くないぞ! 苦いぞ! 薬漬けだから!」



 そう叫ぶと、そいつは首をかしげる。



『ザザッ……。ああそっか。こっちじゃないと伝わらないんだった』



 その声は、質の悪いラジオから聞こえてくるみたいだった。ただ、距離感がなく、耳元で喋られているような感じがする。



『もしもし? 聞こえますかーおーい』



「聞こえる、聞こえます!」



 必死にそう叫ぶと、よかった、と彼女は胸を撫でおろした。その時、僕はそいつが女性らしいということに気づいた。わかりにくいが、カーキ色の軍服に膨らみがあったのだ。



『私はエコー中隊だけど、君もだよね? 私はイオ・ライト二等兵だよ』



「エコー? ライト?」



『冗談きついな、私は君のことを数ヶ月前から知ってるってのに。まあ君にとってはそんなもんか。ねえ前田くん』



 一体全体どういうことなのか、僕はすべてを聞きたかった。ここはどこでなんでいるのかとか、どうして僕の名前を知っているのかとかだ。だけど、そんなことを順序だって聞くよりも、彼女の肌に張り付いた軍服の腰から胸にかけてのくびれに釘付けだった。悪いけど、これに関して僕はバカにされるいわれはない。



 それから、胸の後ろから羽が生えていることに気づく。コウモリに似た羽のない翼だ。



「……飛べるの?」



 数え切れない疑問があるのに、口から出てきたのはそんなことだった。



『もちろん。私、インプだよ。え、なにそこから説明しなきゃいけないの? 新しいくせにそんなに使えないの?』



 あまりに面倒くさそうに彼女が言うので、僕は人に対する態度というものをころっと忘れてしまった。突然の落下で、ハイになっていた部分ももちろんある。

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