空へ落ちる
ああ! だがこの穴の先に広がっていたものを言い当てられるものなどいないだろう!
ここは空だったからだ!
上下左右の感覚がなくなって、僕は何をしたらいいのかも、どこを見たらいいのかもわからずにぐるぐると回転し続ける視界に翻弄されていた。
赤と白の大きさの違う月。
それを遮るように飛びながら、兵士を産み落とす飛行機。
月の色を反射して、2色に輝く海。
海に浮かぶ大勢の、あまりに大勢の鋼鉄製の軍艦達。
必死で事態を理解しようと状況を咀嚼していると、ぐいと後ろに引っ張られる。見ると、そこには自動で開いたパラシュートがあった。やっと天地の区別がつくようになったわけだ。
海の果ての地平線は、かなり平面的だった。ビルの上からでもかすかに地平線を感じることは出来るはずだが、ここでは丸みを見いだせない。高度が低いからそうみえるんじゃないかと思ったけど、そうじゃない。下から降ってくる雨のような対空機銃が撃ち出されてから僕の横を通り抜けるまで、死を覚悟する時間があったからだ。低かったら、そんな心持ちになるまもなく通り抜けているだろう。
星が大きいのだ、と気づいたのはそのすぐあとだった。なるほど、そうなると重力も相当強いはず……とそこまで考え、僕は気づいた。もし地球よりも重力が強いなら、足をついた時の衝撃も相当なものになるんじゃないか。いや絶対にそうだ。ああクソ、こんなことなら興味がないと言わずにカンフー映画で予習しておくんだった。
地面がみるみるうちに近づいてくる。対空砲火をやけに色濃く映し出す地面が近づいてきていた。鏡面のようだ。
目をつぶる。親切な忠告をまったく忘れてしまっていた。こわばった体を突き上げるような衝撃が走る。
幸運なことに、目を開くことができた。恐る恐る、それこそ細く目をあけて足元を伺う。「ぷへえ!」
胸から空気が抜ける。柔らかい水田のような場所に足が突き刺さっていた。やけに空を反射していたのは、水が張ってあったからなのだ。
なんとか足を引き抜こうと、右足に力を入れる。が、ずぶずぶと沈み込むだけだ。おまけに結構深い。膝まで水に浸かるほどだ。角度が悪ければそのまま溺れ死んでいたのではないだろうか、と考えるとゾッとした。
足を引き抜こうと悪戦苦闘していると、近くに何かが落ちる音がした。どぷん、というあの音だ。水の音というのは、どうして暗い場所で聞くとこんなに不気味に聞こえるんだろうか。
勢いよく振り向くと、視界の隅っこに白い影が見えた。怪談では不気味な白いワンピースを着た女、と相場が決まっているが、今回はパラシュートだったみたいだ。
ふう、と胸を撫で下ろしたのもつかの間、自分でも笑ってしまうくらい素っ頓狂な声をあげる羽目になった。
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