番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#15

「きれいなのはここだけ。ここだけは、必死に守り通してきたんですの」


 シャツのボタンを外さず、指でシャツの切れ目を開く。すらりとした綺麗なおへそが、そこから隠れ見える。


 挑発的に。扇情的に。



「ここが一番『良い』と、本能で知っているからかしら」


 まるでここを汚してみろと言わんばかり。



 馬鹿なミノタウロスたちは顔を見合わせ、下卑た言葉を彼女に浴びせかけた。それはもう酷いもので、雄の下劣さと醜さをタールで混ぜ合わせたようなものだった。



 一番槍を買ってでたのは、すぐそばにいるミノタウロスだった。


「テナールの男子、アングスト! 俺が抱いてやるよ、とびきり激しくなぁ! なあ兄弟!」



 カウンターにいた奴らが声を合わせてこう叫ぶ。


「与えよう、酒を!」


「捧げよう、草を!」


「授けよう、命を!」


 彼らの間では、代表的なかちどきだ。



 彼女は頷く。それでいいと言わんばかりに。


 私はこの人を止められなかった。ただ目まぐるしく起こる理解の範疇外の出来事と感情に翻弄されている。このとき私が動いていたら、私の人生は変わっただろうか。そんなもしもが、今でも脳をよぎる。



 彼女はゆっくりとアングスト……彼の名は忘れない、に一歩一歩、もどかしく歩み寄る。


 そして彼女は、彼の耳元でささやくようにこう言った。



「とっても美味しそうだわ」



 素早く抜かれた拳銃に誰も気づかなかった。彼女の腰にさげられた2丁の重たいリボルバーは、彼らの目の前にずっとあったというのに。

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